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11月末にサム・アルトマン(Sam Altman)がOpenAIからCEOの任を解かれた後、OpenAIの社員たちは、全社員を雇用するというマイクロソフト(Microsoft)からのオファーを受け入れて退職するとOpenAIを脅した。
実はこれは大胆な「ハッタリ」であり、ほとんどの社員はマイクロソフトで働くことにまったく興味を持っていなかったと、OpenAIの現役・元社員がBusiness Insiderに明かした。
CEOが突然解任されると、OpenAIの何百人もの社員は、アルトマンの復帰と取締役会の総退陣を要求する公開書簡に署名した。当時、彼らの主な拠り所は、社員全員が退職し、アルトマンとグレッグ・ブロックマン(Greg Brockman)社長がマイクロソフト内の新しいAIグループに加わるという計画だった。
だが結局、OpenAIの社員はこれを実行に移す必要はなくなった。アルトマンとブロックマン、そして経営幹部のほとんどがOpenAIに戻ってきたからだ。新しい役員も就任し、さらに追加の就任も予定されている。
そして今、マイクロソフトに移るという脅しの背後にある真実が明らかになりつつある。
マイクロソフトの内部関係者はBusiness Insiderに対し、OpenAIの社員全員を雇用するのは、マイクロソフト社内では最後の手段とされていたと語る。そしてOpenAIの社員の少なくとも一部の間で、実際にマイクロソフトで働く必要がなくなり安堵が広がっている。
「これは『ハッタリ』のようなものだったのですが、最終的にはうまくいきました」
今もOpenAIの現社員と連絡を取り合っている元社員はそう話す。機密事項について話してくれたこの人物と、Business Insiderの取材に応じた他の人物は匿名を求めた。
また、OpenAIの現役社員の1人は、社員のほぼ全員がアルトマンについていくと署名はしているが、「マイクロソフトに行きたい者はいなかった」ことを認めている。この人物はマイクロソフトを、大手テック企業の中で「一番図体がでかくて一番動きが鈍い」と評する。OpenAI社員による自社評とは真逆だ。
署名へのプレッシャー
多くのOpenAI社員はマイクロソフトに入社することにまったく関心がなかったため、書簡に署名することに「プレッシャーを感じた」はずだとこの社員は話す。
この書簡を起草したのは、長年にわたるテック業界での地位と資本の蓄積、それに高い給料を背景に多大な影響力と資金力を持つベテラン社員のグループだ。彼らは日曜日の夜遅くに他の社員たちに電話をかけ始め署名を促したと、この社員は説明した。
「私たちは皆、スピーディーに動いてエキサイティングなものを作りたくて大企業を辞めたんです。マイクロソフトのような巨大企業の官僚主義は、死ぬほど退屈です」(前出の社員)
今回、OpenAIの社員たちはマイクロソフトに入社していたかもしれないが、アンスロピック(Anthropic)、ハギング・フェイス(Hugging Face)、コーヒア(Cohere)など他のAIスタートアップ企業に入社する機会があれば、おそらくそちらに行っていただろうとその社員は付け加えた。
レガシーテック企業を見下している
これについてはOpenAIの別の元社員も同意し、サンフランシスコを拠点とするスタートアップ企業で働く人たちは、「レガシー企業だとみなす企業を軽蔑し」「自分たちのことを、世界を根本的に変えるイノベーターだと考えている」と語った。
ChatGPTやDALL-EなどのOpenAI製品は、テクノロジーと投資における現在のAIブームの火付け役となった。OpenAIが公言している目標は汎用人工知能(AGI)であり、OpenAIはこれを、「経済的に価値のあるほとんどの作業において、人間を凌駕するパフォーマンスを発揮できる」テクノロジーと定義している。
これは、マイクロソフトの水準をはるかに超えた高い目標である。OpenAIの一部の関係者は、エンタープライズ向けソフトウェアの巨人であるマイクロソフトが、この使命を継続することは不可能だっただろうと考えている。
OpenAIの現役社員はBusiness Insiderの取材に対し次のように話す。
「マイクロソフトと提携してはいても、OpenAIではマイクロソフトの人材をまったく尊重していません。
彼らに管理されると考えただけで落ち着かないのです」
この件についてOpenAIはコメントを控えた。一方、マイクロソフトはコメントの要請に応じなかった。
お金も大きな動機
今回は両社のカルチャーの衝突以外にも、OpenAIの社員にとって重要な要素がもう1つあった。お金だ。もしも社員が大量に流出し、OpenAIが突然倒産するようなことになれば、彼らの目の前から多額のお金が消えていくことになる。
「サム・アルトマンは最高のCEOというわけではありませんが、(アルトマンがCEOに復帰しなければ)数百万ドルものお金と株式を失う危険があったのです」とOpenAIの現社員は話す。
OpenAIの社員は通常、基本給が30万ドル(約4350万円、1ドル=145円換算)からと非常に高給取りであるだけでなく、株式報酬パッケージの価値は典型的には4年間で200万ドル(約2億9000万円)、一部の従業員にとってはそれ以上になるのだ。
笑ってしまうような考え
マイクロソフトは、OpenAIの全社員を同等水準の報酬で雇用することに同意したが、これはその場の勢いによる口頭での合意にすぎなかった。
またOpenAIの別の社員は、アルトマンについていくことで失うことになる株式報酬分をマイクロソフトがOpenAIの退職者に支払うという考えを一笑に付した。
予定されていた株式の公開買い付けは、社員が保有する株式を外部の投資家に売却するもので、中止されることになっただろう。株式はすべて「何の価値もない」ものになっていたはずだとこの社員は語る。
OpenAIの元社員であるこの人物は、退職するという書簡に署名したのは数百人にものぼるが、そのうちの「おそらく70%は、『公開買い付けを完了できるだろうか』と考えていたと思う」と推定している。
彼らの大規模な「ハッタリ」が成功したおかげで、アルトマンはCEOに復帰して、公開買い付けは計画通りに始まり、OpenAIの評価額は800億ドル(約11兆6000億円)を超えた。CNBCによると、公開買付けは1月5日まで延長され、従業員が億万長者になるのが少し遅れることになった(まだ億万長者でないとすれば、だが)。
憤るマイクロソフト社員
一方、一部のマイクロソフト社員は、マイクロソフトが何百人ものOpenAI社員に、これまでと同等の給与を約束したことに激怒している。マイクロソフトがは2023年に1万人以上の社員を解雇し、給与を凍結し、ボーナスと株式報酬を削減しているが、その後で今回の提案がなされたためだ。
あるマイクロソフト社員はBusiness Insiderに語る。
「毎日12時間以上働き、解雇されるのではないかという恐怖を一年中抱えながらマイクロソフトに残った忠実な従業員が数多くいるはずです。そんなさなかにOpenAIがやってくるわけですからね」