アタカマ塩原にある、アルベマール・チリ工場の塩水プール。
REUTERS/Ivan Alvarado/File Photo
- アメリカの火山のクレーターにある鉱床に大量のリチウムが眠っていることがわかった。
- リチウムは電気自動車のバッテリーに使用されている金属だ。
- クリーンエネルギーにとって、リチウムがアメリカで採掘されるのは画期的なことだが、一方ですでにアメリカ先住民たちは苦境に立たされている。
マクダーミット・カルデラ(McDermitt Caldera)という名前にはおそらく馴染みがないだろう。それは約1600万年前に最後に噴火した火山のカルデラだ。だが、リチウムハンターにとって今世紀最大の「金鉱」の発見だった。
科学者たちは2020年、このカルデラには「イライト(illite)」と呼ばれる珍しい粘土に閉じ込められる形で、世界最大量とも言われるリチウムが存在する可能性があるという衝撃的な発見を発表した。
最近の研究はさらに一歩進んでいる。2022年8月、タッカー・パス(Thacker Pass)と呼ばれるマクダーミット・カルデラ南部にあるイライトには、平均約1.8%のリチウムが含まれていると研究者たちは報告している。
この含有量は、リチウムを得るために採掘される主な粘土、マグネシウム・スメクタイトに含まれるリチウム量のほぼ2倍だと2023年9月6日、化学ニュース雑誌のケミストリー・ワールド(Chemistry World)は報じている。
これはいくつかのことを意味している。ジャプロニク(Jalopnik)の報道では、ネバダ州とオレゴン州の州境に位置するマクダーミット・カルデラには1億3200万トン以上のリチウムが含まれている可能性があり、数十年分の世界需要を満たすのに十分な量だという。
また、アメリカには現在稼働中のリチウム鉱山がひとつしかないが、リチウムの大半を他国に依存する必要がなくなるかもしれない。
ミネラル・メイク・ライフ(Minerals Make Life)によると、アメリカには推定800万トンのリチウムが土壌に埋蔵され、埋蔵量の多い世界の上位5カ国にランクされているが、アメリカのリチウム生産量は世界のわずか1%にすぎないという。
リチウムは電気自動車に使用される充電式電池の主要原料であるため、その需要はますます高まると予想されている。
電気自動車のサプライチェーンの需要に追いつくために、アメリカはさらに多くのリチウムを必要としている。マクダーミット・カルデラはその供給源になるかもしれない。
「価格、供給の安全性、地政学的な観点から、リチウムの世界的なダイナミクスを変える可能性がある」とベルキーのルーヴェン・カトリック大学(KU Leuven University)と同国テルビュレンにある王立中央アフリカ博物館(Royal Museum for Central Africa)の地質学者、アヌーク・ボルスト(Anouk Borst)はケミストリー・ワールドに語っている。
ただひとつ問題がある。先住民にとってタッカー・パスは神聖な土地であり、伝統的な薬や食料、神聖な儀式に必要な物資を収穫する場所だとマクダーミット・カルデラのある地域の先住民のコミュニティは話しているとガーディアン(The Guardian)が報じている。
「そこには埋葬地がある。薬や根があり、生態系があり、そこにはまだ生命が残っている」とタッカー・パスに住む先住民族、ショショーニ・パイユート族(Shoshone-Paiute Indigenous)のゲイリー・マッキニー(Gary McKinney)は、アルジャジーラ(Al Jazeera)に語っている。
「気候危機を解決するために、それらのすべてが犠牲になるのだ」
マッキニーは、タッカー・パスにおけるリチウム採掘に反対する先住民グループ、ピープル・オブ・レッド・マウンテン(People of Red Mountain)のメンバーだ。
しかし、連邦裁判所は反対派の差し止め請求を却下し、2023年3月、リチウム・アメリカズ(Lithium Americas)が作業員たちが掘削のためのインフラの建設を開始したとアルジャジーラは報じている。
「このリチウム採掘とその急速な進行は、パイユート族とショショーニ族に対する継続的な人種差別だということを世界の人々は知る必要がある」とマッキニーはNPRに語った。
データ分析や研究を行うアース・オーグ(Earth.Org)によると、リチウムを抽出する工程には、水質を汚染し、土地を劣化させ、地下水を汚染する可能性があるという。またMSCIサステナビリティ・インスティチュート(MSCI Sustainability Institute)によると、アメリカ国内のリチウム埋蔵量の推定79%は、先住民の住む地域から35マイル(約56km)以内に位置しているという。