これを機に、自分が利用できる制度や保有する商品を、今一度見直してみると良い。
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- 10月から制度改正によって、企業型DC加入者もiDeCoを利用できるようになる。
- 現状、企業型DCの加入者となっている人は、「マッチング拠出※」との兼ね合いに注意。
- iDeCo加入者の所属企業が、新しく企業型DCを始めた場合、かなり判断が複雑になる。
※マッチング拠出とは:企業型確定拠出年金(企業型DC)を導入している企業において、企業が出す掛金に上乗せする形で従業員が掛金を拠出できる仕組み。
2022年10月から、企業型DC(企業型確定拠出年金)加入者もiDeCo(個人型確定拠出年金)を利用できるようになります。
これまでは、企業型DCを導入している事業者に勤めている方は、規約の定めなど、条件を満たさないとiDeCoに加入できませんでした。ところが、制度改正によって2022年10月からは、企業型DCと一緒にiDeCoも併用できるようになるのです。
そのため、最近改めて「iDeCoも(を)始めるべき?」と、悩み始めた方も多いはず。主に企業にお勤めの方 で、どんな人がiDeCoにも加入するべきか確認してみましょう。
- 企業型DCとiDeCo併用時の拠出限度額は、合算で5万5000円/月:確定給付企業年金[DB]を導入している企業では、この限度額が2万7500円/月になる。
- 「マッチング拠出」を利用できる場合、iDeCoとの併用は不可で、どちらかを選ばなくてはいけない:マッチング拠出の場合は、事業主掛金よりも多く拠出できない。また、iDeCoの場合は、併用時の限度額は2万円/月となる。
- iDeCoは、運用手数料が170円/月ほどかかる:そのため、最低積立金額は5000円/月だが、「手数料負け」しないように、少なくとも1万円/月は拠出したい。
- 企業型DCもiDeCoも、現金を引き出せるのは、原則60歳以降:それまでにまとまったお金が必要になるかどうかなど、マネープランを考えておいたほうがいい。
では、ケース別の対策を確認していきましょう。
企業型DC加入者は、マッチング拠出に注意
企業型DCを利用している人は、2022年10月から原則的に誰でもiDeCoを利用できるようになります。併用すべきかどうか悩む人も多いと思いますが、特に収入が高い人は要チェックです。収入が高ければ高いほど、企業型DCやiDeCo加入による節税効果(全額所得控除の効果)が高くなるので、検討する価値はあるでしょう。
ただ、「マッチング拠出」制度も導入している企業に勤務している場合、気を付ける必要があります。マッチング拠出とは、企業型DCにおいて事業主が拠出している掛金に対して、自己資金を上乗せできる制度。これを利用した場合、さらにiDeCoと併用はできません。マッチング拠出かiDeCo、どちらかを選ぶ必要があります。
ここで着目すべきは、両者の限度額。マッチング拠出の限度額は「事業主掛金と同額」、iDeCo併用の場合の限度額は「2万円」となります。つまり、
- 事業主掛金が2万円未満の場合 → iDeCoの方が多く拠出可能
- 事業主掛金が2万円超過の場合 → マッチング拠出の方が多く拠出可能
となるので、できるだけ多く拠出できる方を選ぶのも手でしょう。ちなみに事業主掛金が2万円ジャスト、もしくは3万5000円以上なら、両方とも追加できる金額は同じになるので、どちらでもかまいません。
ただし、マッチング拠出の場合は、その企業型DCが用意しているラインナップ内でしか商品を選べません。その一方、iDeCoを併用する場合は、口座開設手数料2829円に加え、運用手数料170円/月ほどが自己負担になるものの、自分で幅広い金融機関や商品から選べるというメリットがあります。
まず、大前提が「年収が高めの人」「家計に余裕がある人」「60歳まで使わないお金で始められる人」。さらに、自社がセレクトした企業型DCのラインナップに物足りなさを感じている人は、iDeCoで新たな世界を覗いてみることも検討していいかもしれません。
既存のiDeCo利用者は、複雑な判断が必要
今回の制度改正は、確定拠出年金をより使いやすくして、利用者の裾野を広げることが狙いです。そのため、この機会に企業型DCを導入する事業主も増えるかもしれません。しかし、すでにiDeCoを利用していた人の会社で、新たに企業型DCが導入された場合、どうしたらよいのでしょうか。
この場合、企業の規定や個人の状況によってさまざまなケースが想定されるため、かなり複雑です。本稿でカバーしきれない部分も多々あるのですが、よくある質問に答えていきましょう。
Q.iDeCoを利用しているので、企業型DCは放置してもいい?
A.まず、企業型DCは、掛け金も手数料も原則会社負担です。なので、「企業型DC+iDeCo」の拠出限度額5万5000円/月に達してないなら、そのまま放置しても何か大きな損をするわけではありません。
ただし、企業型DCは、会社が選定した運用商品のラインナップから、自分で選ぶことになります。何もしないと、投資信託などの投資性商品ではなく、「定期預金」が初期設定になっている場合もあるので、必ず一度は確認しましょう。
その際に、投資性商品が怖いので、定期預金をあえて選ぶ人もいます。ですが、現在は超低金利なので、定期預金ではなかなか資産を増やせません。リスクはあるものの、投資信託を選んだ方が資産を増やせる可能性は高いです。10年以上の長期で積み立てていける場合は、世界経済の波に乗れるような、全世界株式のインデックスタイプを選ぶと良いでしょう。
なかには、「企業型DCに加入するかどうか」を選べる企業もあります。加入しない場合は、給与またはボーナスなど、現金で付与される場合が多いようです。
ですが、どうしても現金が必要な場合を除き、基本的には企業型DCに加入する方がよいでしょう。投資結果によっては増やすことも可能になりますし、そもそも企業がお金を出してくれるため、自己負担があるわけではありません。また、企業型DCの掛け金が全額所得控除になり、税金が軽くなるのもメリットです。現金で受け取ると、税金や社会保険料を引かれることになります。
Q.iDeCoへの支払いを停止して、企業型DCに一任した方がいい?
A.自己負担をなくしたいなら、そういう選択もありえます。また、所属企業がマッチング拠出を導入しているなら、拠出限度額との兼ね合いもありますが、いままでのiDeCoへの支払い分を企業型DCへ加算することも可能です。そうすることで、iDeCoの運用手数料170円/月ほどを削減できます。
ただし、iDeCoでの積み立てを停止した場合は、それまでの資産を運用し続けるために、事務委託手数料が66円/月ほどかかる点には要注意です。
Q.iDeCoを移管して、企業型DCに絞る?
A.「せっかく企業型DCが始まるなら、iDeCoから移管したほうがよいか」と考える人もいるかもしれません。手数料の自己負担がなくなる分、より身軽になります。
ただし、その場合、注意点がひとつあります。企業型DCにまとめてしまうと、商品セレクトの自由度が減るという点です。すでに加入済みのiDeCoのラインナップが気に入っている、または会社で選んだ企業型DCのラインナップが気に入らないということがあれば、併用することを検討した方がいいでしょう。
また、移管するということは、iDeCoを一度「現金化」するということを意味します。つまり、もし元本割れしていた場合は損失が出てしまうので 、タイミングによっては要注意です。
ちなみに、投資性商品を選んだ場合、相場の上げ下げの影響を受けますので、一時的に元本割れをするケースはあります。10年以上などの長い目で見て考える必要があるため、短期間で判断せず、そのままiDeCoを続けていくことで資産を増やせる可能性もあります。
何もしていない人は、まず確認から
では、いずれも利用していない人は、老後資金の準備に向けて、何を始めたらよいのでしょうか。基本的に企業型DCは、勤務先で取り扱いがないと利用できないため、iDeCoが選択肢になります。
ただし、企業型DCは、「しっかり説明を聞いていなかったので気付かなかったけれど、実は加入していた」という人もいます。また、企業型DCがあるけれど、実は加入せずに現金を受け取っていたというケースもあります(前述したように、毎月現金が必要でない限り、企業型DCを選んだ方が、税金面でもお得になります)。ぜひ、自分の会社が企業型DCを導入しているかどうかを確認しましょう。
まとめ
企業DCとiDeCo、併用するか否かの判断基準は、「所属企業の規定」「商品ラインナップ」「手間」「手数料」「タイミング」など、さまざまです。これを機に、自分が利用できる制度や保有する商品を、いまいちど見直してみると良いかもしれません。
老後資金の準備は、早いうちから始めれば、のちほど大きな安心感を得られます。まずは仕組みを理解し、無理のない方法で始めてみてください。
(文・西山美紀)