ワクチンの臨床試験(2020年3月16日、アメリカ)。
Ted S. Warren/AP
- 新型コロナウイルスの抗体は数カ月しか続かないかもしれないとする研究結果が相次いでいる。
- わたしたちは新型コロナウイルスに何度も感染する可能性がある。
- これは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンにも影響がある。専門家によると、わたしたちは定期的にワクチン接種をする必要がありそうだという。
わたしたちは皆、新型コロナウイルスのワクチンができるのを待ち望んでいる —— 全ての人が注射を打ってもらい、"普通"の生活に戻れることを。
だが、それには多くの問題がある。その1つが、ワクチン接種は複数回必要になるだろうということだ。
新型コロナウイルスの抗体は数週間から数カ月で消えるとの研究結果が相次いでいる。つまり、ウイルスに対する免疫 —— それが感染の結果であれば、ワクチンによるものであれ —— は一時的なものかもしれないということだ。
そうであれば、わたしたちは未来の感染から身を守るために、ワクチンを接種してから2、3週間後にもう一度ワクチンを打つ必要がありそうだ。
専門家の中には、定期的にワクチン接種が必要になるかもしれないと指摘する声もある。
「免疫が一時的なものと分かれば、わたしたちはワクチン接種にブースター(追加の予防接種)をプラスまたは定期的なワクチン接種の計画が必要になるだろう」と疾病生態学者のマーム・キルパトリック(Marm Kilpatrick)氏はBusiness Insiderに語った。
製薬会社はすでに"2度のワクチン接種"を計画
麻疹(はしか)やおたふく風邪、風疹など、数多くのワクチンが複数回のワクチン接種を必要としている。
新型コロナウイルスのワクチン開発をリードする企業の中には、その臨床試験の中で3週間を挟んで2度、ワクチン接種を行っているところもある。ファイザー(Pfizer)もその1つだ。初期データは、2度のワクチン接種が免疫系の反応を高めると示していて、ファイザーの研究者たちは2度目のワクチン接種から1週間後に中和抗体のレベルが最も高くなることを確認したという。
モデルナ(Moderna)の臨床試験も4週間を挟んで2度のワクチン接種を行っている。一方、アストラゼネカ(AstraZeneca)の臨床試験は、1度だけワクチン接種を行うグループと1カ月を挟んで2度ワクチン接種を行うグループに分けて行われている。
ワクチンの臨床試験(2020年5月4日、アメリカ)。
University of Maryland School of Medicine/AP Photo
「恐らくワクチン接種は2度になるだろう。悲観することではないが、1度のワクチン接種ほど便利でないことは間違いない」と感染症の研究者クリストファー・ギル(Christopher Gill)氏はWBURに語っている。
不可欠な2度目のワクチン接種のために人々にもう一度来てもらうのは、簡単ではない。
例えば、アメリカでは、子宮頸がんの主な原因ウイルスであるヒトパピローマウイルス(HPV)の1度目のワクチンを接種した若い女性のうち、 必要な残り2度のワクチン接種のために戻ってくるのは3分の1以下であることが研究で分かっている。
加えて、"2度のワクチン接種"ということは、リソースがすでに限られている中、薬瓶、注射器、病院を訪れる回数、そして時間も2倍かかるということだ。
"ブースター"が必要?
1度であれ、2度であれ、最初のワクチン接種の後も、定期的な"ブースター(追加の予防接種)"が必要になるかもしれない。
A型肝炎や麻疹(はしか)といった一部のウイルスは、一度感染すれば(または予防接種を受ければ)一生免疫が続く。
「コロナウイルスはそうではない」と、マウント・サイナイ・アイカーン医科大学のワクチン学者フロリアン・クラマー(Florian Krammer)氏はBusiness Insiderに語っている。「わたしたちは免疫が下がるたびに繰り返し感染する可能性がある」という。
Thomas Peter/Reuters
新型コロナウイルスの場合、免疫がどのくらい持続するのか、科学者たちはまだ十分に研究できていない。ただ、ヒトコロナウイルス(風邪の原因になる)には、わたしたちは繰り返し感染する。
メイヨー・クリニックによると、「新型コロナウイルスに感染した後、数カ月または数年後に再び同じウイルスに感染する —— 大抵、症状は軽く、ほんの一部の人にしか起こらないが —— 可能性がある」という。
ただ、最初のワクチン接種の後、人々が再感染しやすくなっても大きな問題ではないとクラマー氏は話している。
「これは多くのワクチンに起きることだ。問題はない。もう一度、ワクチンを接種できる」という。
これが"ブースター"だ。例えば、破傷風の場合、10年ごとに追加の予防接種を必要とする。新型コロナウイルスの場合、問題はブースターが必要になるのが数カ月単位なのか、数年単位なのかということだ。
Carl Recine/Reuters
ワクチン学者で、アメリカの国立予防接種プログラム(National Immunization Program)の元ダイレクターでもあるウォルター・オレンシュタイン(Walt Orenstein)氏によると、追加の予防接種がプロトコルの一部になるかどうかはワクチンが本格展開されるまで専門家にも分からないという。
「ワクチンの失敗が増え始めれば、わたしたちは追加の予防接種を検討するだろう。だが、今の段階でそれが必要になるかどうかは分からない」とオレンシュタイン氏はBusiness Insiderに語った。
ただ、定期的な追加の予防接種が必要となると、人々がからだを守るために必要な予防接種を受けられる可能性は低下するだろう。
「スケジュールが複雑になれば、人々に予防接種を受けに来てもらうのは難しくなる」とオレンシュタイン氏は言う。
同氏は、州や自治体の当局は、必要なワクチン接種を受ける重要性について人々に教育を始めるべきだと、付け加えた。
「ワクチンは命を救わない。ワクチン接種が命を救う。ワクチンは薬瓶の中にあっても全く効果はない」
(翻訳、編集:山口佳美)