動画アプリ「TikTok」 が10代を中心に爆発的なブームになっている。
音楽に合わせて、15秒程度の短い動画を共有するアプリだ。動きに合わせて特殊効果をつけるなどの編集が手軽にできる。
2018年第3四半期の世界アプリ市場ダウンロード数で1億8500万件を記録したTikTok。
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日本進出は2017年8月とまだ1年余り。当初は“子どもはみんな知っているが、大人は誰も知らない”存在だったが、今夏以降は積極的に広告を展開したこともあり、経済紙などビジネスメディアに取りあげられる機会も増えてきた。
中国初のグローバルアプリ
流行は日本だけにとどまらない。米調査会社のセンサータワーによると、2018年第3四半期の世界アプリ市場ダウンロード数でTikTokは1億8500万件を記録。インスタグラムを上回る第4位の座を得た。
運営企業の字節跳動(ByteDance、バイトダンス)は中国企業だ。WeChatやアリペイなど中国国内で圧倒的なユーザー数を持つアプリはこれまでにもあったが、国外でこれほどのユーザーを獲得した中国発のアプリはこれまでになかった。中国初のグローバルアプリとしても注目を集める。
運営企業のByteDanceは2012年創業のスタートアップだが、 最新の資金調達ラウンドでソフトバンクグループやアリババグループなどから出資を得たという。資金調達以前の評価額はすでに750億ドルに達していた。 。アリペイを展開するアント・フィナンシャルに続く、世界第2位のユニコーン企業に躍り出た。
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武器はAIリコメンド
破竹の快進撃を続けるByteDanceとはいったいどのような企業なのか。
創業者の張一鳴は1983年生まれ。まだ35歳という俊英だ。2005年に天津市の南開大学ソフトウェア・エンジニアリング学院を卒業後。旅行検索サイトの「酷訊網」、不動産検索サイトの「九九網」の立ち上げに携わったシリアルアントレプレナー(連続起業家)だ。
2012年3月にByteDanceを起業すると、続々とスマートフォン・アプリをリリースしていく。
最初にヒットしたアプリが今日頭条。日本のスマートニュースに似た、ニュースサイトやブログの記事を集めたアグリゲーションアプリだ。さらに笑えるジョーク映像やユーザーの投稿を掲載する動画アプリの西瓜視頻、抖音、火山視頻などショートムービーでも成功を収める。
ByteDanceが最初にヒットさせたニュースアプリ今日頭条。
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2016年からは海外展開に乗りだし、Top Buzz(今日頭条の海外版)、Buzz Video(西瓜視頻の海外版)、TikTok(抖音の海外版)、Vigo Video(火山視頻の海外版)を展開している。
ニュースとショートムービーではまったくの別ジャンルにも思われるが、ByteDanceは一貫した基盤を持っている。それは“AIによるリコメンド”だ。
ニュースにせよ、動画にせよ、ユーザーが興味を持つコンテンツを選んで提示する、極めて強力なパーソナライズ・リコメンド機能が特徴なのだ。
友人の編集者MさんはTikTokを研究するため夫婦でアプリをインストールしたところ、翌日には2人のアプリで表示されるオススメ動画はまったく別物になっていたという。奥さんのアプリには子どものかわいい動画がずらり。Mさんのスマホにはセクシーな女の子が踊る動画ばかりになっていたのだとか。
そしてもう一つの特徴は、今見ているコンテンツから次のコンテンツへの遷移がとてもスムーズということだ。スマホの画面をスワイプするだけで新たなコンテンツに切り替わる。自分の好みのコンテンツが次から次へと無限に流れてくるのだから、延々と時間を潰せてしまう。その結果、今日頭条ユーザーの1日あたりの平均利用時間は80分強、TikTokは50分強に達している。
中国インターネットの三強の一角に
中国調査企業Quest Mobileの報告書「中国モバイルインターネット2018年秋季大報告」によると、今日頭条、TikTokなどのByteDance系アプリは中国モバイルインターネットユーザーのアプリ利用時間の9.7%を占有し、テンセントの47.3%、アリババグループの10.4%に次ぐ第3位の座を占めた。
AIによるリコメンド機能を強みに、さまざまなアプリをヒットさせたByteDance。
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中国インターネット業界を支配する三大企業は長らくBATと言われてきた。検索のバイドゥ、EC(電子商取引)のアリババグループ、メッセージアプリのテンセントの頭文字を取った言葉だが、ByteDanceはこの三強の一角を崩した。
前述のとおり、ByteDanceの評価額は直近の資金調達前で750億ドルと算定され、NASDAQに上場しているバイドゥの時価総額640億ドル(2018年11月12日時点)を上回っている。長年続いたバイドゥ、アリババグループ、テンセントという三国志の構図が塗り代わり、ByteDanceは中国インターネット業界の新たな顔となろうとしている。
野心はここで終わらない
中国経済誌『財新』によると、ByteDanceはさらに資金調達をし、2019年の上場、そして3年後には時価総額2000億ドルを目指すと表明している。
ニュースアグリゲーションアプリはともかくとして、流行り廃りが激しい動画アプリで継続的な成長が見込めるのか疑問を呈する声もあるが、ByteDanceはTikTokをたんなる娯楽アプリではなく、動画をメインとしたソーシャルメディアとして育て上げることを狙っている。
さらに2017年からTikTokにEC機能を追加。広告プラットフォームに加え、ショッピングプラットフォームとしての展開も始めている。業界の既存構図を乱すニューカマーの存在は大きな波紋を呼び起こしている。
TikTokへの反撃を開始したテンセント。
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中国モバイルインターネットの覇者であるテンセントは、TikTokに似たショート動画アプリの微視などのアプリを投入、反撃を開始した。またWeChatのSNS機能からはTikTokへのリンクを貼れないようにするなど、すでに火花が飛び交っている。
アリババグループは10月のラウンドに参加し表面上は友好関係を保っているが、ByteDanceがECに参入した以上、将来的な衝突は避けがたいとの見方も強い。
海外でもFacebookがTikTok対抗アプリを開発中だと報じられるなど、競争は激化しそうだ。中国初のグローバルアプリ「Tik Tok」を生み出したByteDance、業界のニューカマーはどこまで走り続けるのだろうか。
高口康太(たかぐち・こうた):ジャーナリスト、翻訳家。 1976年生まれ。二度の中国留学を経て、中国の経済、社会、文化を専門とするジャーナリストに。雑誌、ウェブメディアに多数の記事を寄稿している。著書に『なぜ、習近平は激怒したのかー人気漫画家が亡命した理由』『現代中国経営者列伝』。