マイクロソフトのCEOサティア・ナデラ氏
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- サティア・ナデラは2014年にマイクロソフトのCEOに就任した時、経営幹部全員にある本を購入して渡した。『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法 (原題:Nonviolent Communication)』だ。
- 当時、マイクロソフトは敵対心や内輪もめ、裏切りのカルチャーで有名だった。
- 『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法』は、コミュニケーションにおける思いやりと共感を説いている。誰にでも役に立つ教訓が含まれている。
サティア・ナデラが2014年にCEOに就任した時、マイクロソフトは幹部の間に敵対心や内輪もめ、裏切りのカルチャーがあることで知られていた。
この状況を変えようと、ナデラは経営幹部たちに心理学者マーシャル・B・ローゼンバーグの書籍『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法 (原題:Nonviolent Communication)』を読ませた。最初の幹部会議で全員に1冊ずつ手渡したのだ。
これは、前任のスティーブ・バルマーとは違う方法でマイクロソフトを経営しようというナデラの意図を示すものだった。
『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法』の中でローゼンバーグは、思いやりや共感が効果的なコミュニケーションのベースになると説いている。
筆者も読んでみた。マイクロソフトの幹部以外にも役に立つ教訓を見つけた。
最も重要な3点は以下のとおり。
1. 効果的なコミュニケーションの4要素
本書によると、効果的なコミュニケーションは以下の4つの要素で構成される。
- 何が起きているのかを観察する(例えば、誰かがあなたの気に入らないことを言ったり、行ったりしている時)。
- そうした行動を観察した時の感情を言葉にする。
- 感情に基づくニーズを伝える。
- 具体的な行動を求め、あなたが望むことに取り組む。
本書ではこの4要素の例として、10代の息子に対する母親の言葉を紹介している。
「フェリックス、コーヒーテーブルの下やテレビの横にある、汚ない丸まった靴下を見ると、私はイライラする。家族の共有スペースはもっときちんとしたいから。靴下は自分の部屋に持っていくか、洗濯機に入れてくれる?」
2. 観察はしばしば、評価によって不鮮明になる
ローゼンバーグは、コミュニケーションが上手な人は、状況の観察を状況の評価や判断から切り離すことができると述べる。
例えば、「ジャニカは働き過ぎ」という文章には評価が含まれている。
つまり、働きすぎという表現は主観的で、仮にジャニカが聞くと批判されたと受け取り、警戒するようになる。
一方、「ジャニカは今週、オフィスで60時間以上過ごした」と言えば、評価を含まない観察となる。
ローゼンバーグも、かつて「評価抜きの観察は、人間の知性の最上の形」と聞いた時、はじめはその考え方に対して否定的だった。
「はじめてその一文を読んだ時、まず頭に浮かんだのは、『ナンセンス!』ということ。だがその後、まさに自分が評価していたことに気づいた」と同氏。
「ほとんどの人にとって、観察すること、特に人々やそのふるまいを評価や批判、あるいは何らかの分析抜きで観察することは難しい」
3. 感情についてのボキャブラリーを鍛える
本書で最も興味深いパートは、自分の感情を明らかにし、表現することを学ぶ章。
感情を表現する時に、曖昧で一般的な言葉よりも、具体的な感情を表す言葉を使った方が良いとローゼンバーグは述べる。
幸せ、興奮した、ほっとした、あるいはどんな言葉でも、あなたの感情をより正確に表現できる言葉があるならば、単に「良い」と言うのはやめる。
「『良い』『悪い』といった言葉は、あなたが実際に感じているかもしれない感情を聞き手が素直に理解するための妨げになる」
さらにローゼンバーグは、あなたの実際の感情を表す言葉と、他人の行動をどう考えているかを表す言葉は区別する方が良いと述べる。
例えば、「一緒に働いている人たちにとって、私は重要な存在ではないと感じる」と言うと、あたかもあなたの感情を表現しているように聞こえる。だが実際は、あなたに対する他人の評価について、あなたがどう考えているかを表している。
根底にある感情は、悲しみ、落胆のようなものだろう。
「無視されているように感じる」と言うと、あなた自身の感情を表現しているというより、むしろ他人のあなたに対する行動についての解釈となる。放っておかれた、だまされた、軽んじられた、利用されたなども同様。
「感情についてのボキャブラリーを鍛えることは、自分の感情を明確かつ具体的に捉え、表現することにつながる。そうすることで、我々は互いにより簡単に通じ合うことができる」
※敬称略
(翻訳:仲田文子、編集:増田隆幸)