「混乱のテスラ」 —— 。
経済ニュース専門局CNBCは8月15日(米東部時間)の株式市場引け後にこう伝えた。 米証券取引委員会(SEC)は同日、米電気自動車(EV)大手テスラに対し、召喚状を送ったとロイター通信などが伝えた。
イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が8月7日、同社株式の非公開化について「資金を確保した」とツイートしたことに対し、SECが株価操作の疑いで、正式に調査を始めたとみられる。
テスラ株非公開化についてのマスク氏のツイートが新たなテスラリスクとなっている。
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マスク氏は8月7日、Twitterで、
「1株当たり420ドルでテスラの株式を非公開化することを検討中だ。資金は確保した」
とツイート。
同社は2010年に株式を公開しているが、突然の非公開化の方針やSECの召喚状で、株価は乱高下している。 マスク氏の非公開化ツイートで、テスラ株は7日午後の取引で一時売買停止となったが再開、終値は11%高の379ドルで引けた。買取予定価格が420ドルであれば、前日6日終値に22%超上乗せした水準で、時価総額は約720億ドルとなる。全株主が非公開後に株主に止まらなかった場合、それだけの買収資金が必要となる。
ブログの説明でも詳細不明
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しかし、株主からの買い取りなどの資金をどう調達するのかは、ツイートでは不明だった。 非公開化という異例の決断を、取締役会にかける前にツイートしたため、マスク氏の本意について憶測するコメントがTwitter上で飛び交った。マスク氏は8月13日のブログでやっと、「資金は確保した」とツイートした背景や非公開化の概要を示した。
ブログによると、マスク氏は2017年、サウジアラビアの政府系ファンドからアプローチを受け、非公開化の支援をするという申し出を受けたことを明らかにした。ツイート後もファンドと接触し、サポートの意思を確認、非公開化の計画を進めるように促されたという。
同時にマスク氏は、サウジの投資ファンドや主要株主との交渉を続け、株主に対し詳細な計画を示すことを確約したが、「現在は時期尚早」とした。420ドルの買い取り価格は、非公開化後に株主としてとどまらない場合に適用し、「最良の場合」約3分の2の株主が止まる見込みであるため、700億ドル超の資金を必要としないという考えも示した。計画は、取締役会による特別委員会によって精査され、最終計画は株主投票で決定する、とブログでは明らかにした。
精神状態を不安視する声も
しかし、マスク氏の長いブログも投資家を落ち着かせることはできなかった。株価はツイート直後の高値には戻っていない。SECの召喚状送付のニュースを受けて、同社株は8月15日、前日終値より2.5%下落し、338ドルで引けた。15日午後4時現在、テスラもマスク氏もツイートはしていない。
ニューヨーク・タイムズは、「取締役会は、マスク氏の精神状態を問うべきだ」と指摘した。ブログによる説明で、かえって非公開化には不明な点が増し、「資金を確保した」とする裏付けはないとしている。ツイートについては「衝動的で、不正確な可能性があり、ボキャ貧で、思慮も浅い」と手厳しい。
同紙はマスク氏の精神状態について、2017年7月のツイートを引用。
「現実は、最高と最低の浮き沈みと、絶え間ないストレスだ。後者については、誰も知りたくないだろう」
と告白。躁鬱病かという質問に対し、「Yeah」「医学的にではないが、よくわからないよ」ともツイートした。
ニューヨーク・タイムズは同時に、取締役会のメンバーが「ツイートはやめてくれ」とマスク氏に要請したとも報道した。これに対し、「マスク氏は、トランプ大統領みたいだ」というツイートまで出現している。
ハーヴィ・ピット元SEC委員長もブルームバーグに対し、「彼のツイートには、驚愕した。法的なコミットメントもない」と話している。
モデル3の生産目標達成できるか
「モデル3」の生産の遅れがマスク氏の精神的な負担となっているとの見方もある。
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マスク氏の精神状態だけでなく、テスラ自体の行先も不透明になってきた。
バークレイズのアナリスト、ブライアン・ジョンソン氏は、投資家はテスラ株を手放した方が、非公開化計画が頓挫するリスクに見舞われるよりも望ましいかもしれないという、ショッキングなレポートを発信した。
ジョンソン氏のテスラ株の投資判断は「売り」相当で、目標株価は現在より100ドル安い210ドル。したがって、投資家はテスラ株を今のうちに売却するか、マスク氏が示した自社株買い取り水準である1株420ドルを受け入れるかを選ぶべきだとする。ジョンソン氏のレポートを見て、用心深い投資家が売りに走る可能性もある。
テスラは非公開化「ショック」が訪れる前から、投資家にとっては、心配が絶えない企業だ。「モデル3」の生産の遅れが、2017年から取りざたされていた。ロイター通信は2018年7月、週5000台という「モデル3」の生産目標を達成するため、6月最終週にテスラがあらゆる手段を尽くしたと報じた。マスク氏は、工場内でエンジニアに怒鳴り散らしていたという。
「モデル3」に集中するあまり、他のモデル2つの生産が遅れているともいわれている。 「モデル3」は、赤字続きの収益を改善させる頼みの綱だ。既存の自動車業界に対し、EVベンチャーが大量生産できることを見せるチャンスでもある。
8月には目標の生産台数に達するとしているが、現在のところ可能なのかどうかはわからない。
(文・津山恵子)