6月22日にmixi社長に就任した木村こうき社長(8月1日撮影)。
創業21年目のmixiにとって、2018年は勝負の年になりそうだ。
5月に開示した2018年3月期の通期決算では、売上高が1890億円(2017年2072億円)、営業利益は724億円(同890億円)。2017年対比で減収減益とはいえ、それでも通期の営業利益率38%と十分に高水準だった。
一方、今期FY2019年業績予想では、売上高は1750億円、営業利益480億円(営業利益率27%)と厳しい予想を立てている。実際、8月9日に公表した第1四半期決算は、売上高346億円(昨年同期比-28.3%)、営業利益110億円(同-45.4%)。mixi経営陣の予想どおり、険しいスタートを感じさせるものだった。
木村こうき社長は、第1四半期決算の質疑の中で、主力事業のスマートフォンゲーム「モンスターストライク」(モンスト)の実績について「当初の第1四半期の予測に対して下ブレしている。特に(ユーザー1人あたりの)課金の単価が下ブレの要因」と説明した。
下降基調が明確とはいえ、mixiはいまだ十分な売上高と営業利益を持つ企業だ。目下の課題にどう取り組み、いかにモンストの次の柱を作っていくのか?
第1四半期決算直前の8月初旬、木村社長が、その胸の内を語った。
チケキャン問題とは何だったのか?
運営していた時点のチケットキャンプの公式サイト。現在はサービス提供終了にともなう、注意書きが表示される状態になっている。
木村氏は、115億円で買収した子会社フンザの「チケットキャンプ」(チケキャン)をめぐる不祥事で辞任した森田仁基前社長に代わって、6月に新社長に就任した。
「チケキャン問題」(※)を木村氏がどう総括するのかは、今後、企業買収による事業拡大も視野に入れるmixiの進む方向を考える上で、一定の重みがある。
※チケキャン問題とは:チケットの二次流通サービス「チケットキャンプ」をめぐり、2017年12月に商標法違反などの容疑で、mixiの子会社で運営元のフンザが家宅捜索を受けた問題。チケットキャンプはその後、2018年5月にサービスを閉鎖した。同問題をめぐっては、法人としてのフンザのほかmixi元社長の森田仁基氏ら3人が書類送検されている。
木村氏はチケキャン問題について、企業としての甘さが招いた、と振り返る。
—— そもそも、チケキャン問題はなぜ発生したのでしょうか。
木村氏:端的に言えば、私たちの若さ、若さゆえの甘さだったと思います。私たちは創業20年ほどになりますが(注:mixiは2017年11月に20周年を迎えた)、かなりベンチャー気質の強い会社です。SNSのmixi、そしてモンスターストライクで一斉を風靡したように、10年に一発のホームランを打てれば良い、既成の概念にとらわれずに新しいチャレンジをしようと、やってきました。
規模を拡大する中で、M&Aをしながら拡大するという選択をしていた時期がありました。そのとき、いわゆるPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス。プロジェクト支援の専門チーム)であるとか、子会社に対するガバナンスなどの部分が非常に甘かった。第三者委員会から指摘されたように、“全然なっちゃいなかった”というのが実情だったと思います。
木村氏は、チケキャン問題以前のmixiを、「性善説でやっているところがある会社だった」と表現する。同じ企業風土から生まれたサービスだけの企業であれば、前社長の辞任に発展するようなリスクを抱え込む前に、問題に気づくこともできたかもしれない。
しかし、買収したフンザの企業文化は、「必ずしもそう(同じ)ではなかった」(木村氏)。それがmixiの弱い部分だった、と率直に認める。
今後、チケキャンと同じ問題を起こさないためにmixiは何を取り入れるのか。
木村氏は「構造の改革」と「マインドの改革」の2つを挙げた。
木村:構造の改革に関しては、(従来の管掌役員に代わって)執行役員制度を設けたことで、経営や監督の機能を分解しました。執行役員に関しても、事業をする執行役員とガバナンスや子会社管理のための執行役員と役割を大きく、分けました。執行役員を一気に12人に増やして、その役割分担をきっちりやっています。
また社外取締役でも弁護士の先生を1名追加しました。外部から見て、コンプライアンスやリーガル的に問題がないのか、きつく言ってもらえる体制にしています。
社外取締役が1/3を占めるようにもなりました。内部の取締役だけで物事を勝手に決めるのではなくて、外からの意見を頂きながら進めていくようにする。一般的には当たり前かもしれませんが、私たちとしては初めてそういう体制にしました。
2点目のマインドですが、 構造をいかに合理的にしようとも、経営者の道徳というのが最も重要だと思うんです。そこに関しては、私自身も今回の件を念頭に置きながら、企業として社会に対してどのような価値を届けていけるのか、あるいはどういうスタンスで企業を経営していかなければならないのか、強く肝に銘じておくことが重要だと思っています。
「モンストの次」を産む1000億円の使い方
FY2019の第1四半期決算説明会にて撮影。mixiはここ最近、モンストに続く「次の柱」への課題について、こうした場で言及することが増えている。
mixiは既に始まっているFY2019で、各事業分野に総額150億円の投資を決定し、中長期の方針では3〜5年で1000億円規模の大規模投資の方針も明言している。
1000億円の使い道について、木村氏は「ヒットの確率×ヒットの距離」という考え方を挙げ、「(mixiの得意分野である)ゲームやデジタルエンターテインメントの領域に対して投資していく比率が多いと思う」と語る。
木村氏:いま力を入れているのはゲームの新作やアニメーションです。アニメに関しては年間2桁億円投資で、モンストのアニメはもちろん、(オリジナル)IPのアニメを作っていくことに力を入れています。
その次に力を入れる領域は、おそらくスポーツ、あるいはウェルネスという順番になってくるでしょう。
スポーツに関しては、来期(FY2020)以降に私たちが目指している世界観を提案できると考えています。そうすると、一気に見通しの幅が広がっていきます。あるいは良い出会いがあれば、M&A(企業買収)も積極的にやっていきたい。(公表しているロードマップにはない)隠し球もまだあります。……と言うと、広報に怒られてしまいますが。
FY2019第1四半期決算説明会で示されたスライド。新規IPとしてゲーム作品「モバイルボール」を今冬配信予定。
XFLAG ANIME(mixi)の長編オリジナルアニメ「約束の七夕祭り」。YouTubeで全編を公開している。
mixiはウォルト・ディズニーのようなビジネスモデルをめざす
mixiの決算でたびたび話題になる「モンストの次」は、どんな考え方の下で検討されるのか。事業の「数」を打って探し出すのか、あるいは特定の領域に注力するのだろうか?
mixiの考えは、そのどちらでもない。木村氏は、mixiの社内表現だという「滲出」(しんしゅつ)という言葉を使って説明する。
木村氏:私たちは「滲出」という言葉をよく使います。進んで出る(進出)ではなく、滲み出る。私たちの強みを持っている領域から、徐々に滲み出していき、シナジーが強いところに徐々に手を伸ばしていく。これが基本戦略です。
私たちは組織の能力としてゲームを創る組織があり、今ならアニメーションを作る組織もあり、YouTuberも抱えて、動画を編集するチームもある。商品企画のチームもある。まだ発表していない新しいものも、組織として作っていこうとしています。
木村氏はmixi社長就任に前後して、ゲームやスポーツ、シニア向けのウェルネス事業まで含めて、すべての事業が「コミュニケーションサービス」という1つのドメインだというメッセージを繰り返し発している。
コミュニケーションサービスの「垂直統合」で大きな世界観をつくっていく、というのが木村体制の考え方だ。
モンストをはじめとする各種ゲームや、スポーツ、アニメ、イベントなどの主力事業を手がけるXFLAGスタジオ。
木村氏:(ビジネスモデルとしては)おこがましい言い方かもしれませんが、ウォルト・ディズニーさんが近いと思っています。彼らはストーリーを作って、それを映画、アニメ、ディズニーチャンネルなどで配信して、収益化できます。
またパーク事業(ウォルト・ディズニー・ワールドなど)をやっていらっしゃって、映画で育てたキャラクターを、その世界観で(ファンの人たちに)楽しんでもらうこともできる。
私たちもゲーム単体で楽しんでいただくだけではなく、アニメであったりXFLAG STORE心斎橋という(リアルな)ショップで体験していただいたり、「複合的なエンターテインメント」を提供するのが私たちの戦い方だと思っています。
それらをスポーツの領域に展開して行くことも検討しています。1つはスマートフォンを使ったスポーツのメディアづくり。スポーツを題材に友達と集まったり、コミュニケーションを取ったりなどを目的にします。あるいは スポーツ選手に直接課金をしてもらったり、そういうスポーツのモデルを展開していきたい。
「次の柱」を生み出し、大人の企業に脱皮するのか
mixiが手を広げようとする事業領域は、「垂直統合」「コミュニケーション領域」という言葉でくくりつつも、かなり手広く見える。そこには、まさに産みの苦しみが滲み出る。
モンストは、ゲームのオリジナルIPとしては、間もなく5年を迎える長寿作品だ。木村氏によると、モンストが売上の大半を占める「エンターテインメント事業」のセグメント利益率は、直近の第1四半期でも約40%を維持しているという。長寿IPだと考えれば、驚異的な数字と言っていい。
今期150億円の投資をし、中長期で1000億円の投資もする背景には、裏を返せば、「モンスト一本足」から脱するという課題に、真正面から向き合うmixiの危機感を示している。
東京・渋谷にあるmixi本社のロビースペース。
木村氏は、新たな組織体制を「一般的には当たり前かもしれませんが、私たちとしては初めてそういう(執行役員を置き、社外取締役を増やし外部の目が入りやすい)体制にした」と説明した。
この先のmixiがどう変わっていくのかは、この言葉が端的に表現している。
ベンチャー気質で続けてきたmixiが、東証マザーズ上場企業という肩書きに見合った「大人の企業」に変わるときがきた、ということではないだろうか。
(文・伊藤有、写真・今村拓馬)