ZOZO眼中なし。アマゾン日本のファッションEC制覇までの全戦略 —— ピータース本部長単独インタビュー

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季節外れの降雪を記録した「春分の日」明けの3月22日、東京・港区のプリンスホテルのファッションイベント会場に、アマゾンファッションの事業部門の責任者、ジェームズ・ピータース氏の姿があった。

アマゾンジャパンが冠スポンサーをつとめるファッション業界向けイベント「Amazon Fashion Week TOKYO」(AFWT)期間中に開催されるスペシャルプログラム「AT TOKYO」のうちの1つ、「TTT_MSW」(ティー)のショーに参加するためだ。ティーは、24歳の若手デザイナーによるブランドだ。

TTT_MSW:若者から熱烈な支持を獲得するノージェンダーブランド。

Amazon Fashion Week TOKYOは以前まで「東京ファッションウィーク」として知られたイベントで、アマゾンは2016年10月以来、冠スポンサーをつとめている。今回で4シーズン目、イベントに参加したブランドは59で、過去最高の数だ。

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TTT_MSWのデザイナー、玉田翔太氏(左)と、アマゾンジャパンのバイスプレジデントでファッション事業部門統括事業本部長のジェームズ・ピータース氏。

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TTT_MSWのショーは東京プリンスホテルの一角で行われた。ファッション業界の関係者のほか、学生の招待もあり、会場内は立ち見が出るほど。除幕前のステージにはAmazon Fashionのロゴが見える。AT TOKYOとしてのファッションショーは期間中に複数のブランドが都内各所で開催した。

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モデルたちのファッションを架空のマフィアに見立て、事故を起こしたクルマから次々に総勢数十人のモデルが登場するという不思議な演出が行われた。

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参加者はスマートフォン片手に場内の演出やランウェイを歩くモデルを動画や写真におさめていた。

「Amazon Fashion」というブランドカテゴリができたのは2014年からだが、アマゾンジャパンとしては2007年からファッションを扱っている。ピータース氏は、Business Insider Japanの単独インタビューに対し、「アマゾンの中でも急成長を遂げているカテゴリの1つがファッション」だと、Amazon Fashionの日本における成長余地と期待の高さを隠さない。

ファッションECにおいては、ZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイをはじめとする競合がいる。しかし、アマゾンは競合の動き方は気にせず、一貫して独自の路線でビジネスを進める方法をとっている。「(我々は)あくまでお客様のみに目を向けています。(競合に対する優位性があるとすれば)常々お客様に目を向けて、彼らの声に耳を傾けて、お客様から学ぼうとしていること」(ピータース氏)という。

Amazon Fashionは2017年、取り扱い商品数を大幅に増やした。ピータース氏によると、2017年単年だけで、追加されたブランド数は1000以上。大半が国内ブランドで、取り扱い点数は全体で数百万点になるという。

なぜアマゾンはファッション業界の「スポンサー」をするのか?

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撮影:西山里緒

アマゾンがAWFTを通じてファッション業界に接近するのはなぜか? ブランディングでは? という問いかけに、ピータース氏は「そうではない」と一切の迷いなく否定した。

理由の1つは、シンプルにAWFTはファッション業界向けイベントだからだ。また、ピータース氏は、アマゾンの強い願いとして、日本のファッション業界をもっと深く学び、また業界を支え、同時にパートナーシップを組んでいきたいという意図があると説明する。つまりは、日本のファッション業界のインナーサークルに、より深く入っていきたい、それがアマゾンの考えだ。

アマゾンは3月15日に、Amazon Fashionをさらに加速するべく、世界最大となる7500平方メートルの専用の撮影スタジオを品川シーサイドに開設した。アマゾン内でのファッションアイテムの写真を洗練させ、統一感のある一貫したものにするための大規模な施設だ。

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プレス向けに公開されたAmazon Fashionの撮影スタジオ。

撮影:西山里緒

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年間100万点の商品写真を「製造」する工場でありながら、随所に有名ブランドのファニチャーを配置するなどインテリアへのこだわりも感じられる。

撮影:西山里緒

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統一感のある、インダストリアルな雰囲気の室内。

撮影:西山里緒

施設が持つ撮影能力は、年間100万点。商品の360度撮影の機材なども揃えた。さらに、撮影能力は今後数年で2倍にしていきたいという。これは事業規模の成長への期待も(2倍とイコールではないにしても)高い水準をめざしていることを意味する。

グローバル企業であるアマゾンがなぜ日本独自の撮影施設を必要とするのか?

その理由は、ファッションは体型も含めたローカル性が強いからだ。たとえば、着用したスタイルをリアルに感じてもらいたいなら、外国人モデルの写真よりも、日本人モデルの写真の方が説得力がある。

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スタジオ内の撮影ブース。スチル撮影エリアは11、動画撮影エリアが5つ設けられている。

撮影:西山里緒

実際、利用者からは「ワンピースやジーンズを自分が着ているところがイメージしやすい、もっと響くスタイル(の写真)が欲しいという要望があった」(ピータース氏)。そうした日本向けで統一感ももった商品写真を大量に用意するには、自前の大規模な撮影施設を作るしかない。スタジオ設立にあたってアマゾンは日本独自のクリエイティブチームを立ち上げた。写真などの表現の点でもローカライズをさらに進めていく方針だ。

返品の解消などの課題には「今まさに取り組んでいる」

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インタビューに答えるジェームズ・ピータース氏。アマゾンジャパンで撮影。前職のリーボックやコーチといったブランドでのCFO経験を含め14年にわたり「日本市場」にかかわってきた。2000年台前半からの日本のファッション業界の変遷をよく知る人物でもある。

特にファッションECにおいては、世界中のプラットフォーマーが解決できていない問題がある。

「どうすれば、一発で想像したとおりのサイズ感の商品が手に入るのか?」ということだ。アマゾンは当面は“30日間の無料返品”というサービスを提供しているが、ユーザー体験の根本的な解決策ではない。

ピータース氏も、「これ(サイズに関する購入体験の向上は)は正直、ECにおいては課題として残っているところだ」と認める。ただし、テクノロジーによって解決する道も模索を続けているという。

「いわゆるユニバーサルサイジング(サイズ表記の共通化)と、メーカー固有のサイズの違いをどう乗り越えるか。弊社の場合、取り扱い点数が(例えば)100万点であればシンプルだと思うが、何千万点になると、拡張可能な形でどう解決できるかが非常に大きな悩みです。エンジニアを抱えて、いま実際に取り組んでいるところです。一部の商品では、着用したモデル自身のサイズも表記するようにし始めています」

ハイブランドもECで購入する時代がくる、とアマゾンは言う

アマゾンジャパンは3月15日、独占禁止法違反の疑いで公正取引委員会の立ち入り検査を受けたと、報道されている。事態の推移は見守る必要はあるが、アマゾンの圧倒的な強さについて疑う人は誰もいないだろう。品揃え、価格、使いやすさで強力な支持を得ていなければ、この1年で2倍近い株価(850ドル前後から1500ドル前後)にはならない。

直近1年のAmazon.comの株価推移

直近1年のAmazon.comの株価推移。

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日本向けの撮影スタジオの開設は、日本においても、ファッション分野でアマゾンが一層本気になったことを意味する。

一方で、ファッションECは、独特の難しさがあるとも一般に言われる。ファッションにおいての購入体験は、単に「商品を買う」ということ以上に、「購入することそれ自体が上質な体験であるべきだ」という見方が根強いためだ。

しかし、アマゾンのファッションに関する考え方は、こうした一般論とは違う。ピータース氏は言う。

「通常、ブランドには対象とするセグメントがあります。そのセグメントで何が欲されているのかを追求していきます。一方、アマゾンは、“お客様は万人”だと考えています。ですからセグメント化というのは重要ではないのです。すでに何百万というお客様がアマゾンでファッション関係の商品を購入してくださっていることが、(アマゾンが)すでに力強い価値提案をできていることの実証だと思います」

よく知られるように、ショッピングモールでは、高級ブランドは同カテゴリに近いエリアで出店していく「出店戦略」がある。ECにおいても、「場所」の考え方は必要ではないのだろうか?

対して、ピータース氏はこうした「場所」や「並び」といった既成概念はECでは問題にならないという。

銀座の風景

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「(立地や配置が重要でなくなりつつある傾向は)ここ数年のモバイル機器の普及によって、大幅に加速していると考えています。あれだけ小さな画面なので、何と何が隣り合わせの立地になっているかは、(購入者の)視点には入らなくなってきているのではないでしょうか。

同じ現象は市場全体に起こっています。オフラインとオンラインの境はどんどん曖昧になっており、(購入体験において大切なのは)いかに利便性が高いか(が重要)です。だからこそオンラインのシェアが高まって来ていると思います」

それでも、小さなハンドバッグ1つが数十万円もするようなハイブランド商品でも、同じようなロジックが通じるのだろうか? すっと腹落ちはしない、という印象を口にすると、ピータース氏はこう答えた。

でも、(現実世界も)実際そうなってますよね? 銀座に行けば、高級ブランドのすぐ隣にファストファッションの店がある。お客様は気にしてはいません。弊社としては、あくまでお客様第一で考えているのです」

(文、写真・伊藤有 聞き手・滝川麻衣子、伊藤有)

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