総合職に就かなかった女性たちの、もう一つの理由とは。
Business Insider Japanの記事で大きな反響のあった「高学歴女子はなぜ今あえて、一般職を選ぶのか」について、大学現場はどうみるのか。
2006年から慶應義塾大や明治大など複数の大学で学生たちをみてきた、明治大学商学部の藤田結子教授を訪ねた。藤田氏は「あえて一般職の志向は確かにある」としながらも、それ以前の問題として「そもそも、女子学生に(基幹的な業務を担う)総合職はいまだに狭き門」という実態を指摘する。
女子は優秀さと就活結果が連動しない
「今の新卒採用では、企業は女子学生の才能をムダ使いしている、と感じます。学生時代の優秀さと、就職活動の結果は必ずしも連動していません。大学では優秀でリーダーシップをとってきた女子学生が落とされる企業に、同じ大学の平均的な男子学生が通ります」
何人もの学生の就活相談を受けてきた藤田氏はいう。
「結果的に一般職という層は少なくない」と指摘する藤田教授
撮影:滝川麻衣子
「就職活動が始まる3年生の頃には、総合職を志望する学生は決して少なくありません。ただ、商社や大手広告代理店、マスコミなど学生が希望するような大企業で、総合職の採用に占める女性の割合はそもそも小さい。そこでは、おもに有名国立大や早慶上智の女性が採用されるので、それ以外の大学の女子学生にとっては非常に高いハードルです」
その結果、一部の有名大以外では「大量採用する銀行や保険の(地域や職務が限定される)エリア職や一般職に流れる学生は多いです。転勤がないので、仕事も続けやすい」。つまり「意図的にというよりも、結果的に総合職に就けない」という女子学生が相当数いるというのが藤田氏の見方だ。
「学生時代までは男女平等に育ってきて、能力を発揮してそれを評価されてきた女子学生も、社会に出る段階で、すでに総合職としてバリバリ働けるチャンスは男子学生よりも限定されています。そもそものゲームの設定がそうなっているのです」
総合職採用の女子は2割強
女性活躍推進が叫ばれ、管理職への女性登用は大企業を中心に、各社が取り組む機運が高まっているかのようにみえる。しかし、データを紐解くと、たしかに採用段階での男女格差は浮き彫りになる。
厚生労働省が調査する「コース別雇用管理制度の実施・指導状況(2014年)」によると、総合職採用者に占める女性割合は 22.2%。一方、一般職採用者の女性割合は8割超となっている。
総合職、一般職といったコース別採用をしていない企業でも格差は顕著だ。内閣府の「女性活躍推進サイト」に自社データを公表している企業でみてみると、採用に占める女性の割合はNTTドコモで32%、日立製作所で21.7%、日産自動車21%、味の素34%、サントリーホールディングス34% —— 。
就職先の人気企業ランキンングに登場するような企業でも、女性と男性で同等に門戸が開かれているようには、とても見えない。 学校基本調査によると、大学生全体に占める女子の割合は43%で、大学別に見ると上智6割、青学・立教5割、早慶4割弱だ。
「学生の段階で、男女で大きな学力の差はありません。むしろ、優秀な発表をしたり、真面目にレポートやったりするのは女子学生に多く見られるくらいです」(藤田氏)
採用試験の結果で、男子学生が優秀だからこうなったということは考えにくい。
地方暮らしを親に心配され
女子学生の就職活動で、総合職と一般職の分かれ目はどこで生じるのか。
MARCH(明治、青山学院、立教、中央、法政)クラスの大学を卒業し、この春から働き始めた、大手保険会社一般職の女性(23)は進路変更型だ。就職活動を始めた頃は、周囲の友達やサークルの男性の先輩たちに触発され、総合職を目指していた。
女子学生の就活は男性以上にハードだ。
しかし、大手通信社やそのグループ会社5社を受けたがすべて落ちた。大手化粧品メーカーや電機メーカーなどを含めると総合職で10社は受験している。
「目指していた業界ですべて落ちたときはすごくつらかったです」
最終的には、一般職とエリア職で、大手保険や大手証券から内定を得た。
同じくMARCHの大学出身で、大手証券会社の地域限定のエリアで4月から働いている女性(24)は、こう話す。
「好きなことを仕事にできるという期待感があって、はじめは転勤があることも気にせず興味のある会社を受けていました」
就活を始めた頃は総合職を目指し、レコード会社や百貨店、大手通信など7社を受けたがすべて、面接段階で落ちてしまった。
そのまま総合職で就活を続けるという選択肢はあったものの、一人っ子ということもあり、地方で一人暮らしすることを親に心配された。途中からエリア職に切り替えたところ、大手保険や証券会社のエリア職で内定を得たという。
人手が少ない分ハードなベンチャー
ベンチャー企業や中堅・中小企業となると、さらに過酷かもしれない。一部の熱心な企業をのぞき、女性の働き続ける環境が大手企業よりも整備されているとは言い難い。
「ベンチャーは人手が少ない分、仕事はハードです。かなり根性がないと厳しいと学生には話しています。内定をもらったからといって飛びつくのではなく、女性の継続年数をちゃんと見て決めなければと」
女性活躍推進法が制定され、国は2020年をめどに女性管理職比率を30%に引き上げることを掲げてきた。しかし、女性は入社時点からすでに、厳しい戦いを強いられている。女性が男性の同期入社社員と同じように総合職で働き続けること、ましてやそこから管理職へと階段を登ることは、今なお、ハードルが高いと言わざるをえない。
ゲームのルールは誰に有利か。
女性のハードルを高くする元凶
藤田氏は6月、『ワンオペ育児ーわかってほしい、休めない日常』を出版した。すでに6割超を占める共働き家庭の妻が、ブラック企業並みの「ワンオペレーション(一人作業)育児」と仕事に、必死で取り組む実態が描かれる。著書には1児の母である藤田氏自身の経験も反映されている。
夫が長時間労働で家に帰ってこないワンオペ育児を見越して、女子学生が一般職を選ぶ。長時間労働前提の社会で、仕事と育児の両立に疲れて、女性が離職する。離職を見越して、企業が女性の採用を抑制しようとする——。
こうした“負のサイクル”について、藤田氏は「結局、日本の長時間労働が元凶」と、日本社会の働き方に警鐘を鳴らす。
ここ数年で、長時間労働や選択の余地のない転勤を見直そうという風潮は、高まっているかのようにみえる。しかし、目の前の現実は、それほど理想どおりでもないと、社会に出る前から学生たちは、見抜いている。
「ゲームのルール」が、自分たちには決して有利ではない。「あえて一般職」や「結果的に総合職をあきらめた」層の女子たちは、すでに知っているのだ。
(撮影:今村拓馬)
藤田結子:明治大学商学部教授。専門は社会学。慶應義塾大学文学部卒。米コロンビア大博士取得、英ロンドン大院博士号取得。2016年から現職。