ノートPCの天板に貼られた大量のステッカー。IT企業などでよく見る光景だ。どうしてステッカーを貼るのだろうか。漢字で「猫」と書かれたステッカーを貼っている都内の会社員・A太さん(30代)は次のように力説する。
「かわいいじゃないですか。会社で使うPCはみんな一緒で無個性。ステッカーがあれば、どれが自分のかが一目瞭然で、業務効率が上がりますよね。役に立つんですよ」
一方で迷惑に思う人もいる。仕事で使うPCは会社のもの、あるいはリースであることが多いはずだ。びっちりステッカーが貼られたノートPCを使うB子さん(40代)はこんな悩みを抱えている。
「私が貼ったんじゃなくて、前の持ち主が貼ったんです。入社したら、これがそのまま渡されました。ステッカーが貼ってあると、外で作業するとき、どこの会社か分かるじゃないですか。私は嫌なんですよ。最近は少しずつ剥がしています」
ほかの社員にそのまま渡すくらいだから、会社もそうそう目くじらを立てることはないのだろうが…。会社PCにステッカーを貼る行為は、法的にどう評価されるのだろうか。鬼沢健士弁護士に聞いた。
●そのステッカー、きれいにはがせますか?
――会社から「借りている」形のノートPCにステッカーを貼っても良いのでしょうか?
「物を借りている人は『善管注意義務』をもって保管しなければなりません。簡単に言えば、一般的に要求される程度の注意義務が必要ということです。
借り主である従業員は、自分の物を使うよりも注意して使う必要があります。ステッカーを貼るかどうかについても慎重に判断する必要があると言えます。
きれいに剥がせないステッカーを貼ったということであれば、善管注意義務に違反している可能性が高いでしょう」
――確かに借りものですから、返却時はきれいにしないといけないですね。
「借り主は、ノートPCを返却する際に借りたときの状態で返還する義務を負います。もしステッカーをはがせない状態や剥がし痕がべったりと残ってしまう場合には、借りたときの状態に戻したとは言えません。
このような場合に、『器物損壊罪』(刑法260条)にならないかが問題になります。器物損壊罪における『損壊』とは、その物の効用を害する一切の行為を指します。物理的に破壊する行為はもちろん、精神的に使えなくなる行為も含みます。
たとえば、ノートPCのディスプレイに大きなステッカーを貼ってはがせなくなった場合には、そのノートPCは使用できないも同然ですから、器物損壊罪が成立する可能性があります。しかし、ノートPCとして使用できる状態なのであれば器物損壊罪は成立しません。
また、ノートPCの借り主は、定められた用法にしたがって使用する義務を負っています。
業務の付箋やリマインドのためにステッカーを貼ることは用法から外れないでしょうが、業務と関係なく単に装飾のためということだと用法から外れていると考えられます」
●他社のステッカー、評価に影響する場合も?
――貼るステッカーの種類によっては、ただちに問題になるということはありますか。例えば、他社のロゴや政治的な内容、趣味にかかわるステッカーなどです。
「『他社のステッカー』『政治的なステッカー』『キャラクターなど趣味にかかわるステッカー』は、用法から外れない限り、貼ること自体は問題ありません。
ただし、ステッカーそのものに問題がある場合も考えられます。例えば、ライバル企業のステッカーを貼ると、自社への不満を表しているように見える可能性があり、従業員としての勤務態度が悪いという評価につながりかねません。
当然ですが、『性的な内容を含むステッカー』はデザインによっては、職場環境を悪化させる可能性があります。そうすると、セクハラに該当する可能性があります」
――実際にノートPCのステッカーが問題視されることは少ないとは思いますが、いざというとき、会社に対するウィークポイントになる可能性はありそうですね。