日々問題なく働いている人でも、いつ労働トラブルに巻き込まれるかわかりません。パワハラ、労災、長時間労働などのトラブルは今もなくなっていないのが現状です。
トラブル発生に備え、過去の裁判例を通じて、実際に発生した労働トラブルとその結末を知っていれば、いざという時の助けになるかもしれません。
今回紹介するケースは、郵便局の職員がヒゲをはやし肩まで髪を伸ばしていたら、上司から執拗な指導を受け、さらに人事評価も下げられてしまったという事例です。林孝匡弁護士の解説をお届けします。
●事案の概要
こんにちは。
弁護士の林孝匡です。
宇宙イチ分かりやすい解説を目指しています。
今回は裁判例のザックリ解説です。
郵便局で働いていたXさんのお話。
「ヒゲをそれ、髪を切れ」
と上司から言われ続けていました。
従わなかったところ・・・ドカン。
・マイナスの人事評価をされて賃金カット
・担当業務を絞られる
仕打ちを受けました。
訴えてやる!
〜 結果 〜
地裁・高裁ともに、Xさんの勝訴です!
30万円の慰謝料請求などが認められました
(郵便事業〈身だしなみ基準〉事件:大阪高裁平成22年10月27日判決)
郵便事業株式会社(現・日本郵便株式会社)での事件です。
判決を読むと、上司の当たりハズレもありますね〜。そのあたりも書きました。
この記事では、以下の内容をメインにお伝えします。
・どんな身だしなみ基準だった?
・注意されてもヒゲや髪型を変えなかった結果
・裁判所の判断は?
・ヒゲそれ髪切れ指導は結構裁判で争われる!?
それでは参りましょう!
Here we go!
●ヒゲや長髪の程度
判決文にXさんの写真が載ってない!
#そりゃそうだろ
なので、文字だけで想像して下さいね。
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▼ ヒゲ
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口ヒゲとあごヒゲがありました。
・口ヒゲの横幅は唇の幅。長さは唇に届かない程度
・あごヒゲの幅は唇程度。長さは約1センチ
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▼ 長髪
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長さは肩まで程度 。ゴムで束ねる髪型(引き詰め髪)
うーん、これも長髪に入るんですね。
●Xさんの経歴
昭和27年生まれ。
昭和45年から働いていました。
昭和60年くらいからヒゲを生やし始め、
(33歳くらいかな)
平成7年くらいから髪を伸ばし始めました。
私も33歳くらいの時にヒゲを生やしたことがあります。
#誰も聞いてないよ
さて、Xさんは、平成17年に灘郵便局へ配転となりました。
この灘郵便局で【ヒゲそれ髪切れ】指導が行われたのですが、それまでは注意を受けたことがなかったんです。
●身だしなみ基準が制定される
Xさんが灘郵便局へ配転された時期くらいに、
身だしなみ基準が制定されました。
灘郵便局独自の基準も。
ヒゲ不可、長髪不可。
どんな事情があっても一律不可!というものでした。
XさんからすればOh my god!な基準が制定されたのです。
しかし、Xさんは己のポリシーを貫きます。
身だしなみ基準が定められた後も、Xさんはヒゲ、髪型を変えませんでした。
●担当業務が絞られる
すると、担当業務が絞られちゃいました。
会社から【特殊】業務の【夜間】業務を命じられました。
さらに、課長からの執拗な「ヒゲそれ、髪切れ」指導もありました。
●人事評価も下げられる
そして、人事評価も下げられました。
詳細は割愛しますが、評価を下げられたことによって75,600円を失いました(地裁でXさんの請求が認定され、高裁でちょい増額となっています)。
おいおい待ってくれよ、ってなりますよね。
XさんはJP労組という労働組合に駆け込みました。
労働組合を通じて、灘支店支店長に対し、ヒゲ・長髪を理由として差別したことの謝罪を求めるなどの要求を行いました。
しかし、会社が応じず
・・・提訴だ!となりました。
●裁判所の判断
(LOCO / PIXTA)
Xさんの勝訴です!
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▼ ヒゲ・髪型が身だしなみ基準に違反するか
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裁判所はザックリ
・どんな服装や髪型にするかは、基本的にその人の自由
・ヒゲ、長髪を一律不可とする規則はダメだわ
・顧客に不快感を与えるようなものだけ禁止する、に読み替えます
・で、あんた、Xさんのヒゲ・長髪を見てよ
・顧客に不快感を与えないよね
・だから身だしなみ基準に違反してないよ
と判断しました。
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▼担当業務を絞ったことについて
▼人事評価を下げたことについて
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裁判所はザックリ
・担当業務の指定や人事評価には会社に一定の裁量権があるんだけどさ
・裁量権を逸脱したら違法ね
・さっき言ったけど、Xさんのヒゲ・髪型って規則に違反してないのよ
・なのに、担当業務を絞ったこと、人事評価を下げたことは裁量権を逸脱してるわ
・違法ね
と判断しました。
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▼ ヒゲをそるよう執拗に求める
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課長のダブルパンチがあったようです。
A課長は、月に1回以上、別室に呼んで指導していました。
後任のB課長は、2カ月に1回程度指導をしてました。
この指導について、裁判所はザックリ
・A課長とB課長の指導は、再三にわたって行われている
・指導内容は、ヒゲをそり髪を切るよう繰り返し求めるもの
・でも、Xさんのヒゲ・長髪は基準に違反してないのよ
・だから指導は違法ね
と判断しました。
ちなみに、さらに後任のC課長・D課長からは注意を受けなかったようです。
上司の当たりハズレってありますよね。
私にもいましたよ。
上司じゃなくて高校時代の生活指導の先生なんですが。
散髪検査、異常に厳しい先生がいたんですよ。
なので、そのオッサンを避けてゆるめの先生のときに突撃してましたね。 #だから誰も聞いてないって
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▼ほんで、なんぼ?
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さて。
まずは慰謝料が30万円です。
これは、担当業務を絞ったことと、ヒゲそれ髪切れ指導についての慰謝料です。
そして、マイナスの人事評価をされての賃金カットなどについては、高裁でちょい増額の約14万円となっています。
●ほかの裁判例
身だしなみを巡っての裁判例をいくつかご紹介します。
社員さんが勝っている裁判です。
・大阪市(旧交通局職員ら)事件:大阪高裁令和元年9月6日判決
電車の運転手(ヒゲ)
・イースタン・エアポートモータース事件:東京地裁昭和55年12月15日判決
タクシーの運転手(ヒゲ)
・株式会社東谷山家事件:福岡地小倉支部平成9年12月25日判決
トラック運転手(髪の色)
詳細を解説すると膨大な量になるので、気になる方は事件名でググってみてくださいね。
●さいごに
裁判所が述べているとおり、どんな服装や髪型にするかは、基本的にあなたの自由なんです。
会社がそれを制限するなら合理的な理由を示さないといけません。
あと、判決文を読むと、Xさんは定期的に散髪をしていたし、出勤前には無精ヒゲをキチンとそっていたようです。
なので、最低限の清潔感は保つようにしておきましょう!
それをしておくと、職種にもよりますが、ヒゲ&長髪でも勝てる可能性が高まると思います。
Q.
ラーメンマンくらいパンチの効いた髪型なら、どうなるんでしょうか?
A.
・・・分かりません(笑)負ける可能性が高いと思いますが、ロックな思想の裁判官にあたればワンチャンあるかもしれません。
というわけで今回は以上です。
ではまたお会いしましょう!