SNSで給料の不満について書き込んだところ懲戒処分を受けた——。そんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
相談者は、月給が手取り18~22万円でブラック企業だと嘆く体験談を紹介するサイトをSNSでシェアし、「手取り20万なんて羨ましい…自分は四大(四年制大学)出てるのに16万だからなぁ」と書き添えたそうです。
ところが、そのことをSNSでつながっていた同僚が会社に報告。会社から「下手をしたら名誉毀損」「侮辱だ」などと叱責され、半年間の減給と残業禁止の処分を言い渡されました。
相談者は「本当に自分がすべて悪いのだろうか」と処分に納得がいってないようです。SNSに給料への不満を書き込むことは法的に問題だったのでしょうか。小沢一仁弁護士に聞きました。
●そもそも名誉毀損や侮辱にあたらない可能性が高い
——SNSでの書き込みについて、会社からは「名誉毀損」「侮辱」と言われたようです。
名誉毀損と侮辱は、いずれも人の社会的評価を低下させることにより成立します。両者は事実の摘示があったか否かで区別されます。
今回のケースで適示された事実は、「相談者の勤務先では、四大卒業者に(手取り)16万円の給料を支給している」という内容です。
しかし、この内容では会社の社会的評価を低下させるものとはいえないと思います。そのため、この投稿は名誉毀損にも侮辱にもあたらないと思います。
相談者の勤務先は、「月給手取り18~22万円でブラック企業だと嘆いているサイト」をシェアしていることを重視したかもしれません。
ただし、シェアしたサイトが投稿者の勤務先の企業を批判しているわけではないですし、このサイトをシェアしたからといって、勤務先の社会的評価が低下するともいえないでしょう。
●懲戒処分は行き過ぎ
——相談者は「半年間の減給と残業禁止の処分」を受けてしまったようです。
もし、相談者の投稿が勤務先に対する名誉毀損にあたるとしても、就業規則にこれを懲戒処分の対象とする定めがなければ、そもそも懲戒処分をすることはできません。
仮に定めがあるとしても、相談者の投稿内容に照らすと、半年間の減給という懲戒処分は行き過ぎであり、懲戒権の濫用にあたると思います(なお、残業禁止の懲戒処分と言うのは、あまり例のないことだと思います)。
そのため、いずれにしても、今回のケースでは懲戒処分は無効であると思われます。
●「悪い内容の口コミ、厳しく対応する傾向」
——行き過ぎた処分をしてしまうほど、会社としても厳しく対処したかったということでしょうか。
事実でないことを投稿する、事実を誇張する、個人の人格を非難することは法的責任を問われやすいと思います。また、真実であっても、真実性の立証ができなければ法的責任を負う可能性がありますので、注意が必要です。
加えて、会社にとって、勤務条件や職場の環境、代表者の個性等の評判は、内容によっては死活問題になりかねません。そのため、経験上、会社は自社に対する悪い内容の口コミ等については、その口コミが法的に名誉毀損にあたるか否かを問わず、厳しく対応する傾向にあります。
法的責任がないと思っていても、事実上、会社との紛争になってしまう可能性があることを念頭に入れて、投稿内容を考えたほうがよいと思います。
(弁護士ドットコムライフ)