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「みんな知っているのに」 斎藤元彦知事の刑事告発めぐり「PR会社代表の顔と名前」をテレビが"隠す"理由
テレビ朝日の報道(左)/フジテレビの報道(右)

「みんな知っているのに」 斎藤元彦知事の刑事告発めぐり「PR会社代表の顔と名前」をテレビが"隠す"理由

兵庫県知事選の選挙運動をめぐって、斎藤元彦知事とPR会社社長が公職選挙法に違反したとして、刑事告発された。

PR会社の女性社長は、ネット上に公開した「note」記事で「今回、広報全般を任せていただいていた」と記載。今回の刑事告発では、斎藤知事からPR会社側に71万5000円の支払いがあったことから、同法が禁じる「買収」に当たるのではないかと指摘されている。

女性社長はnoteの公開からネット上の"有名人"になった。テレビをつければ、どこもこの話題で持ちきりだ。ただ、ここまで顔と名前が知られたのに、テレビは女性社長の顔に「モザイク」をつけている。その理由がおわかりだろうか。(テレビプロデューサー・鎮目博道 )

●モザイクをかけても意味ないじゃん

なぜ、斎藤知事とともに刑事告発されたPR会社社長の顔は、テレビで放送できないのか。

彼女の実名や顔写真、動画はネットやSNS上にゴロゴロ転がっている。テレビで隠されているのは「おかしくはないか」と感じる人がいても無理はない。

テレビがモザイクをかけようが、氏名を伏せて「PR会社社長」の肩書きだけで報じようが、ほぼ何の意味もなさそうに思える。

顔や名前を伏せる理由について、テレビニュースを制作してきた立場から解説したい。

テレビが誰かの顔写真などを放送する場合には、「許可を取って放送する」か「許可を取らないで放送する」かの2つに分けられる。

そして、顔写真を放送することが大原則であっても「本人なり権利者からの許可」が必要だ。写真には、撮影した人の著作権などの権利もあり、写っている人の肖像権もある。

例外的に無許可で顔写真などを放送して良いのは「事件や社会問題など、報道するべき理由がある場合」だ。

今回は「兵庫県知事の選挙運動に関係する公職選挙法違反の疑惑」を報道するために必要だから、「PR会社代表のnote」を著者(PR会社代表)の許可を得ずに放送しているわけだ。

報道する必要性から、文面と写真を再撮影して放送することには、報道機関としての正当性がある。

ただ、そこに写っている人が「誰であるかを明かして良いかどうか」には、また別の判断基準がある。

●PR会社社長は「公人」ではないだろう

基本的にはテレビが人の素性を「ネガティブな文脈」で明かすのは、2つの場合である。

1つ目は「犯罪であり、罪が軽微なものではない」場合だ。

2つ目は「犯罪の疑いがかかっていたり、社会的に非難を浴びていて、公人や芸能人である」場合である。

斎藤知事は誰の目にも明らかに公人だから、「PR会社社長のnote」の写真を放送する際に、斎藤知事の顔は必ずモザイクなしで出されている。

しかし、この「PR会社代表」が公人かというと、おそらくそうではない。公職選挙法違反の疑いがもたれ、刑事告発されているとはいえ、まあ「一般人」であろう。

一般人であれば、報道機関としては「顔や名前を出して、身元を明らかにする」正当な理由がないということになる。

だから、現状では必ず「PR会社代表」の顔にはモザイクがかけられ、匿名で放送されることになる。

ただ、公職選挙法違反事件として立件されることになれば、写真のモザイクが外れ、実名で放送されることになるだろう。

●〈バッシング加担したと言われるのは避けたい〉テレビの責任者が頭の中で考えること

とはいえ、ネット上では今も顔も実名も堂々と晒され続けている。しかも、noteを書いた「PR会社代表」は、SNSやネット動画にも多く登場しているわけで、「自ら進んで顔と名前を明かしている」状況だとも考えられる。

これだけ自発的に顔と名前を発信している人をテレビが守る必要があるのかという疑問は残る。

これに関して、テレビ局のニュースや情報番組の責任者の判断は次のようになるだろう。

〈PR会社代表が積極的に実名と顔を晒したのは、あくまでウェブ上での話だ。テレビにまで実名と顔を晒したいと思っているかどうかはわからない。だから、ウェブ上のコンテンツを引用するなり、身元を明かすには本人の許可が必要だ〉

〈それに、彼女が積極的に顔と名前をネット上で明かしたのは、今回の公職選挙法違反の疑惑が取り沙汰される前だ〉

〈現在でもまだ顔と名前を積極的に広めたいかというと、そうではない可能性が十分に考えられる。だからそういう意味でも、顔にはモザイクをかけたほうがいい〉

いくらネット上でバレバレになっていたとしても、テレビニュースで報道し、電波に乗せるにあたっては、「人権上の配慮が必要だ」と考えるわけだ。

もしテレビで顔を晒され、名前を明かされたことによって、PR会社代表が世間からバッシングを受けて追い込まれることは避けなければならない。

もっと本音に沿って踏み込んだ言い方をすれば「テレビ局がバッシングに加担した」と言われないために、安全策を取るのがテレビ局報道関係者としての"自己防衛本能”である。

●「売名に利用されてはいけない」

実は顔にモザイクをかけて名前を出さない根拠はもう一つある。「売名に利用されない」ということだ。

今回の経緯を見ると、PR会社代表は「斎藤知事の奇跡的な逆転劇を成し遂げたのは私たちの広報戦略があったからだ」という文脈でnoteを書いたと思われる。

記名、顔出しだったこともあり、「宣伝や売名の意図があったのではないか」と常識的にも考えられる。つまり、彼女の名前と顔を繰り返し放送することが、場合によっては宣伝や売名にみすみす乗ることになる可能性もあるわけだ。

このように、さまざまな角度から検討すると、私がニュースデスクならPR会社代表の顔にはどう考えてもモザイクをかけざるを得ず、名前も伏せざるを得ない。たとえネット上でバレバレになっていても、だ。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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