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「搬送された人が皆死にたかったわけじゃない」市販薬オーバードーズ、救急現場の実情
新宿・歌舞伎町のトー横ではオーバードーズにまつわる事件が相次いだ(2023年、弁護士ドットコム撮影)

「搬送された人が皆死にたかったわけじゃない」市販薬オーバードーズ、救急現場の実情

2023年は、市販薬の過剰摂取(オーバードーズ=OD)が大きな社会問題となった。大阪ではODしていたとみられる女子高生が男に連れ去られ、その後死亡した。また、東京・歌舞伎町では少年が大量のせき止め薬を入手し、転売した疑いで逮捕された。

厚生労働省も規制の強化に乗り出し、近く取りまとめが発表される。20歳未満への大容量や複数の販売を禁じたり、店が名前や年齢を確認・記録することなどが検討されている。

厚労省の研究班は、市販薬のODで救急搬送された122人について初の調査結果を発表。2021年5月〜2022年12月に全国7機関に運ばれた122人を分析した結果、平均年齢は25.8歳で最年少は12歳、うち女性が79.5%を占めた。この調査の中心となった埼玉医科大学の救急医・上條吉人教授と長年研究を共にしている臨床心理士の高井美智子さんに現場の実情を聞いた。

●「同情されたくない」複雑な心情に寄り添う

高井さんによると、市販薬のODは、2015年ごろから目立ってきており近年は現場でも増えていることを実感するという。自殺の手段として痛みが少ないため、男性より痛みに対する耐性が低い女性に目立つことを指摘する声もあるが、はっきりとした理由はわかっていない。

厚労省調査では、その目的について問うと「自傷・自殺目的」が97件と74.0%を占めた。 数多くの自殺未遂者の対応にあたり、救急医と連携して約10年前から自殺予防について研究する高井さん。1年で100人以上の相談を受けてきた。

「彼女たちの心情は複雑です。『大変だね』などと安易に同情されることは嫌がります。搬送されて、やっと話せたという人もいます。まあこの人なら話してもいいかと思ってくれるように努めています。人生をどうにかしようとした結果が市販薬だった。ギリギリまで頑張ってきて、何かのきっかけで自殺しようとする。芸能人の自殺で誘発される場合があるのも、その一つです」

救急の現場から高井さんのもとに来る人たちは、一命を取り留めた形だ。治療が終われば、たいてい1泊程度ですぐに退院となる。ここで適切なケアをし、再び自殺を企図しないよう予防を試みるが一筋縄ではいかず、何度も救急搬送されてくる人もいるという。

「精神科医や心理士につなぐだけでは不十分です。その後の定期的な関わりが重要で、家族や機関、地域などと連携することが必要なんです。一人で悩んできた子たちに、人にも癒されることがあると知ってもらわなければ。採血を理由に再度病院に来てもらうなどしていますが、診療を受けるかは自分次第なので難しいところです」

画像タイトル 現場について語る高井さん(弁護士ドットコムニュース撮影)

●「自殺未遂者に向き合うことが予防につながる」

今回の調査では、家族などと同居している割合は70.5%と多かった。研究班は「同じ世帯で同居している者がいても、なかなか悩みを打ち明けられない状況が多いことが考えられる」としている。

また、情報源としてSNS22件(17.1%)、知人・友人6件(4.7%)と比べ、インターネット検索が49件(38%)と最多だったことも、一人で悩む姿を示しているともいえる。

「つらい・しんどいと思って検索してODの方法に行き着く姿が見えます。特に若年は、学校の先生のような人に諭されたくないという心理がある。『生きるのがつらいひとへ』のような相談窓口のバナーには、むしろつながりたくないと思うようです」

実際に薬を入手する経路は、実店舗が85件(65.9%)と最多で、置き薬20件(15.5%)、インターネット購入12件(9.3%)だった。厚労省は、当面の規制強化策として店での陳列を変えることや、20歳未満には小容量1個の販売とし、年齢などを聞き取り記録することなどを検討している。

「薬のパッケージの小型化などは短期的な効果、時間稼ぎにはなるでしょう。ただ、根本的な解決には、心理的ケアが不可欠です。搬送された数=死にたい人の数ではないはずです」

調査でもODの目的として、特に死にたいというわけではないが「いなくなってしまいたい」「自らを罰したい、傷付けたい」などの意見も含まれていた。「嫌なことを忘れたかった」「楽になりたかった」「薬をたくさん飲みたくなってしまうから」「お酒が買えないので市販薬を購入した」などの意見もあった。

「お酒に酔っ払うことで怖さを軽減し、ODするという複合的な案件もあって深刻です。ただ、医療界も自殺未遂者に対する理解が薄い。救急搬送された方に丁寧に関わっていくには、人材も予算も足りていません」

高井さんらは当事者の承諾を得た上で研究対象としているため、症例数が多数にならないのが難点だが、大まかな傾向は見えると強調する。若者や女性がなぜODするのか。調査から見える一人一人の声に耳を傾けると、薬の販売規制だけでなく、対策すべきことは他にも山積していることが分かる。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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