東京メトロ千代田線に乗り入れるJR常磐線各駅停車の亀有・金町駅を使う住民が10月19日、「不当に割高運賃をとられている」などとして両社と国を相手取り、2万6980円の損害賠償を求めて提訴した。
原告は60代以上が中心の16人。「亀有・金町の鉄道問題を考える会」代表世話人の松永貞一さん(74歳)ら3人と中村忠史弁護士が会見した。
原告らによると都心部に行く際、千代田線を通る「西日暮里乗り換え」とJRだけで行く「北千住乗り換え」では1.3〜1.7倍の差が出るという。定期券はさらに割高となり、1.8〜1.9倍になると訴えている。
中村弁護士は3者に改善の申し入れをしたものの、回答は納得のいくものではなく「やむなく提訴に至った。鉄道事業法がきちんと運用されれば解消されるはず」と説明した。
●「二重取り」ではない路線もある
相互乗り入れが始まったのは1971(昭和46)年で、千葉県の松戸や柏の沿線住民が増えたことなどが背景にある。
しかし、常磐線快速が止まる松戸と北千住間に挟まれた亀有、金町、綾瀬の住民にとって、都心に行くには北千住か西日暮里で乗り換えが必要になる事態となった。
JRとメトロ、二重に初乗り運賃を取られることになり、亀有・金町ー上野間は340円。JRだけならば220円だという。
中村弁護士によると、国会でもかつて議論されたものの、法改正が必要となり、先送りされた経緯があるという。その後、国鉄の分割民営化に関連し、1986(昭和61)年に鉄道事業法が施行された。
同法16条では、事業者が運賃を定められるとして「自由裁量に任されている。メトロが綾瀬ー西日暮里間をJRに貸与すれば解消する問題」と説明した。国に対しては「特定の旅客に不当な差別的取り扱いをするとき」には変更を命じることができるはずと主張する。
路線が重なっていても「二重取り」になっていない東京メトロ南北線と都営三田線の例もあるといい、原告らは「社会正義にもとる」などと憤る。
北千住駅の常磐快速に乗り換える階段の一つ
●「北千住の階段は高齢者には負担」
北千住乗り換えの問題は、金額だけではないと原告は訴える。常磐線快速ホームは2階にあり、千代田線の地下2階から階段を上るのは高齢者にとって負担が大きいという。
原告の猪羽久さん(87歳)は、折り紙講師で和紙を買いに浅草橋へ出かけるという。JRだけで行こうとすると220円だが、千代田線を通ると470円に跳ね上がる。亀有→北千住→上野→秋葉原→浅草橋と、距離は10キロほどだが3回乗り換えて行っている。
「会社勤めの人は、定期代など会社から支給されるから知らないのかもしれない」と話し、年金生活者や学生にとっては大きな金額の差が家計の負担になっていると強調した。
毎朝、亀有駅前に立って住民にこの問題を訴えている松永さんは「JRはおまえたちが勝手に(西日暮里乗り換えを)選んでいるんだという言い分だ。250円もの差は、年金生活者にとっては大きい」と説明する。
これまでも交通に詳しい大学教授が鉄道の専門誌に疑問を呈したことや、新聞記事になったこともあった。また、JR自身が常磐線展のパンフレットで「北千住で緩行線(各駅停車)が地下に入ってしまうため、快速や他路線との乗り換えが不便なことは(略)解決できないままとなっている」と記している。
原告の1人は「波風を立てるな、寝た子を起こすなで知らんぷりされてきた問題だ」と指摘し、早期の解決を望んだ。
【追記】分割民営化が1987年のため、一部表現を修正しました。(10月20日1時)