日産自動車前会長のカルロス・ゴーン氏が3月6日に保釈されてから、2週間が経とうとしている。ゴーン氏の3カ月半にも及ぶ身柄の拘束について、海外メディアなどで、「人質司法」として、批判の声が高まっている。
今回の保釈についても、3回目の申請でようやく実現したもので、朝日新聞の報道によると、保釈を認める条件として「事前に定めた住居の出入り口に監視カメラをつける、携帯電話は通話機能しかないものを使う、監視カメラの映像や携帯電話の通話記録を東京地裁に提出する、パソコン作業は弁護士事務所で行い、ネット接続は不可」などの厳しい条件が付けられた。
これだけ厳しい条件でないと保釈が認められない現状は、やはり「人質司法」として考えるべきなのか。萩原猛弁護士に聞いた。
●長期の身体拘束と弁護士の立会いのない取調べの強制で、自白に追い込まれる
現状の仕組みと運用はどうなっているのか。
「わが国では、逮捕された被疑者は、嫌疑を受けた1つの犯罪事実ごとに、警察の留置場や拘置所に最大23日間身体拘束され、この間、弁護士の立ち会いなく捜査官の取調べを受けることになります。
保釈は、起訴前には認められず、起訴後の保釈も、起訴事実を否認している限り容易に認められません。否認する被告人には罪証隠滅のおそれがあるとされ、保釈が拒否されます。こうした長期の身体拘束と弁護士の立会いのない取調べの強制によって、被疑者・被告人は自白(場合によると虚偽自白)に追いこまれます。
このような長期間の身体拘束を特徴とするわが国の刑事司法実務は、『人質司法』と評され、裁判を受ける前に被疑者・被告人を処罰しているも同然ですから、近代国家の根本原則である『無罪推定原則』(被疑者・被告人は有罪判決が確定するまでは無罪と推定される)に反しているというべきです」
今回の保釈をどう考えればいいのか。
「わが国は、国連の規約人権委員会から、先ほど説明した刑事司法の現状についてその是正を再三勧告されてきましたが、今日に至るまで根本的な改善をしてきませんでした。
今回、ゴーン氏が世界的な著名人であったことから、改めてわが国の刑事司法制度が注目され、世界の人権団体やメディア等から『中世のような司法制度』等と批判される事態となりました」
●日本国民の人権意識が問われている
ゴーン氏の保釈条件は、プライバシーを制限する厳しいもので、しかも、その条件は弁護人が提案したものだったが、仕方ないものだったのか。
「国際的な人権基準からいえば、ゴーン氏も保釈保証金が高額になるのは別として、通常の保釈条件で早期に保釈されるのが当然でした。しかし、『人質司法の国』ではそれが通りません。
そこで、弁護人は、あえて『プライバシーを過剰に制限する保釈条件』を提案して、裁判所の保釈判断に揺さぶりを仕掛けたのでしょう。提案された保釈条件は『プライバシーの過剰な制限』ではあっても、保釈されるなら『身体拘束状態』よりは遙かにましです。
弁護人としては、『身体拘束状態』=『監禁状態』からの解放を一気に実現することが困難なら、まず、『軟禁状態』にさせ、自由への扉を段階的にこじ開けるしかないと判断し、実行したのでしょう。
そして、そのような弁護活動は、与えられた環境の中で依頼者の最善の利益を追求する弁護士の職責に照らし、『人質司法の国』の弁護士として極めて正しい方策だったというべきです。
シェーファーという哲学者は、『その国の刑事手続を見れば、その文明の質の概略が理解できる』と言いましたが、ゴーン氏に対する刑事手続は、わが国の文明の質を世界に露呈させました。果たしてこれで良いのでしょうか。日本国民の人権意識が問われています」