【米大統領選2024】 ハリス氏はなぜウォルズ氏を選んだのか 民主党の副大統領候補

ミネソタ州のティム・ウォルズ知事

画像提供, Getty Images

画像説明, 民主党のカマラ・ハリス副大統領から、大統領選を一緒に戦う副大統領候補に指名されたミネソタ州のティム・ウォルズ知事

アンソニー・ザーカー北米担当編集委員(米フィラデルフィア)

11月の米大統領選挙の民主党の副大統領候補として、ミネソタ州のティム・ウォルズ知事を早い段階で本命視していた人は、ほとんどいなかった。しかし6日にこのレースを制したのは、ダークホースのウォルズ氏だった。

今年は経済でも選挙戦でも、「ムード」が政治のすべてを決める。そしてその「良いムード」こそ、民主党の大統領候補になることが確実になっているカマラ・ハリス副大統領が求めたものだった。

ウォルズ氏は、政治的なパンチを放っているときでさえ、「中西部のいい人」という印象を与える。教師、アメフトのコーチ、州兵という経歴は、彼のはげた頭と丸みのある体、着こなしなどが少しよれっとした感じの外見も相まって、「飾り気のない中部アメリカ」の雰囲気を醸し出す役割を果たしている。

6日夜にペンシルヴェニア州フィラデルフィアで、初めてハリス氏とそろって集会に現れた時には、それが明らかだった。

ウォルズ氏は演壇に立つと、ドナルド・トランプ政権下において凶悪犯罪率が上昇したと指摘。ほほ笑みを浮かべながら、「彼が犯した犯罪を含めなくてもだ」と付け加えた。そして、共和党の正副大統領候補を「とんでもなく奇妙」と評した。この表現は、過去数日のうちに民主党支持者らの間で合言葉のようになったものだ。ウォルズ氏は人工妊娠中絶をめぐっては、「人のことに口出しするな」という中西部の黄金律に、政府は従うべきだと述べた。

動画説明, ハリス氏と副大統領候補ウォルズ氏、初めてそろって集会 共和党のトランプ候補を批判

ユーモアとジャブを織り交ぜながら、民主党政治の「喜び」を率直に語ることは、浮動層の獲得に効果があるかもしれない。ジョー・バイデン大統領の陣営は「民主主義への脅威」という暗い言葉を使ってきたが、浮動層を説得することはできていなかった

ウォルズ氏の素朴な愛想の良さは、同じく候補として名前が挙がっていたジョシュ・シャピロ・ペンシルヴェニア州知事の洗練さと野心や、マーク・ケリー上院議員(アリゾナ州選出)の矢のようにまっすぐな軍人然とした振る舞いなどとは対照的だった。

シャピロ氏は、大統領選で最も重要とされる州の、弁舌に優れた人気政治家だ。この夜の集会でも前座として演説し、地元支持者の大きな声援を受けた。しかし、親パレスチナのデモ参加者を批判したり、私立学校への公的資金投入を支持したりしたことから、民主党支持層の主要部から反対の声が出ていた。ようやくまとまりつつあった民主党で、党内分裂を再燃させる危険性があった。それに比べ、ウォルズ氏は安全な人選だった。

ウォルズ氏の地元ミネソタ州は激戦州ではない。それでもハリス陣営は、ウィスコンシン州やミシガン州などの重要州で、同じ中西部を地盤とするウォルズ氏がアピール力を発揮することを期待しているだろう。

ウォルズ氏は2006年の下院選挙で共和党から議席を奪って当選しており、地方で暮らす人々や共和党支持者らからかなりの票を獲得できることをすでに示している。

ウォルズ氏はまた、進歩的な法案を成立させてきたが、それを穏健派や無党派層にも理解できるようにうまく説明する技能にも長けている。

さらに、ネブラスカ州の出身だということもある。同州は2020年大統領選で、バイデン氏に選挙人を1人もたらした。圧倒的に小規模の州ではあるが、接戦になれば勝敗を分ける可能性がある。

民主党の有力者で、バイデン氏に今回の選挙戦から撤退するよう働きかけたナンシー・ペロシ元下院議長は、ウォルズ氏を「素晴らしい」と絶賛している。

それも当然のことだ。2006年の下院選でウォルズ氏が勝ったことで、民主党は12年ぶりに多数派となり、ペロシ氏は下院議長になったのだった。

ウォルズ氏

画像提供, Getty Images

画像説明, ウォルズ氏はその親しみやすさとトランプ前大統領への「口撃」で全国的に注目されている

一方の共和党は、民主党のこうした良いムードを消し去り、暗い見通しを植え付けようとしている。

トランプ陣営はすでに、ウォルズ氏を「危険なほどリベラルな過激派」、「極左の狂人」と呼んでいる。

同陣営は、ウォルズ氏がミネソタ州で左派的な社会政策を実施したと指摘。2020年に同州ミネアポリスで起きた、警官によるジョージ・フロイドさん殺害事件をめぐっては、その後に起きたデモで、ウォルズ氏が治安維持のために十分な対処をしなかったと非難している。

共和党は少なくとも、シャピロ氏と対決しなくて済んだことを喜んでいるだろう。シャピロ氏はより中道的で、ペンシルヴェニア州でハリス氏に決定的な追い風をもたらしたかもしれないからだ。

共和党の副大統領候補のJ・D・ヴァンス氏は、今回のハリス氏の選択について、「党内で最も急進的な人々に屈する」ことも辞さないハリス氏の姿勢を示すものだと述べた。

トランプ前大統領は、ウォルズ氏が「地上に地獄を解き放ち、想像しうる最悪の犯罪者らに私たちの国境を開放する」とコメントした(太字は原文で大文字表記)。

だが、共和党やトランプ陣営にとっては、仮にウォルズ氏がより望ましいターゲットだとしても、同氏を攻撃する言葉を、親しみやすく飾らない人柄の同氏に定着させるのは簡単ではないだろう。

民主党はこれで、新たな正副大統領候補がそろい、選挙戦に乗り出した。投票日まではあと91日だ。

残り3カ月の選挙戦についてウォルズ氏は、「何ということはない」と述べた。「寝るのは死んでからにすればいい」。

(英語記事 With jokes and jibes, Tim Walz takes national stage)

(編集部注:ウォルズ知事の名前のカタカナ表記について、当初は「ウォルツ」としていましたが、本人や家族の発音を確認し、「ウォルズ」に変更します)