(社説)在日脅迫有罪 ヘイト犯罪を許さない

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 在日コリアンへの偏見や差別意識に根ざす犯行を、判決は厳しく批判した。民族や人種などの違いに基づくヘイトクライム憎悪犯罪)を決して許さず、根絶への取り組みを重ねていかねばならない。

 在日本大韓民国民団徳島県地方本部に昨年9月、銃撃をほのめかす脅迫状を差し出した県内の40歳の男に、徳島地裁が有罪判決を言い渡した。

 男は韓国や民団に一方的な嫌悪感を抱き、「反日政策ヲ続ケル様デアレバ、次ハ実弾」などとする手書きの文書を投函(とうかん)した。判決は「偏見にまみれ、極めて独善的で身勝手」と強い言葉で非難。反省の情などを踏まえて刑の執行を猶予しつつ、異例の保護観察付きとした。

 在日コリアンに対しては、京都府宇治市のウトロ地区での放火や、大阪府茨木市の「コリア国際学園」の建物焼損など同種の事件が相次ぐ。今回の判決は、公判でヘイトクライムだと断じた検察を含め、司法が改めて「ヘイトは許されない」との姿勢を明確に示したものだ。

 注目したいのは、裁判官が判決後に男に語りかけた説諭だ。

 「意に沿わない人を一方的に排除することは、日本では許されず、世界どこでも変わらない」「あなたと違う意見こそ、よく聞いて理解するように努めてください」

 特定の属性をもつ集団や個人への憎悪の言動は、ネット上での誹謗(ひぼう)中傷をはじめ、根絶にはほど遠い。その多くは一方的な思い込みによるものだ。裁判官の言葉を、社会全体でしっかりと受け止めたい。

 徳島民団の姜盛文(カンスンムン)団長は裁判で「ヘイトクライムを放置すれば日本社会の根っこが腐る」と訴えた。民団は事件の直後、Kポップのイベントを予定通り開き、地域の住民同士で対話と交流を続ける姿勢を示した。

 こうした市民の取り組みを、どう後押ししていくか。政治の責任は重い。折しも先日の広島サミットでは、岸田首相と韓国の尹(ユン)大統領が韓国人の原爆犠牲者慰霊碑にそろって献花するなど、日韓関係は好転しつつある。長期的な視点から歩みを着実に進めてもらいたい。

 国や自治体に差別解消への施策の実施を求めたヘイトスピーチ対策法の施行から7年。具体的な規制や罰則がない理念法だが、法を受けて自治体が条例を定める動きが広がりつつある。東京都は違反者の公的施設の利用を制限する規定を、川崎市は刑事罰を盛り込んだ。

 表現・集会の自由を守りつつ、誰もが生きやすい社会のために、法制度はどうあるべきか。模索と議論を続けていかなければならない。

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