転機は関東大震災 どくろを抱く画家がエル・グレコに託した思いは
田中ゑれ奈
美の履歴書 中村彝「頭蓋骨を持てる自画像」
ほおは痩せこけて皮ばかり。ぬれたように光る大きな目は落ちくぼみ、ひざに抱かれたどくろの暗い眼窩(がんか)と相似形をなす。人生の多くを病床で過ごした画家の晩年の大作は、濃厚な死の気配をまといつつ、不思議な穏やかさに満ちている。
炎のような髪や彫りの深い顔立ち、縦に引き延ばされS字形にうねる人体には、エル・グレコの影響が顕著だ。西洋のルノワールやセザンヌらに憧れ、次々と作風を吸収していった中村彝(つね)。それも単なる模倣や模写ではなく、セザンヌの静物画のモチーフを位置関係までアトリエに再現するなど「現実にあるものを見たまま描くこと」に執拗(しつよう)にこだわった。本作の制作にあたっても、理想的な灰緑色の背景を求めて小麦粉の袋を自ら染め、それを見ながら描いたという。
一方で、キュービスム的な布…