聖林寺の国宝・十一面観音菩薩 「祈りの空間」が照明デザイン優秀賞

小西孝司
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 世の中にこんな美しいものがあるのかと、私はただ茫然(ぼうぜん)とみとれていた(「十一面観音巡礼」)――。随筆家白洲正子にそう言わしめた国宝・十一面観音菩薩(ぼさつ)立像(りゅうぞう、8世紀)を安置する聖林寺(しょうりんじ)観音堂(奈良県桜井市下〈しも〉)。耐震改修工事が終わり、昨夏から拝観が再開されたが、生まれ変わった祈りの環境が照明デザイン賞の優秀賞に輝いた。

 同賞は一般社団法人照明学会が主催し、優れた光環境や照明デザインを毎年表彰する。今回、応募49件が審査され、石川県立図書館(金沢市)、琉球識名院(しきないん、那覇市)とともに優秀賞に選ばれた(最優秀賞は該当なし)。

 観音菩薩立像は大神(おおみわ)神社(桜井市)の神宮寺・大御輪寺(だいごりんじ)の本尊だったが、明治の神仏分離令で聖林寺に。多くの人が像を激賞してきた。米国の東洋美術研究家アーネスト・フェノロサは本堂から大和盆地を眺め、「この界隈(かいわい)にどれ程(ほど)の素封家がいるか知らないが、この仏さま一体にとうてい及ぶものでない」と語ったという。哲学者の和辻哲郎は「神々しい威厳と、人間のものならぬ美しさとが現(あら)わされている」(「古寺巡礼」)と表現した。

 観音堂は2021~22年、クラウドファンディングによる寄付を含め1億7千万円をかけて改修。像は免震装置付きのガラスケースに安置され、360度から拝観できるようになった。天井部分は直径約5メートルの白いドーム状で、縁部分の216個のLEDが間接光で像を照らしている。照明デザインは「灯工舎」(東京、藤原工代表)が担当した。

 審査員は「像を仰ぎ見る視線に障害となる光源映り込みは綿密に排除され、ガラスの存在を強く意識することが無い」と評価した。

 またドーム状の天井は、祈りの空間としての効果を発揮。内陣においては仏の頭上を飾る「天蓋(てんがい)」の役目を果たし、外陣(げじん)からは「光背(こうはい)」のように見える。

 昨年8月の拝観再開後、参拝者から「素晴らしい」との声が多く寄せられているという。倉本明佳(みょうか)住職は「どこを切り取っても、祈りの空間としてよくなった」と喜ぶ。

 同寺書院では今月30日まで、南北朝・室町期から江戸期までの曼荼羅(まんだら)16幅を年一度公開する「秘宝マンダラ展」を開催中。

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