独自

海自幹部、セクハラ被害者に加害者との面会強要 うつ病退職の原因に

編集委員・沢伸也 同・伊藤嘉孝 成沢解語
【動画】「セクハラを訴えた私に起きたこと」ティザー動画
[PR]

 海上自衛隊で、20代の女性自衛官セクハラ被害を受け、その後に退職していたことが関係者への取材でわかった。上司が、女性の意に反する形で加害側の男性自衛官と面会の場を設けて男性の謝罪を女性に聞かせ、女性はショックで出勤できなくなったという。性暴力の被害者支援に詳しい専門家は「性被害者が事後対応を通じてさらに傷つけられる二次被害だ」と問題視している。

 自衛隊では昨年、陸自での性加害が発覚し、岸田文雄首相ら閣僚が「許されない行為だ」と問題視して政府を挙げて対策する姿勢を示し、9月から自衛隊の全部署を対象にハラスメントの実態を調べる「特別防衛監察」が実施された。今回の問題はこうしたさなかに起きており、女性は取材に「上層部の意識は現場には届いていないと絶望した」と話している。

 問題があったのは、海自の西日本にある部署。防衛省が女性から聞き取った被害内容や、女性への取材によると、女性は昨夏以降、先輩男性から職場で繰り返し食事に誘われたり、プライベートの性的なことについてたずねられたりした。休憩所で胸や足を触られ、背後から抱きつかれたこともあった。部署の監察で被害を訴え、先輩女性にも被害を伝えた。

 昨年12月21日、女性は所属部署のナンバー2である男性1等海佐から職場の面談室に呼ばれ、加害男性の謝罪を直接聞くよう求められた。女性は「しゃべりたくない」と泣いて拒んだが、ナンバー2は「謝罪はいらないってことでいい?」「またこういう機会取らなくちゃいけないよ」などと面会を促した。

 面談室で、加害男性が「やってきたことは間違いありません」と謝罪し、責任を取って退職する意向を示すと、立ち会ったナンバー2は「一存で決めちゃだめ、家族持ってんだから」「落ち込まず」などと加害男性を励ますような言葉を口にしたという。女性はショックで翌日から出勤できなくなり、うつ病と診断され、今年3月末に「セクハラとパワハラによる心身疲労」を理由に退職した。

 退職直前、所属部署のトップは女性に対し、加害者と面会させた行為は「一番やってはいけないこと」「厳しく(ナンバー2を)処分する」と伝えたという。

防衛省が処分検討

 防衛省海上幕僚監部によると、当時の状況について調査を進め、加害男性と、面会を求めたナンバー2については処分を検討している。海幕広報室は「現在調査中であり、ハラスメントを一切許容しない組織環境を構築するため関連規則に基づき厳正に対処する」としている。

 防衛省は、陸自での五ノ井里奈さん(24)の性被害発覚を受け、昨年、「ハラスメントは基本的人権の侵害」(当時の浜田靖一防衛相)として特別防衛監察を実施。1325件の被害の申し出があり、うち179件がセクハラ疑いだった。海幕によると今回の女性の件はその中に入っていないという。

 政府は昨年「ハラスメントは自衛隊の精強性を揺るがす決して許されない行為」(岸田首相)だとして、防衛政策の根幹をまとめた文書に明記するなど、立て続けに対策を打ち出していた。

 清泉女学院大学の岡本かおり教授(臨床心理学)は「性暴力の被害者が、人権を無視されるような被害を再び受け二重に傷ついてしまった。気持ちを確認しながら対応するという最も基本的で重要なことができておらず、組織を挙げて反省、改善すべきだ」と話している。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

この記事を書いた人
沢伸也
編集委員|調査報道担当
専門・関心分野
埋もれている社会問題
伊藤嘉孝
東京社会部次長|調査報道担当
専門・関心分野
霞が関、調査報道、安全保障、自衛隊
  • commentatorHeader
    インベカヲリ★
    (写真家・ノンフィクションライター)
    2023年10月31日14時31分 投稿
    【視点】

    文中に出てくる、「家族持ってんだから」という第三者による発言というのは、以前にも聞いたことがある。 過去に自衛官をしていた知人女性から聞いた話だ。彼女は入隊してすぐの19歳だった頃、上司の命令は絶対という中で、上司自衛官から強姦され、その

    …続きを読む