第1回解散請求は「当然だ」 島薗進さんが考える、団体を監視する公的機関
文部科学省は13日にも、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への解散命令を東京地裁に請求する方針だ。今回の解散命令の請求は妥当なのか。宗教法人法に基づく手続きや、宗教法人審議会のあり方にどんな課題があるのか。宗教学者で東京大名誉教授の島薗進さん(74)に聞いた。
――解散命令請求をどう考えますか。
今回の解散命令請求は当然だ。国家権力による宗教への不当な介入かというと、旧統一教会の悪質性を考えれば、まったく当てはまらない。被害者や被害額の規模が非常に大きく、ほかの団体とは違う。いちじるしく公益に反し、長年にわたって組織的に人権侵害を続けてきた。請求の根拠として、民法の不法行為を認めた民事訴訟の判決を入れたことは非常に重要だ。
――解散命令が出た場合、問題の根本的な解決につながるでしょうか。
解散命令が出ても宗教としての法人格がなくなるだけで、団体は形を変えて存続するだろう。所得税や固定資産税の税制優遇がなくなり、ダメージは受けるが、十分に活動できる。しかも文科省の管轄から外れてしまう。
その団体に対し、今後、どう対応していくか。宗教法人法では、解散した後にどうすべきかは考えられていない。解散命令後に残る団体をウォッチする機関が必要だ。
人権侵害をしている団体、人権侵害が危惧される団体、特に虐待や詐欺、メンバーを抑圧する疑いのある団体を注視し、個々人の人権を守るべく警戒するものだ。省庁の枠を超えた公的機関が望ましい。
フランスには、2002年に首相直轄で設置された「関係省庁セクト的逸脱行動に対する警戒・対策本部(ミビリュード)」がある。人権や基本的自由を侵害する団体を監視し、団体について情報発信もする。被害者本人からの相談も受け付ける。
ジャニーズのような性的虐待も監視
――日本でそのような機関を設けることは、国家権力の宗教への介入に当たりませんか。
私が想定しているのは、マルチ商法のほか、ハラスメント多発の恐れがある企業や施設、ジャニーズ事務所のような性的虐待が起こる組織もウォッチする機関だ。マスコミの報道や行政の介入が遅れるのを防ぐことにつながる。宗教がターゲットではない。
――今回、1951年にできた宗教法人法の問題点も指摘されました。
そもそも「解散」とは何を意味するのか、宗教法人法には書かれていない。前提となっているのは、信者が少ない団体の解散で、今回のように大きいままの団体は想定されていなかったのではないか。旧統一教会は別の形で存続するだろうから、解散といっても宗教法人の認証の取り消しに近い。
認証のあり方にも問題がある。宗教団体が法人格を得るには、所轄庁による認証が必要だ。ただ、認証の基準が不明確だ。所轄庁の裁量に委ねられ、あいまいだ。
文化庁が2015年に教団の世界平和統一家庭連合への名称変更を認めた経緯も透明性に欠ける。自民党議員が口を挟んだから変更されたのか、はっきりしていない。
だが、宗教法人法の改正には反対が多く、時間がかかる。95年に宗教法人法を改正して、備え付け書類を所轄庁に提出することになった。宗教法人の情報を国家権力が把握することにもなり、信教の自由が脅かされるとして、仏教やキリスト教、新宗教など多くの宗教法人が反対した。宗教法人法を改正するより、具体性があって合意も得やすい、人権侵害に関わる機関を作る方が現実的だ。
戦後の宗教史で見ても「旧統一教会の問題は政教分離の観点からも良くない例だ」と島薗さんは話します。記事の後半で政治との関係が語られます。
――95年の宗教法人法の改正でできた質問権が初めて使われましたが、手続きをどう見ましたか。
文科省の調査は質問権でしか…