カリコさん日本で研究してたら…ノーベル賞に福岡伸一さんが思うこと
今年のノーベル生理学・医学賞は新型コロナのワクチン開発にも役立つ研究をした、カタリン・カリコ氏とドリュー・ワイスマン氏が選ばれた。独創的な発想が、ノーベル賞を受賞するほどの成果になぜつながったのか。分子生物学者で青山学院大学教授の福岡伸一さんに解説してもらった。
生命現象には、原理的には可能だが、技術的には困難な問題が多数横たわっています。これを解決するのが科学者の腕の見せどころで、今回のノーベル賞もその点が評価されました。
たんぱく質の合成を「原理」から考えたのが、カリコさんたちの研究です。
以前のワクチンはたんぱく質のレベルで作っていました。
たとえばウイルスに対するワクチンは、ウイルスそのものを弱毒化したものとか、ウイルスを鶏卵のなかで培養し、そこからたんぱく質を精製する作業をしていました。
これには手間ひまがかかり、安全性の確認にも時間がかかります。もし、こうした方法で新型コロナのワクチンを作ろうとしたら、いま使われているもののように大量生産できるワクチンは完成していなかったかもしれません。
カリコさんたちが考え、新型コロナのワクチンに応用された方法は違いました。
たんぱく質はRNAから作られ、そのRNAはDNAから作られます。原理的に考えると、DNAあるいはRNAからでも、最終的にはたんぱく質を作ることができるはずと、カリコさんたちは考えました。しかし、こういう発想は以前からありましたが、なかなか実現しませんでした。
原核生物といわれる大腸菌などの単純な細胞なら、細胞質にDNAを放り込めばそこから遺伝情報が読み取られ、たんぱく質ができます。
でも、私たちのような真核生物の複雑な細胞では、細胞の中に細胞核という部屋があり、その中でしかDNAは働きません。たんぱく質を作らせるには、DNAをその部屋の中に運び込まなければいけない。これがなかなか難しいのです。
それなら、細胞核の中に入れなくても働くRNAならどうかと、カリコさんたちは考えました。とはいえ、外からやってきたRNAをただ細胞に放り込むと、免疫システムに認識されてたちまち分解されてしまいます。
RNAはDNAと違い、もともと非常に分解されやすく作られた物質です。簡単に増やしたり減らしたり、調整ができるようにするためです。このため、これにたんぱく質を作らせてワクチンにするのは、一筋縄ではいきませんでした。
これを何とか改良できないか。細胞の中のRNAは外から入れるRNAよりも安定しています。何が違うのか。カリコさんは細胞の中ではRNAが化学的に修飾されていたこと、つまり塩基の中の「ウリジン」に特殊な標識が入り、それによってRNAが守られているということを見つけました。
こうした発想にいたったカリコさんは、研究を成就するために相当苦労しました。
ハンガリーの出身で、祖国が…
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