半世紀前の倉敷公害訴訟の記憶、語り継ぐ 原告団側の資料を初公開
水島コンビナート(岡山県倉敷市)の大気汚染をめぐる「倉敷公害訴訟」の資料を集めた「みずしま資料交流館」が10月、オープンした。1996年の和解成立から26年が過ぎた。原告団側に眠っていた記録を掘り起こし、半世紀前の記憶を今に伝えている。
水島コンビナートは日本の高度成長を担った一方、排出される大気汚染物質が地域住民の健康を危うくした。住民らは83年から3次にわたり、立地8社を相手取って損害賠償などを求めて提訴。96年に企業側が総額約14億円の解決金を支払い、公害防止に努力するとして和解が成立した。
みずしま資料交流館は、水島地区の中心を通る水島商店街通りの一角で、元原告らの交流拠点としている「あさがお会館」1階の装いを変えるかたちで開館した。和解金の一部で設立された「みずしま財団」が運営している。
中に入ると、水島コンビナート一帯の戦中戦後の開発の様子をパノラマ写真で紹介している。一見するだけでは公害に関する資料館とはわからない。
中は床と畳の約80平方メートル。靴を脱いで上がると、右手に一枚の白黒写真パネルが目に入る。ぜんそく発作を抑えるため、吸入器で薬剤を吸い込む高齢女性の姿をとらえていた。原告団の事務所に掲げられていたものだという。
準備書面、証人調書、患者会の活動報告書……。向かい側の書棚には、裁判に関する約4500点の資料や文献がびっしりと並ぶ。長年、原告団の事務所などで保管されていたものを、初めて一般公開したという。水島の大気汚染の実態や原告たちの運動、企業側の対応などについての詳細を表すものばかりだ。
2011年から資料整理を続けている財団の林美帆研究員は「関係者にしか分からないような難しい表現も多い」と指摘するが、読み込むと多くの発見があるという。「今のようにSDGs(持続可能な開発目標)という言葉すらなかった時代に、経済発展という『社会常識』に対して物申した患者たちの勇気が伝わってくる。胸が詰まった」と力説する。
みずしま財団が原告だった人たちの交流拠点として設けた施設だが、高齢化などで人足が途切れがちだった。一方、財団は00年の設立当初から資料館の開設を目指していた。今年は原告団の基になる公害患者組織が発足して50年。一つの節目と位置づけてオープンを急いできた。
書棚には水島地区の環境や全国各地の公害に関する書籍など約1800点も置いている。公害と裁判だけでなく、水島地区の生活環境改善の取り組みについても紹介している。将来的には水俣病資料館(熊本県水俣市)のような公設館の整備を目指す。
「水島は日本近代が凝縮したまち。開発と公害に向き合ってきた人たちの歴史も、水島のまちづくりについても伝える『玄関口』になれば」と林さん。
入場無料。平日午前8時半~午後5時。問い合わせはみずしま財団(086・440・0121)。