鉄学者・原武史さんが語る「お召し列車」 示された天皇と国民の関係
明治天皇は鉄道開業時に列車に乗った。以来、天皇や皇后などが乗る臨時専用列車「お召し列車」の運行が始まった。開業から150年、お召し列車はどう変わっていったのか。天皇制の研究者であり、鉄道にも詳しい「鉄学者」でもある原武史さんにきいた。
――「お召し列車」のなかで、原さんが最も印象に残っているのはなんですか?
「戦中にダイヤを伏せたまま、極秘裏に走った列車がありました。米英との開戦から1年が過ぎた1942年12月11日。昭和天皇を乗せて東京を発ち、京都経由で三重県の伊勢神宮へ向かいました。皇室の祖先に当たる天照大御神に直接、戦争の勝利を祈願する旅でしたが、発表は帰京後でした。東条英機首相(当時)も同行しています」
「お召し列車は、単なる移動の道具ではありません。走る政治装置です。分刻みで綿密なダイヤが組まれ、定刻の運行が求められました。各駅のホームでは地域の有力者や学生、生徒らが並んで待ち、列車に向かって最敬礼して迎えた。『奉迎』です。沿線の住民も、通りすぎる車両に深々と頭を下げました。列車を介して支配と服従の関係を可視化させ、上下関係を作り出しました」
――ならば、なぜ知らせなかったのでしょうか。「奉迎」できません。
「この年の春、米軍機による…