気になる「たそがれ」感への慣れ 「ゆでガエル」になる危険の回避を

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聞き手 編集委員・塩倉裕
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 平均賃金で日本は韓国に抜かれている。そんな話題が注目されています。購買力平価で見た場合の1人あたり国内総生産(GDP)を見ても日本はいまや韓国を下回っている、と……。かつて日の出の勢いとも言われた経済大国に、「たそがれ」のときが訪れているのでしょうか。またそもそも、なぜ韓国との比較が気になるのでしょう。韓国政治と日韓関係を見つめてきた政治学者・木村幹さん(神戸大学教授)に聞きました。

1966年生まれ。神戸大学教授(比較政治)。韓国政治に詳しい。著書に「日韓歴史認識問題とは何か」など。

 ――日本は韓国に追いつかれたのか、抜かれたのか。そんな議論をよく聞きます。研究者として日韓関係を約30年間見つめてきた木村さんの目には、どう映っていますか。

 「経済力で日韓間に開きがあると僕が体感していたのは1990年代まででした。2005年ごろから急速に追い上げられていると感じ始め、今は『韓国が日本に並んできた』というのが実感です」

 「実は1981年以降の40年間を見ると、年間の経済成長率で日本が韓国を上回ったことは1回しかありません。追いつかれるのは当然です」

 ――実感する瞬間とは?

 「たとえば韓国の研究者たちとの付き合いで言うと、20年前には会食した際には当然のように『木村さんの方が給料が高いんだから払ってよ』と言われていました。今は逆に、気持ちよくおごってもらえる機会が増えています。ベテラン教員ならば向こうの方が給料が高いからです」

 「相手に首都ソウルの有名大学職員が多いからといった点は割り引くとしても、韓国国民が経済力に自信を付けてきたことは強く感じます。日本に勝っているとも思っていないけれど、負けているとも思っていない。いまや韓国やベトナムの大学関係者と相談していると『日本の大学はお金がないのでしょう? 無理しなくてもいいですよ』と言われます。言ってもいいと向こうも思っているのです」

経済大国だった日本の面影をひきずっているのは中高年世代で、若い世代はそうではないという指摘も聞かれます。ただ、日々学生たちと接する機会のある木村さんは、若者たちも韓国との比較には敏感だといいます。

 ――大学での講義などで目にする近年の日本の若者たちの意識は、どうでしょう。

 「講義で、各国の平均賃金や購買力平価での1人あたりGDPを示す順位表を紹介することがあります。日本の順位はいまや世界で20~30位台に低下しており、韓国の方が上位にいる。学生の多くは浮かない表情になります。『なぜ、そんな事実をわざわざ見せるのですか』と言われたこともあります」

 「若者たちは本当に不安なの…

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この記事を書いた人
塩倉裕
編集委員|論壇・オピニオン担当
専門・関心分野
論壇、オピニオン、調査報道