被差別部落の地名公開はプライバシーの侵害 出版禁止など命じる判決

村上友里
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 全国の被差別部落の地名などをまとめた本の出版や地名リストのネット公開はプライバシー侵害だとして、部落解放同盟と被差別部落出身者約230人が出版社側を相手取った訴訟の判決が27日、東京地裁であった。成田晋司裁判長は、大半の地名リストについて「公開は公益目的でないことが明白だ」と違法性を認め、リストを掲載した部分の出版禁止やネット上の削除などを命じた。

 判決によると、川崎市の出版社は2016年2月、戦前に作成され5360以上の被差別部落の地名や世帯数が一覧になっている報告書「全国部落調査」の復刻版を販売すると告知。ウェブサイトにも地名リストを載せた。

出版社側「学問の自由を侵害」と反論

 判決は被差別部落の地名公開により、原告は結婚や就職で差別や中傷を受けるおそれがあると指摘。「損失は深刻で、回復を図ることは著しく困難だ」と説明した。

 また、出版社側が東京法務局から同年3月に掲載をやめるよう諭す「説示」を受けていたことから、「地名公開がプライバシーを違法に侵害すると認識できた」と認めた。

 出版社側は「地名公開が禁止されれば学問や表現の自由が侵害される」と訴えたが、判決は「地名公開は社会的に正当な関心事とは言いがたい」とし計約480万円の賠償も命じた。原告側は、1人あたり110万円など計約2億6千万円の賠償を求めていた。

 一方、被差別部落出身と自ら明かした複数の原告らについてはプライバシーの侵害を認めず、公開しようとしていた6県分の地名リストの出版禁止などは命じなかった。

 原告団は判決後の会見で「全体的に主張が認められたことは評価したいが、全ての地名について出版差し止めなどを認めるべきだ」とし、控訴する方針を明らかにした。出版社側も控訴するという。

 この問題をめぐっては、横浜地裁と同地裁相模原支部が16年、出版禁止やサイト削除を命じる仮処分決定を出した。訴訟がきっかけになり同年12月には、部落差別解消法が国会で成立した。

 一連の裁判では、サイトでの地名公開後、自治体の窓口に「娘の結婚相手の出身地の地名がネットに出ているが、この地区は本当に同和地区か」などの問い合わせが相次いだほか、地名一覧のデータが印刷されてフリーマーケットで販売されたことも明らかになった。

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この記事を書いた人
村上友里
国際報道部
専門・関心分野
難民移民、人権、司法