民泊投資大手が事業停止 実績偽り勧誘、実体ない物件も
マンションの部屋ごとに投資客を募って民泊事業を代行していた、大阪最大手の民泊投資会社「ハンドグローイング」(大阪市淀川区)が経営難に陥り、今年に入って事業停止した。新型コロナウイルス禍の2~5月に次々と施設を廃止。ハンド社は取材に、昨年まで宿泊実績を水増ししながら、新たな投資を募っていたことを認めた。
ハンド社は2011年設立の不動産系ベンチャー。信用調査会社によると、16年までは賃貸交渉など不動産関連のコンサルタント業を軸にしたが、大阪市が16年10月から特区民泊事業者の受け付けを始めたのを機に、民泊の運営代行サービスを本格的に始めて急成長。18年10月期の売上高は16年同期の26倍超の約15億4千万円に上った。25年の大阪・関西万博誘致のオフィシャルサポーターで、投資客向けセミナーでアピール材料にしていた。
辻武弘社長は5月、朝日新聞の取材に応じ、2月末での負債総額は約40億円で、日韓関係の悪化で昨夏から韓国の旅行会社を通じた予約が入らなくなり、新型コロナが決定打になったとした。
大阪市保健所などによると、国家戦略特区制度に基づく「特区民泊」としてハンド社が認定を受けた同市内の施設は17年度に13、18年度に31、19年度に33の計77カ所、900室(今年5月までにすべて廃止)で、業者ごとではいずれも大阪府内最多だった。辻社長によると、約600の個人・法人と契約し、認定された部屋のうち約800室で民泊を代行運営していた。
ハンド社は投資客向けに、運営資金を出した部屋の予約状況をチェックできる専用サイトを公開していた。4月に投資客に送った調査報告書では、架空予約について「多数存在した」と認定。投資客から代金を受け取りながら、家主から引き渡しされていなかった物件も多数存在し、家主と契約できていない物件も存在したとしていた。
ハンド社の資料によると、投資客は、家主に払う礼金や民泊の申請費、家具購入費、予約サイトへの登録費などの初期費用を負担。民泊営業後は毎月の宿泊代から、家賃や民泊運営の代行手数料などを引いた金額を得る仕組みだった。投資客の多くは仲介業者からの紹介だったという。
同社関係者は「仲介業者が『予約が埋まったことにしないと投資客に売れない』と言うので、求められて予約があったことにした。それで売れたので止まらなくなった」とした。
辻社長は賃貸契約前の物件に投資させたことについて、「エージェント(仲介業者)が先行して振り込み依頼を行った場合がほとんど。悪意をもって行ったことなどありません」と文書で追加説明した。
同社はおおむね年利十数%~20%超で、初期投資分を5年ほどで回収できる見通しと説明していたが、昨年9月から利回りの支払いが滞り、12月から自転車操業の状態になったという。今年1月には投資客に民泊事業からの撤退に伴い契約解除を求めた。東京、大阪、名古屋、福岡などで3月以降、投資客を集めて説明会を開き、辻社長らが事業停止に陥ったことを謝罪した。だまされたとして、すでに損害賠償を求めて提訴した投資客もいる。
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一連の取材は朝日放送テレビと共同で進めてきました。同局が近畿圏で放送する15日夕のニュース情報番組「キャスト」で特集します。