みんなの医療ガイド
医療機能評価
1.(財)日本医療機能評価機構
医療機関が、地域や患者の要望に適切に応えるためには、明確な組織理念の設定、院内組織の整備、医療サービスの質についての検証など解決すべき問題は多々有り、また自らの位置付けを客観的に知るためにも第三者(病院・患者以外の)による評価が必要です。最近では自分が受診する病院についての情報を知りたいという要求も高まってきています。
1995年に設立された(財)日本医療機能評価機構は、医療機関の第三者評価を行うとともに、その改善を支援することを目的としています。2年間の運用調査を経て、1997年から病院機能評価を行っています。病院機能評価は、病院の自発的な申し込みに基いて行われます。病院の状況を一定の書式に記した書面に基く書面審査と、サーベイヤー(評価調査者)が実際に病院に出向いておこなう訪問審査からなり、その結果医療サービスを提供する体制が整備されていると判断された場合には認定が行われます。認定の有効期間は5年間です。
2006年5月までに2,066病院が認定を受けていますが、日本全国の病院の約23%に留まっており、未だ十分ではありません。また、2001年4月からは医療法改正により日本医療機能評価機構の認定を受けていることが広告できるようになりました。今後も、多くの病院が病院機能評価を受けることが望まれます。
日本医療機能評価機構の詳細についてはhttp://www.jcqhc.or.jpを参照下さい。
表1 第三者による医療機能評価の利点
(日本医療機能評価機構ホームページより)
1. 医療機関が自らの位置づけを客観的に把握でき、改善すべき目標もより具体的・現実的なものになります。
2. 医療機能について、幅広い視点から、また蓄積された情報を踏まえて、具体的な改善方策の相談・助言を受けることができます。
3. 地域住民、患者、就職を希望される人材、連携しようとするほかの医療機関への提供情報の内容が保証されます。
4. 職員の自覚と意欲の一層の向上が図られるとともに、経営の効率化が推進されます。
5. 患者が安心して受診できる医療機関を増やすことになり、地域における医療の信頼性を高めることができます。
2. 医療機能評価の歴史
2001年に米国Institute Of Medicine (IOM)はレポートCrossing the Quality Chasmを公表し、受けることのできる医療サービスと実際に受けている医療サービスの内容に差異があり、これはchasm(断層)と表現されるほど深刻であること、今後、疾病構造が慢性疾患中心となり、複数の医療機関による治療の割合が増加するに連れこのchasmは拡大することが危惧されること、これを解消するためにはIT(information technology)の大々的な導入と、医療提供体制の大幅な変革を必要とすることを指摘しました。医療サービスの質についての関心は世界的に高まっています。
医療サービスの質を評価しようとする試みはこれまでにも種々行われてきました。E. Codman(1914)は主として外科手術の結果に着目してEnd Result Systemの概念を提唱しました。A. Donabedian(1966)は構造(structure)、過程(process)、結果(outcome)の3つの視点から評価されるべきであると提唱し、この考え方は現在も広く用いられています。医療システム評価の観点からは、古典的な3つのE(Effectiveness(効果)、 Equity(公平)、Efficiency(効率))のほか、WHO(World Health Organization)がWorld Health Report (WHR) 2000でもちいたHealth(健康)、Responsiveness(応需)、Financing(財政)、Efficiency、IOMレポートでのSafety(安全)、Effectiveness、Patient Centeredness(患者中心)、Timeliness(迅速)、Efficiencyなどが代表的です。概念に若干の変遷が見られますが治療の効果と、患者の利便、その他の価値から構成されるという構造は基本的には変わりません。またWHR2000では、それぞれの構成要素についてレベル (=goodness)のみでなく、バラツキ(=fairness)についても評価方法に含めるべきであるとしています(図1)。
医療サービスの質については、1.受けるべき医療サービスの質と実際に受けている医療サービスの質に深刻な差異の存在すること、2.医療サービスの質はいくつかの構成要素に分けられるが、治療の直接の効果、患者の利便性、その他から成ること、3.構成要素のそれぞれについてレベルのみでなくバラツキも評価されるべきであること、がほぼ世界共通の認識となっている。
表1 第三者による医療機能評価の利点
評価の視点 | 対象 | 提唱者 | 備考 |
---|---|---|---|
End Result System | 医療機関 | Codman, E 1914 | Outcomeに基いて外科医の評価を行うもの。もっとも古典的。 |
Structure, Process, Outcome | 医療機関医療システム | Donabedian, A 1966 | 体系的な整理。現在でも用いられているだけでなく、医療システム評価でも基本的な枠組みはかわらない。 |
traditional 3Es (Effectiveness, Efficiency, Equity) | 医療システム | 「3つのE」は、すべてoutcomeの指標であり、相互にtrade-offの関係にある。医療システム評価でしばしば用いられる概念であり、日本では「効果」「効率」「公平」から「3つのK」ともいう。 | |
Health, Responsiveness, Finance | 医療システム | World Health Organization, World Health Report 2000 | Health、Responsiveについてはそれぞれレベル(Goodness)とバラツキ(Fairness)を、Financeについては可処分所得に占める医療費割合を指標に、その国(医療システム)の評価・ランク付けを行ったもの。Responsivenessには、医療に対するアクセス、個人の尊厳などの概念を含むが、西欧的な価値観と異なる文化でどの程度適応が可能であるかについては議論の余地が有る。 |
Safety, Effectiveness, Patient centeredness, Timeliness, Equity, Efficiency | 医療システム | Institute of Medicine, Crossing The Quality Chasm 2001 | 米国人が受けることのできる医療サービスの質と実際に受けている医療サービスの質には大きなChasm(断層)がある。これは多数の医療機関の関与する慢性疾患の比重の増大とともに更に拡大する可能性があり、これに対してはInformation Technologyの活用と医療供給体制の抜本的な改変が必要であると主張する報告。 |
図1 レベルとバラツキ
医療の質のそれぞれの構成要素を評価するにあたっては、それぞれのレベルだけでなくばらつきについても考慮する必要があります。レベルは絶対的な質(狭義の質)を、バラツキは公平性・標準化の程度を示す指標です。
3. 評価項目の概要
(財)日本医療機能評価機構では、病院をいくつかの種別に分けて、それぞれに応じた評価項目を用いて医療機能評価を行っています。種別は、急性期医療を行う「一般病床」、精神科医療を行う「精神病床」、慢性期医療を行う「療養病床」、及び病床規模により区分されます。表1に病床種別と区分(審査体制区分)を示します。
病院機能の評価の対象は、一般病院の評価においては6領域、精神病床・療養病床の評価においてはこれに各1領域を加えた8領域としています。表2にそれぞれの領域を示します。
認定病院の一覧、評価の結果概要については日本医療機能評価機構のホームページで公開されています。
表1 病院種別と内容
一般病床および一般病床と精神科病床や療養病床が複合するような場合には、100床、200床、および500床を区分点にして4区分とします。
審査体制区分 | 全体の病床数 |
---|---|
1 | 20床~99床 |
2 | 100床~199床 |
3 | 200床~499床 |
4 | 500床~ |
精神科病床、療養病床のみ、またはこれらが複合するような場合は、200床、400床を区分点に3区分とします。
審査体制区分 | 全体の病床数 |
---|---|
1 | 20~199床 |
2 | 200~399床 |
3 | 400床~ |
表2 各領域とその内容
領域 |
---|
1. 病院組織の運営と地域における役割 |
2. 患者の権利と安全確保の体制 |
3. 療養環境と患者サービス |
4. 医療提供の組織と運営 |
5. 医療の質と安全のためのケアプロセス |
6. 病院運営管理の合理性 |
7. 精神科に特有な病院機能 |
8.療養病床に特有な病院機能 |
4. その他の医療機能評価
米国では医療機関の評価・認定を行うJCAHO(Joint Commission on Accreditation of Healthcare Organizations)、HMO(Health Maintenance Organization)の評価・認定を行うNCQA(National Committee on Quality Assurance)等があり、それぞれが独自の視点から評価・認定を行っています。これらは組織体としての医療機関、保健システムの評価を行うものです。またインディケーターを設定しアウトカムから評価を行う試みとしては、病院機能全般を対象にしたMaryland Hospital Association、オーストラリア連邦政府が代表的なものです。医療機能の特定分野を対象にしたものとしては、院内感染症を対象にした CDC(Centers for Disease Control and Prevention)のNNIS(National Nosocomial Infection Surveillance)、ICU機能を対象にしたオランダNICE Projectなどがあります。また消費者の視点からは、消費者団体の調査員が患者として医療機関を受診し、説明内容等を確認する試みなども行われています。表1に代表的なものをまとめて示します。また表2にはMaryland Hospital Associationが急性期入院医療のベンチマーキングで用いているインディケーターを示します。
表1 種々の医療機能評価
対象 | 評価機関 | |
---|---|---|
総合評価 | 医療機関 | 米国JCAHO(Joint Comission on Accreditation of Healthcare Organizations)、日本医療機能評価機構 |
HMO | 米国NCQA(National Committee on Quality Assurance) | |
ベンチマーキング | 病院機能全般 | Maryland Hospital Associationオーストラリア連邦政府 |
院内感染症 | 米国Centers for Disease Control and Prevention (National Nosocomial Infection Surveillance) | |
ICU | オランダNICE (National ICU Evaluation) Project | |
その他 | 医療機関 | 消費者団体など(ドイツ) |
表2 メリーランド病院協会の急性期病院の臨床指標(Clinical Indicator)
領域 | 内容 |
---|---|
院内感染症発生率 | 病棟のタイプ別、患者のリスク別の院内感染症発生率 例 院内感染症/1000人・入院日 菌血症/中心静脈を使用した1000人・入院日 肺炎/人工呼吸器を使用した1000人・入院日 尿路感染/膀胱留置カテーテルを使用した1000人・入院日 |
ICUにおけるデバイスの使用率 | 病棟のタイプ別の機器使用頻度 例 中心静脈を使用した延べ患者数/全延べ患者数 人工呼吸器を使用した延べ患者数/全延べ患者数 膀胱留置カテーテルを使用した延べ患者数/全延べ患者数 |
手術創の感染率 | 以下の術式での手術創感染率 CABG 股関節形成術 膝関節形成術 腹式子宮摘出術 |
入院死亡率 | 全入院患者 TIAを伴わない脳血管障害(DRG014) 呼吸器系の感染と炎症、17歳以上、合併症・併発症を伴うもの(DRG079) 慢性閉塞性肺疾患(DRG088) 肺炎、17歳以上、合併症・併発症をともなうもの(DRG089) 心不全とショック(DRG127) 消化管出血、合併症・併発症をともなうもの(DRG174) 腎不全(DRG316) 敗血症、17歳以上(DRG416) 人工呼吸器を必要とする呼吸器系の診断(DRG475) HIV、主要な病態をともなうもの(DRG489) その他全てのDRG |
新生児死亡率 | 出生体重別、入院経路別の死亡率 出生体重:750g以下、1000g以下、1800g以下、1801g以上 入院経路:病院内で出産、他院からの転送 |
周手術期死亡率 | 全手術患者、麻酔リスク別(ASA1-5)の周手術死亡率 |
分娩管理 | 帝王切開率(総、初回、2回目以降)、帝王切開後の経膣分娩 |
予定しない再入院 | 期間別、疾患別の予定しない再入院率 期間別:15日以内、31日以内 疾患別: 全疾患 呼吸器系の感染と炎症、17歳以上、合併症・併発症を伴うもの(DRG079) 慢性閉塞性肺疾患(DRG088) 肺炎、17歳以上、合併症・併発症をともなうもの(DRG089) 心不全とショック(DRG127) 狭心症、胸部痛及び関連病態(DRG140,143) |
外来処置後の予定しない入院 | 処置別、入院目的別の予定しない入院率 処置別: 心臓カテーテル 消化管・呼吸器・泌尿器系の内視鏡検査 全ての外来手術 入院目的別:入院治療、様子観察、両者の合計 |
予定しないICUへの再転科 | |
予定しない手術室への再入室 | |
CABGによる死亡率 | 全手術患者、麻酔リスク別(ASA1-5)の死亡率 ただしCABGは診断目的で単独に行われたもののみが対象 |
抑制 | 抑制数:件数、患者実数、2回以上抑制患者数 抑制時間別件数:1時間以内、4時間以内、16時間以内、24時間以内、24時間超 理由別抑制件数:認識障害、治療の円滑化、転倒の危険、破壊・粗暴行為、 その他 時間帯別抑制件数:7:00-14:59、15:00-22:59、23:00-6:59 |
転倒・転落 | 件数:転倒・転落件数 理由別:患者の健康状態、治療にともなうもの、環境、その他 傷害別:傷害を伴うもの、傷害程度(severity score)1-3 回数別:2回以上の件数 |
鎮静・麻酔に伴う合併症 | 重症度・治療の必要度別の件数 酸素投与を必要としたもの 酸素飽和度の中等度の低下を認めたもの 酸素飽和度の重度低下を認めたもの 覚醒のために薬剤投与を必要としたもの 誤嚥を生じたもの気道閉塞を生じたもの 収縮期血圧の20%以上の低下を認めたもの 麻酔科医の治療を必要としたもの 予期しない意識障害を生じたもの |