(74)「共」 左右の手を合わせた姿
二人以上の人がいっしょに仕事をすることを「共同」と言います。また二人以上の人で所有することを「共有」と言います。今回は、この「共同」「共有」の「共」という字について紹介(しょうかい)したいと思います。
まず「共」の古代文字を見てください。これは「又(また)」という文字が左右対称(たいしょう)形に二つかかれた字形です。この「又」は「手」の形ですから、「共」という字は左右の手を合わせた姿です。
つまり「共」は両手に神へのお供えものを持って、恭(うやうや)しく神を拝むことを示している文字です。このように「共」は左右の手をともに挙げる姿なので「ともに」の意味があるのです。
また神にお供えものを捧(ささ)げることですから、「共」に「人」を加えた「供」に「そなえる」の意味があります。
酒食のもてなしをすることを「供応」と言いますし、物品を差し出して相手の用にあてることを「提供」と言います。
でも身分の高い人に付き従うお供(とも)の意味での「とも」や名詞の下につけて複数であることを表す「ども」は日本語だけの用法です。
さらに両手を共にそろえて神に供える時の「心」は「うやうやしい心」なので「共」に「心」を加えた「恭(きょう)」は「恭(うやうや)しい」の意味となりました。
ついでに紹介しておきたいのは「拱(きょう)」という字です。これは学校で学ぶ漢字ではないので、理解するだけでいいです。でもこれまでの延長上にすぐ理解できる文字です。
「拱手」という言葉があるのですが、この「拱手」とは、体の前で両手を組み合わせて、胸元で上下する中国の敬礼の一つです。さらに「両手」を組んで何もせずにいることも意味します。
「共」の字は両手で供える時の心やしぐさのことも意味していましたが、次第に「そろえる」「いっしょ」の意味に転用されていったので、「恭」や「拱」の文字が作られたようです。(共同通信編集委員 小山鉄郎)