トランプ勝利後、女性たちによる「4B運動」がTikTokで広がっている

「4B運動」は女性に対し、男性との交際、結婚、性的関係、出産を拒否することを呼びかけている。ドナルド・トランプの大統領再選を機に、米国でもこの運動の浸透を目指す声が広がっている。
A photo illustration of a silhouette of a man covered and surrounded by women emojis crossing their arms.
Photo-Illustration: WIRED Staff/Getty Images

カメラを見つめるマリア・バルビエリは、バリカンを手に取った。ドナルド・トランプが米国大統領に再選された日、@girl_dumphim というハンドルネームで投稿している彼女は、「今日は刺激的な気分で目が覚めた」と感じた。そして髪を剃ろうとし、ついにはハサミで髪の束を次々と切り落とした。

「アメリカを諦める?わたしはもう諦めた」と、彼女は11月6日の朝に投稿されたTikTok動画で話す。「髪を染めることも諦めた。だって、そうでしょ?髪なんてもう染めるなんてクソ。髪を長くてゴージャスに保つのもクソ……家父長制(男性支配)に期待されることなんて全部クソでどうでもいい、彼らはわたしたちのことを全然気にしていないのだから」

結婚、デート、性交渉、出産を拒否

動画には「脱退(Opting out)。4B」というテキストが浮かんでいる。これは、すべてのジェンダーに平等な権利が確立されるまで、男性との結婚やデート、性交渉、出産を拒否することを女性たちに勧める韓国発のフェミニズム運動に由来する言葉だ。この動画は本記事の掲載時点で300万回以上の再生数を記録している。

6日、バルビエリ以外にも4B運動についての動画を投稿する人が複数いた。別のユーザーは「共和党の彼氏と昨晩別れ、今朝から正式に4B運動に参加しました」と宣言し、900万回近く再生されている。この動画の投稿者である @rabbitsandtea は、彼女の決断と外見についてのコメントに答えるための動画を追加でいくつか投稿している。

また、@smith.woods というユーザーが投稿した、「トランス女子のみんな、鍵をかけて」というメッセージで4B運動に賛同する動画は5万回以上再生された。

「男性と寝ることで、自分の命や安全を危険に晒す価値なんてない」と、TikTokで@ftheniceguyというアカウント名で活動するリーガンが語る。彼女自身はゲイであるものの、女性たちに男性を避けるように呼びかけ、「彼らはわたしたちを大切にせず、わたしたちのために投票したり、わたしたちのために立ち上がったりもしないのだから。自分を守ることが大切です」と訴えている。

4B運動を米国の政治に適用しようという話題はTikTok上だけでなく、5日以来、XやThreads、Redditのr/Feminismなどでも盛り上がっている。トランプの大統領再選が明らかになると、数時間後にはGoogle 検索の4B運動の関心も急上昇した。特にトランプが若年男性層に大きな支持を得た選挙であったことから、その勢いはさらに加速している。

「4B運動」を生んだ韓国社会の課題

4B運動は韓国で始まったもので、結婚、出産、恋愛、性交渉(非婚、非出産、非恋愛、非性交の4つの非「ビ」)を避けることを女性に推奨している。この運動は韓国文化に対する抗議から生まれたもので、デート暴力やリベンジポルノ、男女間の賃金格差といった問題が蔓延する社会構造に対する反発から始まった。

韓国は世界で最も出生率が低い国であり、政府の出産支援にもかかわらず、多くの女性が母親になることの負担が大きすぎると感じ、「子どもを産む機械」として扱われることを拒否していると『New York Times』が報道した。

2010年代後半に始まったこの運動が米国で注目を集めるようになったのは今年に入ってからであり、3月には『New York Magazine』で長編記事が掲載され、著者アンナ・ルイ・サスマンは4B信奉者たちが髪を切り、化粧品を使わないことで自身の意思を表現している様子を詳述した。「4B支持者が受ける反発や脅威は、いかに韓国が女性にとって依然として厳しい場所であるかを裏づけています」と彼女は綴り、4B活動家が受ける脅迫や攻撃を指摘している。

自分を守るための権利が脅かされた

『WIRED』に話したクリエイターのなかには、選挙前からすでにこの運動に参加していたという人も数人いる。プライバシー保護のため、姓の公表を控えることを求めたDalina(代名詞としてthey/themを使用)は、ある男性と軽い交際をしていたとき、「君の中に出そうかと思った」などと彼が冗談めいた発言をしたと述べている。その瞬間、Dalinaは血の気が引いたといい、「なぜそれが脅しのように聞こえるのだろうかと考えたのです。結局、それは実際に脅しだったんです……彼もそれが脅しであることを理解していました」と語っている。

TikTokで@senoracabronaというアカウント名で活動するDalinaはその後、男性との恋愛や性的関係を断つことを決意したという。「4B運動について調べて」と促すテキストを含む動画が13万回以上再生された。

トランプの当選に伴い、性と生殖に関する権利やLGBTQ+の権利に対する脅威、そしてそれに伴うミソジニー(女性蔑視)に対して、オンライン上で多くの女性が恐怖を感じ、その感情を行動に変えている様子がうかがえる。

バルビエリは、自身の4B動画を投稿したのは、数カ月前からRedditやFacebook、Instagramといったプラットフォームのフェミニスト関連のページでこの運動について調べていたためだと語る。投稿後、男性からの否定的なコメントもいくつかあったが、特に4B運動に関心をもつ女性たちから多くの支持を受けたと驚きをみせている。

「世界中の『敗者側』から支援のメッセージをたくさんもらっています」と彼女は語る。

大統領選前から実践する人も

TikTokのクリエイターであるアシュリー・ポラードは『WIRED』に対し、2年前から4Bを実践しており、その経験は解放的だと述べている。「自分の考えや行動がいかに男性中心に形成されていたかを、4Bに参加することで初めて気づきました」と語る彼女は、選挙後にほかの女性がTikTokで4B運動について投稿しているのをみて、自分の体験を公にする決意をしたという。

「一部には、怒りからの行動もあったと思います」とポラードは語り、「でも、選挙の結果に腹を立てている21歳が、単純にこのアプリで騒いでいるわけじゃないことも理解してほしいです」と話した。「わたしは36歳で、自分の生き方について慎重に考えたうえで、この決断をしました」

ポラードによると、4B運動に関する動画は多くの注目を集めると同時に、反発も呼び起こしている。なかには4B運動や性と生殖に関する権利に関する動画に対し、「あなたの身体はわたしのもの(your body, my choice)」というコメントを残す(恐らく)男性ユーザーもおり、白人至上主義者ニック・フエンテスが選挙夜にライブ配信で「俺たちはお前らの体を支配している!」と叫んだ言葉を引用する者もいる。

TikTokはこのフレーズがコミュニティ基準に違反するかどうかについて正式なコメントを避けたが、『WIRED』が指摘したこのフレーズを使った4つの動画は本記事が公開された後に削除された。

「(妊産婦死亡率が)異常に高く、さらにありえないほど増加しているなかで、誰がこんな状況を受け入れる必要があるのでしょうか? 」とDalinaは問いかける。「セックスがそんなによかったのでしょうか? 本当にそこまでの価値があるのでしょうか? 彼らが守ってくれないなら、何の価値があるのでしょうか? 」

(Originally published on wired.com, translated by Eimi Yamamitsu, edited by Mamiko Nakano)

※『WIRED』による政治の関連記事はこちら。


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