今度こそウェブブラウザーからCookieが消える? グーグルの新技術「Topics」の勝算

ウェブでの行動をデータとして記録するCookieの廃止に向けたグーグルの取り組みが、新たな展開を見せた。計画の中核だった「FLoC」と呼ばれる技術の開発を同社が断念し、新たに「Topics」という仕組みの導入を発表したのである。業界の反発もあるなか、新たな取り組みは成功するのか。
The Google logo is projected onto a man
PHOTOGRAPH: LEON NEAL/GETTY IMAGES

ウェブブラウザー「Google Chrome」からサードパーティーのCookieを廃止しようというグーグルの計画が難航している。人々のオンラインでの行動をデータとして記録するCookieについて、グーグルがChromeのシステムを見直すことで2年以内に廃止すると発表したのは2020年1月のことだった。

それから2年が経ち、グーグルはさらに新たな計画を打ち出した。Cookieを廃止する計画の中核になるはずだった「Federated Learning of Cohorts(FLoC)」の開発を断念し、新たに「Topics」という技術を導入すると発表したのである。

このTopicsは、ChromeでサードパーティーのCookieを廃止すべくグーグルが取り組んでいる「プライバシー サンドボックス」を構成する要素のひとつだ。この動きは表面的にはユーザーのプライヴァシーを高めるように見えるが、その影響について多くのプライヴァシー専門家は限定的なものになると指摘している。

また、アドテクノロジー業界でさえも今回の動きを歓迎していない。競合する企業たちは、グーグルが自らのイメージ通りにオンライン広告をつくり変えようとしていると批判しているのだ。

検索エンジンを手がけるこの巨大企業は、21年第3四半期だけで広告によって530億ドル(約5.8兆円)の利益を得ている。だが、グーグルの主戦場であるオンラインの世界は変化しつつあるのだ。

サードパーティーのCookieを制限する動きにおいて、グーグルはライヴァル企業に大きく後れをとっている。「Safari」「Firefox」「Brave」といったブラウザーでは、サードパーティーのCookieは何年も前から制限されているのだ。なかでもアップルのSafariは17年から制限に踏み切っている。

だが、グーグルによる取り組みは、はるかに多大な影響を与えるものになるだろう。Chromeは世界のブラウザー市場の63%を占めている。つまり、グーグルが設定する基準は、ほかのブラウザーが追随を余儀なくされるものになる可能性が高いわけだ。

FLoCの導入が失敗に終わったグーグルは、将来のオンライン広告の別のあり方としてTopicsを提示した。しかし、その先行きは不透明だと業界関係者たちは見ている。

頻繁にアクセスしたカテゴリーを記録

Topicsは、ユーザーの閲覧履歴を分析して興味のある分野を特定する仕組みだ。例えばTopicsでは、クルマが好きな人が訪問したウェブサイトにはクルマの広告を表示させる。

そのユーザーがクルマ好きかどうかを特定するために、グーグルの「Topics API」を利用するウェブサイトには、幅広いカテゴリーから1つが割り当てられる。例えば、タトゥーに関するウェブサイトは恐らく「ボディアート」に、地方紙は「ローカルニュース」に、といった具合だ。

ユーザーによるインターネットの利用に合わせて、Chromeは最も頻繁にアクセスしたカテゴリーを記録する。そして毎週、そのユーザーが最もアクセスした上位5カテゴリーを集計し、システムに“ノイズ”を加えるために6つ目のランダムなトピックを追加する。

グーグルによると、このプロセスはサーヴァーではなくユーザーのデヴァイス上で実施されるという。この6つ目のカテゴリーはユーザーが訪問するウェブサイトとも共有され、そのユーザーが目にするターゲット広告に使用される。これらのデータは3週間後には削除される。

「Topics は、これまでの FLoC の開発から得た知見とコミュニティーから寄せられたフィードバックに基づいています」と、グーグルでプライバシー サンドボックスを担当するプロダクトディレクターのヴィナイ・ゴエルは、公式ブログへの投稿で説明している。

いくつかの改善点

これに対してFLoCのシステムでは、閲覧履歴を利用することで、同じような興味をもった人々を数千人ごとのグループに分類していた。例えば、あるユーザーが「犬に興味がある」とグーグルのアルゴリズムが判断すると、ほかの犬好きの人と同じカテゴリーにまとめられる。

ところがFLoCの導入計画は、大手のウェブサイトや競合するブラウザーが不採用を決めたことで頓挫した。また、欧州連合(EU)の規制当局や英国の競争・市場庁(CMA)も、このグーグルの提案について調査を開始している。プライヴァシー保護団体はFLoCがプライヴァシーに悪影響を与えるものとして警告し、広告業界からも好感触は得られなかった。

それでは、Topicsはどうだろうか?

「Topicsでは、いくつかの改善がなされています」と、プライヴァシーを重視したウェブブラウザーを手がけるBraveのチーフサイエンティストのハメド・ハッダディは言う。ハッダディによると、FLoCでは人々を30,000種類以上の異なるカテゴリーに分類可能で、それにより広告主はユーザーの興味について具体的な情報を得られている。また、この情報をほかのデータと組み合わせることで、それぞれのユーザーについて詳細にわたって把握することもできたという。

こうした可能性が、Topicsでは低くなる。人々に割り当てられる興味のカテゴリーは350種類ほどにとどまるからだ。

しかし、この数字は今後増えることとなるだろう。グーグルの技術説明によると、同社の最終的な目標はこれらのトピックをサードパーティーから調達することにあり、「数千種類のトピック」になる可能性があるという。 またBraveのハッダディによると、6つ目のランダムなトピックをユーザーの興味分野に加えることで、よりプライヴァシーに配慮したシステムになるという。

センシティヴな情報が明らかになるリスク

グーグルが主張するFLoCとのもうひとつの潜在的な違いとして、Topicsでは人種や性別に基づいた広告を表示するといったセンシティヴなカテゴリーの割り当てを避けようとしている点が挙げられる。

FLoCはユーザーの行動や興味からセンシティヴな属性を生成したり、推測できたりする可能性があるとして批判された。グーグルによると、ユーザーは自らに割り当てられた興味分野をより自由に管理できるようになり、Chromeで設定を変更したり、トピックのブロックやオプトアウトをしたりできるようになるという。だが実際のところ、こうした方法でChromeの設定を変更するユーザーは多くはないだろう。

さらに言えば、ウェブサイトが個人のセンシティヴな特性を探ることのリスクは、Topicsでも完全には払拭できない。グーグルのTopics に関する説明には、「APIを呼び出すウェブサイトが、意図した用途以外でトピックとほかの手がかりを組み合わせたり相関させたりして、センシティヴな情報を推測する可能性が残されています」と書かれている。

また、時間とともにウェブサイトが「特定のユーザーに関連するトピックのリストを作成する」ことが可能になり、それによりセンシティヴな情報が明らかになってしまう恐れもある。グーグルが修正すべきとしているプライヴァシーとセキュリティの問題は、ほかにもある。グーグルは今後数カ月以内にChromeでTopicsを試験運用する予定だが、フィードバックによってシステムが変更される可能性もある。

広告会社にとっては後退?

さらに、競争に関する問題もある。ユーザーに割り当てられる興味分野の種類が少なくなることで、グーグルはすでに同社が支配するオンライン広告業界において、さらに大きな力を手に入れることになるかもしれない。

広告管理システムを手がけるCafeMediaの共同創業者のポール・バニスターは、Topicsはユーザーのプライヴァシー保護においては前進のように思えるが、広告会社にとっては後退になる可能性もあると指摘する。

バニスターによると、Topicsに含まれる現行の350種類の興味分野は大まかなものであり、製品を購入する可能性の高い個人をターゲットにしたい広告主にとって有用なものになる可能性が低いという。「これらのトピックは固定されており、広告主のマーケティングキャンペーンに本当にかかわりのあるセグメントを見つけることは困難です」と、バニスターは語る。

「現状ではTopicsは、Chromeブラウザー向けのソリューションにすぎないと思います。クロスブラウザーでもクロスプラットフォームでもありません」と、デジタル広告プラットフォームを手がけるThe Trade Desk英国法人のヴァイスプレジデントのフィル・ダフィールドは指摘する。

The Trade Deskは、ウェブサイトにサインインする際に使うメールアドレスと関連づけられた識別子を基に、Cookieに置き換わる独自技術を開発した。「ほかの複雑な技術課題と同じように絶対的な解決策はありません。でも、将来のソリューションは業界全体のあらゆるプレーヤーが相互運用でき、簡単に使えることが重要だと考えています」と、ダフィールドは語る。

Braveのハッダディは、現在のかたちのTopicsはChromeのプライヴァシー性能を高めるだろうと指摘する一方で、その他ほぼすべてのブラウザーが設定している基準には到達していないと考えているという。「Safari、Firefox、Brave、Torなど、ほかの多くのブラウザーがサードパーティーのブロック機能をすでに充実させているなかで、Chromeにとってはクリアすべきハードルが上がっています」

変わらない目的 

Topicsの導入によってグーグルは、結果的にこれから何十年も広告業界のトップであり続けることができるかもしれない。一方で、規制当局がグーグルにやり方を変えるよう迫る可能性もある。グーグルのプライバシー サンドボックスに対するCMAの調査はいまも続いており、規制当局はすでに同社に対しいくつかの点について変更するよう指示している。

だが、アップルの広告ビジネスが急成長する一方で、グーグルは今後もグーグルとして君臨し続けるだろう。なにしろグーグルは世界最大のシェアをもつブラウザーと検索エンジン、そして巨大な広告ネットワークをもっているのだ。

TopicsはFLoCと異なるかもしれないが、その目的は同じところにある。わたしたちが目にする広告をグーグルの管理下に置き続けることだ。

(WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)