ぶっちゃけディスプレイ広告って必要なの? アドビ × 花王 × スマニュー × Web担が語った
ぶっちゃけディスプレイ広告って必要なのか。「デジタル広告の未来」をテーマに本間充氏(花王)、井上慎也氏(アドビ システムズ)、川崎裕一氏(スマートニュース)の3名が「ディスプレイ広告の指標や効果的な出稿方法」や「広告主が良いメディアを判断するポイント」などについて語ったセミナーをレポートする。
2015年7月30日に行われたスマートニュースとWeb担当者Forumのセミナーの第3部では、モデレーターのWeb担当者Forum編集長の安田から井上氏と本間氏と川崎氏に質問が投げかけられた。
ぶっちゃけディスプレイ広告っているわけ?
安田:ぶっちゃけ、僕はディスプレイ広告ってなくなればいいと思っているんですが、広告主側としてはどう考えていますか。
井上:ディスプレイ広告という形でなくてもいいと思っていますが、現状ではディスプレイ広告は無くならないと思います。
安田:それはなぜですか。
井上:私はCreative Cloudなどのクリエイティブ製品の販売を担当しています。既存のお客様などから、お客様のタイミングや事情で購入をしていただく一定数の売り上げは日々ありますが、期ごとの売り上げ目標を考えると、それ以上に売らないといけません。
つまり、より多くのお客様に気付いてもらって、納得してもらって、買ってもうためには、それなりの量の露出をする必要があるわけです。コンテンツマーケティングやネイティブ広告では、ある程度購入や検討に近いお客様を得られますが、やっぱりそこには量がないわけです。そこを補うために現状では、アウトバウンドの手法として量を稼げるディスプレイ広告が必要ですね。
本間:そもそもディスプレイ広告の順番が変わって来ているのではないかと思っています。今まではサイトに来てもらうためのディスプレイ広告でしたが、サイトに訪れた人にリマインドするためのリターゲティング広告のほうが増えてきていますし、刈り取りの確率もリターゲティング広告のほうがいいはずです。
つまり、打席の1番がディスプレイ広告という時代は終わったと思っています。枠やCTR、インプレッションでしか設定できないような広告は無くなっていく可能性が高いですよね。
CPV(コストパービジット)で分析する
安田:本間さんのセッションで、「動画広告は23%、ディスプレイ広告は11%ボットによって消費されていると言われているが、そんなに大きく問題視されるような値ではない」といった、考え方もありますが、刈り取り重視の広告の場合、刈り取り効率を11%、23%上げるのって大変ですよね。
井上:(笑)。もちろん大変ですね。
安田:パフォーマンス重視型の企業にとっては、ボットによって消費されているからいいやといった考え方はなかなか難しいのでは。
井上:そうですね。「広告予算はなかなか増えないけれど、パフォーマンスは上げろ」といった形が多いと思いますので、結果をいかに改善するかは重要ですね。ボットなどの無駄なクリックもしくは、人間がクリックしているが本来の意図とは関係のないクリックのトラフィックが多いなどのさまざまな条件でメディアを判断しています。
安田:具体的にはどんな条件の計測をしているのですか。
井上:メディアが提供するCPCを実はあまり信用していません。トラッキングコードを噛ませて、クリックが本当にサイトへのビジターにつながったのか、つまりちゃんとしたお客様としてのトラフィックにつながったのか、また回遊につながったのかといったことを見ています。
つまり、クリックがあるかどうかではなく、クリックの質を見ています。社内的な用語で言うとCPV(コストパービジット)でも見ています。結構メディアごとにCPCとCPVの差にバラつきがあるんですよ。
安田:ということは、CPAがよければいいということですか。
井上:そうですね。ただ、よいトラフィックが来なければ、どんどんCPAは下がっていきます。ですので、CPAだけでなく、その前段、CPVも1つの指標にしてコンバージョン率と組み合わせて最適化しています。
安田:本間さんは、広告をブランド認知として活用しているので、単なるCPAでは判断できないんですよね。
本間:そうですね。良い送客かどうかを判断するには、アクイジション(新規顧客獲得)が必要ですが、そもそもブランド認知が目的の場合アクイジションが取れないですよね。
井上さんのように、パフォーマンス重視のディスプレイ広告運用の場合、アクイジションが高いメディアがいい送客をしていると判断していて、単純にサイトに訪れただけではいい送客とは判断しないということをしているので、知らず知らずのうちにボットを排除していますよね。
安田:ANAの調査でもカテゴリごとに、ボット比率が異なるとありますが、単なる資料請求だとかアクイジションが明確に決まっていない業種、たとえば金融、食品といった分類ではボット比率が高くなっていますよね。
ボット詐欺、罪深きメディアと広告主
川崎:本間さんのセッションで、「ボットが起こっているのは広告主が悪い」といったことを言っていましたが、メディアもダメですよね。
広告主がメディアの話を聞くのと同じくらいメディアが広告主と対話していくことが大事ですよね。僕が営業に行くときは、面倒くさがられるのを承知で、スマートニュースで達成したい世界観の話から始めます。この話をした時点で、さーっと引かれたら、「もうここはダメだな」と思うくらい覚悟していってます(笑)。
「企業が抱いているストーリーをメディアという乗り物に乗せてユーザーに届ける」ことが広告だと思っているので、あからさまにストーリーが乗れない乗り物だったら、途中で沈んでしまうのは当たり前ですよね。
ですから、広告主のストーリーがどんなものなのか、メディアはどんな乗り物なのかといったことを対話していく必要があるんです。
本間:確かに正しい考え方だと思います。私が「広告主がダメだ」となぜ言っているかというと、インターネットに始まったことではなくて、テレビ番組も今では、広告主提供ではなくスポット枠購入になってしまったからです。
「視聴率がこのくらい取れればいいから、番組を買い集めてくれる?」といったオーダーを代理店にしてしまっているわけです。これは楽なんだけど、番組とCMには全く関係性がないわけです。インターネットの広告でも同じことがいえますよね。
川崎:僕にとってみたら、インターネット広告に携わる時間が長かったので、逆にテレビ広告が新鮮に感じられます。エン・ジャパンさんと一緒にやっているスポンサードチャンネルは、テレビでいうと1社提供の番組です。インターネットの広告もそういうところに踏み込んで行かないとダメだなと感じています。
広告はメディアに作らせるべきか?
安田:本間さんのセッションで、メディアにコンテンツやクリエイティブを作らせたらいいといった話が出ていましたが、皆さんはどうお考えですか。
本間:実は、その考え方に井上さんは異論があるみたいですよ(笑)。
安田:え、どんなことですか?
井上:メディアにコンテンツという形で広告を作ってもらうのはアリなんですが、バナーを作ってもらうのはナシです。
たとえば、テレビCMをテレビ局に作ってもらうというのは、利害が一致しているわけです。テレビ局側は、番組はもちろん、一つのスクリーン上で別々にお届けするCM中でも視聴率を取りたいわけですから。
一方、インターネットの場合は、利害が一致する場合とそうでない場合があると思っています。
たとえば、タイアップなどの記事広告の場合は、メディア側もトラフィックが稼げますし、読者に合ったコンテンツを提供できるので、利害が一致していますよね。一方、バナー広告になってしまうと、利害が一致しないのではないでしょうか。
本来、メディア側は、コンテンツを読ませたいし、他のコンテンツも読んでもらってPVを稼ぎたいわけですが、コンテンツと同じ一つのスクリーン上で掲載されるバナーを目立たせたうえで、メッセージを受け取ってもらって、クリックをしてもらうとなると他サイトへ飛んでしまうわけですから。
本間:なんでクリックしないバナーってないんでしょうね。新聞や雑誌の広告の場合、枠があるだけでどこか別の場所に飛ぶってことはない。でも、インターネットになったとたん、クリックが大好きになったからクリックさせているんだけど、そもそもクリックさせなきゃいいんじゃないのかな。
井上:た、確かにそうですね(笑)。認知してもらうことが目的ならばクリックさせなくても大丈夫ですよね。また、バナーの認知効果(ブランディング効果)とクリックに関しては相関がないとも言われています。
ただ、メッセージを伝えるためには、まずバナーに気付いてもらわなければいけないですよね。そこは結局、読者の目線の奪い合いということで同じになるわけですよね。
スマートニュースでディスプレイ広告を採用しなかった理由とは?
本間:インターネットの話を中心に議論をしていますが、スマートニュースさんはモバイルを攻めていて、先ほどのスポンサードチャンネルのように、広告枠を1社にしないと他社の広告が入らないくらい表示されている画面面積が狭いですよね。
川崎:確かにおっしゃるとおり、モバイルの面積はとても限られています。
1つの面のなかの広告枠は限られていますが、深さは確実に出てきていると感じています。「クリックしたら、次、クリックしたら次」といった深さです。クリックした人はその後どのくらいの時間を消費したのかなど細かいことをカウントしています。広告枠の価値というものを媒体社は考えていかなければいけないと思っています。
ここまで詳しくユーザー行動を調べられるのは、アプリだからできるということもありますが、ブラウザだからできないということはありません。ブラウザでも頑張ればできますから。
安田:スマートニュースさんは、なぜバナー広告を採用しなかったのですか。
川崎:やっぱり、バナー広告は自然じゃないんですよね(笑)。ニュースで扱われている画像には原則、文字は載らないんですよね。それと同じようなフォーマットで広告として扱われたらユーザーは違和感を覚えるはずですよね。
ユーザーが求めている表示方法を追求して行ったら、結果的に今のような形の広告表示に落ち着いたわけです。そもそもバナー広告を作ろうという発想がなかったです。
安田:スマートニュースの広告は、ネイティブ広告でチャンネルに違和感なく自然に溶け込んでいますがチャンネルのトピックと出る広告の内容があってないときがありますよね。本来ネイティブ広告って、その広告から得られる体験も含めてそのメディアのオリジナルのモノと同様であるものがネイティブ広告であるという認識だったので。
川崎:チャンネルに合った内容の広告を出す努力をしていますが、広告主からの事前情報が少なかったり、システムの学習機能の精度がまだ甘いこと、また性別や地域など広告を読者にターゲティングしているケースなどもあり、チャンネルの内容と異なる広告が出てしまうことが確かにあります。ですが、本来はチャンネルに合った広告を出すべきだと考えています。
参加者からの質問事項
安田:参加者からいくつか質問が来ているので、そちらを紹介していきます。
――100万円分広告が出稿ができます。ディスプレイと純広告どちらに寄せるほうがいいですか。
本間:ディスプレイ広告に求める効果によってどちらに寄せるかは異なりますが、僕は、100万円あったら、代理店に「100万円分の効果を買ってきて!」とお願いしますね(笑)。
安田:確かに一番楽ですね(笑)。
本間:ディスプレイ広告に触れたユーザーにどんなことをしてもらいたいのかといったことを話していかないといけないですよね。
安田:え、普通はそういう話しをしないんですか。
本間:広告主は広告を出すことが仕事になっていることも多いですからね(笑)。売り上げを伸ばすなら、広告費も同じ分だけ増やすといった考え方で来ているし、そもそも、うちはそもそも露出狂なんで(笑)。
広告を見た後に、何らかの行動をしてもらいたいのであれば、インプレッション重視の広告をやるのも重要だし、メッセージを知ってもらいたいとかブランディングが目的であれば、純広告をやるべきですよね。どちらの効率が良いのか、リーチとやりたいことのバランスを考えないといけないですよね。
井上:たとえば、Acrobatなどのビジネスマンによく使われる製品のブランディングをするときは、ビジネス関連の主要なメディアで純広告を出しつつ、行動ターゲティングなどのオーディエンスデータを使った手法でビジネスメディア以外でもインプレッションを稼ぐ方法を採ります。
本間:主要メディアってどう判断しているの? 今でこそ情報がたくさんあふれているけど、ちょっと昔だとメディアシートしかなかったわけで。でもそこに載っている情報の信頼性が不透明ですよね。
井上:そうですね、メディアシートは一応信頼しています。ですが、それに加えてお客様が見ていそうなところを、製品担当者や営業担当者の感覚も加味して、広告を出稿します。そのあと、先ほどお話したCPVなどの細かい指標で実際にお客様がいて、ちゃんと反応してくれるメディアかどうかを分析し直していますね。効果が高いと判断されたメディアでも、使いすぎると効果が落ちてきてしまうので、ローテーションしながら常に効果が出るように施策を行っています。
安田:ちなみに、井上さん、いろんなツールを使って指標を取っているように思うのですが、広告費と分析にかかる費用ってどんな割合なんですか。
井上:難しいですね。別事業部ですが、自社で販売していて使えるツールもたくさんあるので……。
会場:笑
井上:広告費とその他分析や最適化にかかる費用も全部含めて予算内に納める必要がありますが、厳密に広告に何%、分析に何%と決めているわけではなく、広告費、分析費、最適化のためのツールやサービス費用トータルで広告のパフォーマンスが上がるように予算配分をしています。
あと、大事なことは小出しに新しいチャレンジを行うことですね。今、新しいチャレンジを試みるとCPCやCPAが一気に半分になるかもしれないけれど、「確実に個々の手法の効果を分析するため」と「継続的に成果を出し続けるため」に、トライ&エラーをしながら効果を見るようにしています。
本間:その考え方ってとても重要ですよね。
――メディアの価値をどう判断していけばいいのでしょうか。
川崎:メディアが独自のアドサーバーを持っている場合、それを検証する第三者のツールを入れて、データの透明性を担保しているメディアかどうかは、メディアを測る1つの指標になるのではないかと思っています。
スマートニュースも独自のアドサーバーで広告出稿をしているのですが、広告主さんが持っているトラッキングシステムと連携させてもらっていますし。
本間:トランスペアレンシー(透明性)ってすごい大事ですよね。実は、多くの企業で広告予算に対して、会計的な問題が指摘され始めているんです。なぜかというと、広告って納品書がないんですよね。どこで、誰が、どのくらい使っているのか、本当に広告を出稿したのか、それらが不透明なんです。広告予算に対して透明性が担保できていないということが1つ問題になってきています。
これは日本における問題で、第三者機関のレポートなどがないので証明のしようがないんです。
加えて、広告予算の設計ってどうやってきたのといったことが問題になってきています。予算の根拠が曖昧な場合が多いんですよね。しかも、売り上げがなかなか伸びない状況で、社員の給料が増えない代わりに、広告費が増えたりするわけですから。
メディアをどう判断するかについてですが、広告主側は、リーチが多いメディアを良いメディアと判断してきた経緯がありますが、メディアが持っているお客さんと広告主がリーチしたいお客さんが出会う接点として最適なのかを考える必要がありますよね。
マスメディアではなく、ユーザー属性が明確なメディアを広告主は選んで行かないといけないと思っています。
井上さん:メディアをどう判断するかといった考え方はほぼ皆さんと同じです。本間さんがおっしゃる点では、大量にメディアが増えていくなかで、広告主にもはっきりと選びやすいシャープなブランディングやポジションを持ったメディアが良いと判断されるようになってくると思います。それと同時に、そのメディアのなかに複数の広告主の広告が出されるわけなので、広告主側の広告も、もっとシャープになっていく必要があると思います。
ボット詐欺に関する調査は今後日本で行っていくのか?
安田:最後にずばり本間さん、ボット詐欺に関する調査って今後やってきますか。
本間:もっと世の中で議論が巻き起こってきたら、業界団体含めてやっていくことになるでしょうね。ただ、この調査をしてしまったら、広告主は絶対メディアに対して、「ボットによるクリックは無効と見なしてね」といった条件を出しますよね。
でも、メディア側がそれを行うためには、ボットを排除するツールを入れる必要があって、その費用をメディア側と広告主側とでちゃんと分担しないといけない。つまり、広告費にボットを排除する費用が上乗せされることを広告主もしっかりと理解しないといけないですよね。
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