ハードもソフトもメーカー側のエゴの塊なPS3

Wiiの価格発表以降、ゲーマーの中ではWiiへの批判とPS3への期待の復帰が徐々に始まっていたように思われます。しかし、徐々に気力を取り戻してきたPS3支持派に、冷や水を浴びせかけるニュースが飛び込んできました。
PS3 || 「グランツーリスモ HD」12月に発売。クルマやコースは別料金?
アニメ、ゲームなんでも情報寄せ集め:グランツーリスモHDのクルマやコースは別料金 - livedoor Blog(ブログ)
(スキャン画像)
http://www.theimageplace.net/uploads/979ce22b24.jpg
http://www.theimageplace.net/uploads/576add0753.jpg
http://www.theimageplace.net/uploads/ef1b032c77.jpg

ファミ通のフラゲ情報のようですね。以下に、上記記事の解説と分析をしてみたいと思います。

○据置ゲーム機としては異色のGT HDパッケージ

上記記事およびスキャン画像を見ると、どうやらGT HDでは以下の二つのパッケージ二つのパートからなるパッケージが発売される模様です。

  • GT HD プレミアム
    • PS3の機能をフルで生かしたグランツーリスモをGT5より先に体験可能
    • 最初から2コース、30台程度の車種を搭載
    • オンライン機能有り。追加車種・コースデータを有料ダウンロード購入可能
  • GT HD クラシック
    • E3で公開したGT HDベース(つまりGT4のHD版)
    • 最初に搭載されるコース・車種はなし。オンライン購入して初めてレース可能
    • イベントによって車などを入手できることはなし
    • 車は1台50〜100円程度、コースは200〜500円程度
    • 750車種以上、50以上のコースを用意。ただし、全て最初に公開するのではなく、徐々に追加していく形式。
    • 限定販売なども想定
    • ユーザ同士の車やコースの交換はRMTを生む危険もあるため現在考慮中

つまり、GT HDプレミアムはGT4でもやった「プレリュード商法」のPS3バージョンというところでしょうか。違うのは、オンライン対戦機能があることと、追加でデータ購入ができるぐらいで。GT5を完成させるのには2008年までかかり、その間何も売らないとやっていけないので、切り売りで場をしのいでいくという感じです。おそらく、親元のSCEからもそんなに長く待ってられんと突っつかれたところもあるんでしょうね。
GTHDクラシックは、アイテム課金オンラインゲームと一緒です。しかも、まず何か買わないとゲームすらできないところが違うところ。ゲームデータはE3版GTHDベースということですから、あの解像度だけ高くてぺらぺらスカスカなGT4ベースのグラフィックで展開されるようです。750車種、50のコースと行っていますが、全部そろえようと思ったら車の方は37,350円〜75,000円、コースの方は10,000円〜25,000円。両方高い方だとなんと10万円。…はじめっから、全部をダウンロードしてもらうことは考えていない価格設定ですね。つまり、フルバージョンというのは通常遊べないと。

上記だけでも、従来の据置ゲーム機からしてみるとかなり異色ですが、あとはパッケージそのものの価格も気になるところ。スキャン記事を見る限りではまだ価格未定ということですが、上記のような課金形式なら、正直2800円程度の非常に安い価格でないと納得してもらえない気がするんですが。GTHDクラシックだけなら、クライアントは無料配布でいいんじゃないか、というぐらいです。

○ソフトメーカー側のエゴが見える販売形態

しかし、こんなオンラインゲームの売り方を、GTほどのSCEキラータイトルがやってきたことは衝撃的です。たしかに、こんな売り方、HDDが前提じゃなければできるはずもないでしょう。ただ、どこもこんな売り方されたら、PS3廉価版の20GBでは近い未来にいっぱいになってしまうのは目に見えてますよね。そうした際、購入したコンテンツの以降はどうするのかなど、非常に気になる要素ではあります。いったんHDDから消して、もう一度プレイしたいときに購入済みのアイテムを無料でダウンロードできるにしても、数GBのデータのダウンロードとなるとADSLなどでは結構ヘビーですし、HDDから消せないとなると、数万円するHDDをこのために買い足さなければいけないわけですので。どちらにしても、ユーザにかかる負担は非常に大きく、このあたりをどうSCEは考えているか、SCEは明確に回答する義務があるように思いますね。

それにしても、前々から久夛良木氏が「PS3ではオンライン配信の世界が広がる」とか、スクエニ和田社長が「オンラインゲームに未来がある」といった発言をくりかえしてはいましたが、まさかこうした形で実現してくるとは思いませんでした。Xbox360が使い方によってハードウェア構成そのものをユーザが選択できる代わりにソフトはフルパッケージで高価になりがちなのとは逆に、PS3は本体がばら売りできない仕様にしてしまった一方、ソフトをバラ売りにすると。

ソフトウェアメーカー的に見れば、小出しでソフトを出せるPS3の方が優しいかも知れません。クラック対策、中古対策にも非常に有効でしょうしね。しかし、ユーザー側から見ると、どうでしょうか?ゲーム機自体はごちゃまぜで高価な状態でこの商法。一応、メリットとデメリットをリストアップしてみたいと思います。

ゲーム機本体は非常に高価、ソフトもとりあえず最初は安く早く購入できる(?)かもしれませんが、以下のようなデメリットも考えられます。

  • メリット
    • 大作ゲームでも序盤だけは比較的早くプレイ可能となる
    • 徐々に追加される分、初期投資は少ない。
    • 面白くなかった場合にも初期投資分の損害ですむ
    • いろんなゲームを、自分の財布具合に合わせてプレイできる
  • デメリット
    • 買ってすぐにフルバージョンを遊べない
    • データ追加ごとに金銭的なやりとりが必要だというストレスが発生
    • フルバージョンを極めようとするとあり得ない価格が必要
    • ゲームにかけられる金額の違いにより、同じゲームでもエクスペリエンスが変化してしまう(貧富の差も反映?)
    • 中古売買が強制的に禁止されるため、中古を安く買ったり早くクリアして高く売ることができない
    • ネットなしではタダのゴミ最小限の部分しか遊べない

上記のような点を見ると、いくつかメリットとなる面もあることはあるのですが、正直ユーザー側にはデメリットの方が多いように見えます。比較的ゲームソフトに多くのお金を費やすことができ、いろんなソフトをつまみ食い感覚でいろいろ試すような人であれば、多少受け入れられるとは思いますが、特に少ない小遣いで買うゲームを厳選し、買ったソフトは徹底的に隅々までやり抜く、といったプレイスタイルをしている人にとってはデメリットだらけでしょう。


こうしてみるとPS3は、ハードはBD普及を促進したいというハードメーカー側のエゴの塊、ソフトは次世代でかさむ開発費を効率よく安定して徴収したいというソフトメーカー側のエゴの塊と、双方がメーカー主体のエゴの塊でできたマシンのように見えます。一体、どこに消費者の目線が合ったのでしょうか?スクエニ和田社長の言葉に、自分は「ゲームに対する愛情を感じられない」、と何度か指摘していましたが、こうしてみるとPS3そのものに「ゲームユーザへの愛情が感じられない」と言いたくなってきますね。
別に全部が全部こういった課金形式になるわけではないでしょうし(というかなったら嫌)、SCE的にも長年アウトプットがなかなか出せないGTを使ったテストケースな気もしますが、それでもエゴが露骨に見えてしまって嫌な気持ちがするのは確かです。

○各陣営の主眼点の違いが明確に、消費者の選択は?

Wiiは価格発表以降ゲーマーの評価は微妙に低下していますが、Wiiの場合「既存ゲーマー以外をいかに増やすか」を追求して収益を拡大しようとしています。Xbox360はPS2の路線をそのまま引き継ぎ、「既存ゲーマーをいかに移行させるか」を追及して収益を拡大しようとしています。そしてSCEは、「既存ゲーマーにいかにして自分達の都合のいいビジネスモデルをおしつけるか」を追及しているように思えます。果たして、消費者はどのメーカーの戦略を支持するのか、そして既存ゲーマーは一体何を選択するのか、いろいろと興味深いところです。