300(ネタバレ注意)

walkeri2007-06-04

        フランク・ミラーって なんでできてる?
        フランク・ミラーって なんでできてる?
        エロスと バイオレンスと 911のトラウマ
        そんなもので できてるよ
 
 クセルクセス率いる100万のペルシア軍がギリシアに迫る。迎え撃つはレオニダス王自ら指揮を取るスパルタ戦士300人。その全員が死狂いである。
 暴力ってかっこいい! ふしぎ! ですよねー。という、男の子のプリミティブな部分を直撃する映画でした。女性がこの映画をどう見るのか、ちょっと想像がつかない。そのくらい「男性的」な作品として観ました。
 けなそうと思えばいくらでもけなせますよ、ストーリーは適当だし歴史的にも正確じゃないっぽいし政治的にも微妙だし。ついでに林完治さんにしてはなんだか字幕適当だったし。でも何を言ってもこの映像のパワーの前では無駄です。あまりにもド直球なHFO(ヒューマン・ファイター・オトコ)賛歌が、頭で考えた理屈をぜんぶ吹っ飛ばしてしまう。男の子はアクション映画に覿面に影響を受けるもので、たとえば『ボーン・スプレマシー』を観た後はしばらく大股で闊歩したりしちゃうものですが、この映画はさらに直接的に、「強い男はかっこいい」という価値観を叩き込んできます。体鍛えなきゃ!とか、戦えるようにならなきゃ!とか思っちゃう。オーケンの言う「強くなりたい道」です。これが高じると大変危険で、僕の場合も映画館からの帰りに、横道からタクシーが出てきたのに、「大丈夫、当たってもどうということはない」という思考が頭をよぎりましたからね。いやいやいや。全然大丈夫じゃない。盾持ってないし、ファランクス組んでないし、そもそもスパルタ戦士でもなんでもないから。
 法によって暴力の行使が制限されているため正統な戦ができず、八方ふさがりな状況を打開するため男たちが惜しげもなく命を捨てる、という展開は平田弘史漫画っぽくもあります。「骨身に沁みちょるスパルタの軍法、今更聞くまでもごわはん」とか。あのHunchbackのキャラクターなんか、『薩摩義士伝』に出てきてもおかしくない。というか、時代劇画好きのフランク・ミラーのことだから、まず間違いなく平田弘史読んでるべし。
 この映画、ペルシアが敵役なので、イランあたりでは米帝のプロパガンダ映画だという陰謀論も叫ばれたようです。んなこたーないだろーと思ってましたが、観てみたら、確かにそう言われるのも判るわ、とちょっと納得してしまいました。えらくストレートな自由主義礼賛メッセージが入ってるんですよ、取ってつけたような。個人的には、あれはプロパガンダとか難しいことを意図したものではなく、映画の製作に参加した原作者のフランク・ミラーが、藤田和日郎的不器用さを発揮しちゃったんじゃないかという気がしますが、パンフとか読んでないから間違ってるかも。しかしですね、その製作者の丸裸の主張すら、スパルタ戦士の修羅の庭ではなんの説得力も持たないのですよ。鍛えられた肉体! 精神! 兄弟との連帯! 槍と剣と盾! 弓などすくたれ者の道具なので使いません。言葉は不要、鋼と血とがすべてです。これは「文明の衝突」のプロパガンダ映画でもなければ、戦争賛美プロパガンダですらありません。しかし、非常に効果的な近接戦闘メレープロパガンダです。
 スクリーンの中でスパルタ戦士たちが鬨の声を上げるとき、僕はそれに唱和したい、槍を振り上げて叫びたいという衝動に胸を疼かせていました。今までも自分が弱いゆえに暴力描写に魅かれるのだという自覚を持ってはいましたが、どれだけ腰抜けで、牙を抜かれていても、自分の中には暴力への衝動が、戦いたいという欲求が眠っているのだなあと、改めて思わされました。男というのは、結局はそういう生き物なのかもしれません。
 気に入った台詞。

  • "This is Sparta!!":「狂っていると申したな。これがスパルタだ!!」あの蹴り落とすシーン最高ですよね。史上最も美しく撮られたヤクザキック。
  • "Traitor! Traitor!":「裏切者だ!」 気まずい雰囲気を振り払おうとして、みんな一斉に言い出すのがすごい可笑しい。Traitor!って叫んで拳を振り上げるのは多分とても爽快だと思う。やってみたい。
  • "Prepare for Glory!":「栄光は目前なるぞ!」 これぞ死狂い! そばで聞いててドン引きするアルカディア人が味わい深い。普通人の反応、なごむわー。

 ちなみに皮のパンツに赤マントという男らしい格好のスパルタ戦士たちですが、史実ではパンツなしだったようです。マッパに赤マント。ほんとはそれで撮りたかったんだろうなー。
 ペルシア軍のおもしろアーミー大集合っぷりは大いに楽しませていただきました。アジア最強軍団が出てきたあたりからおかしくなってきた。あなたのおっしゃるアジアってどこの国のことかしら。出てくる人がみんなメタルフィギュアみたいだよ。クセルクセスって本当に寛大だったんだと思う。意地張らなきゃみんなハッピーだったかもしれないのに。態度悪い使者送ったのが間違いだったかもね。
 以下は『迷宮キングダム』ユーザ向けの追記。スパルタは小さい国で、冒頭など特にその小ささがよく表れていて微笑ましいくらいです。王様が外交してるのを、国民が周りで見てるの。まよキンの小王国って多分あんな感じです。なので、まよキン遊ぶ前にみんなでこの映画を見に行くと楽しいと思います。ただし、その後のセッションが大惨事になることは保障つきですが。