半導体が分かる 1
「品不足」「台湾頼み」
のワケ
SEMICONDUCTOR
半導体は電気を使うあらゆる製品に使われる。供給不足や値上がりの影響は、自動車やエレクトロニクスなど様々な業界に世界規模で及ぶ。最先端の製造工場は台湾に集中しており、米中の覇権争いの焦点ともなっている。経済やテクノロジーのニュースを理解するうえで欠かせない半導体についてビジュアルに解説する。
半導体どこで作る
英国産の設計図で
米アップルが開発
高難度、先端の生産は
台湾に集中
最終仕上げも
アジアに外注・分業
製造装置や材料は
どこから来るのか
製造装置は
日本勢も強みを発揮
シリコンウエハーは
日台で寡占
世界をまたぐ供給網に
潜むリスク
iPhoneの頭脳「CPU(中央演算処理装置)」を例に、チップが完成するまでの流れをみていこう。サプライチェーンは複雑で世界に広がっている。開発や設計、製造の各段階で分業が進んでいる。
英国産の設計図で
米アップルが開発
英国
アーム(Arm)が、半導体回路の設計データ(IP)を販売している。IPは基本的な設計図で、その利用料がアームの収入となっている。現在はソフトバンクグループ傘下にあるが、20年にエヌビディアが最大400億ドルで買収すると発表したことからもその価値はうかがえる。
米国
アップル(Apple)は、アームから購入したIPをもとに半導体を開発する。iPhoneに合うように画像処理や通信機能などを強化・カスタマイズしながら、物理的にどのような回路を描くのかまで開発に落とし込む。
ほかにも、スマートフォン向けで有名な米クアルコムやブロードコム、ゲームに使われるGPU(画像処理半導体)が主力の米エヌビディアなどは、設計に特化しており工場を持たない。
先端品の工場は
台湾に集中している
台湾・米国
アップルをはじめ、半導体の開発のみを手掛ける企業は、台湾積体電路製造(TSMC)のような製造受託会社(ファウンドリー)に半導体チップの生産を委託する。ファウンドリーの能力は台湾はじめ東アジアに集中している。
一方、サムスン電子やインテルのように工場を持ち、開発から製造まで一貫して手掛ける企業もある。
最終仕上げも
アジアに外注・分業
台湾・中国・東南アジア
半導体チップはファウンドリーから、アジアの電子機器の製造受託サービス(EMS)に送られる。iPhoneが最終的に完成する。パソコンやテレビなど他の電気製品も、半導体生産から完成まで世界にまたがるサプライチェーンが築かれている。
製造装置や材料はどこから来るのか
製造装置は
日本勢も強みを発揮
日本・米国・欧州
半導体は400~600の工程を経て基板上に回路を描き、基板を1つ1つ切り離し樹脂に収めていく。各工程の装置を手掛けるメーカーも多様だ。日本勢が強みを発揮している分野でもあり、東京エレクトロンやSCREENホールディングスが高いシェアを持つ。回路を描く「露光装置」では最先端技術をオランダASMLが独占。米国ではアプライドマテリアルズが有名だ。
[ 露光のしくみ ]
最先端では数ナノ(ナノは10億分の1)メートル単位で、電気の流れ道、回路を描く。東京ディズニーランドの敷地に、1ミリメートル程度の幅で道を描いているようなものだ。これを可能にしているのが「露光」と呼ばれる技術。ガラス板に光を当てて、複雑で微細な回路を焼き付けている。
シリコンウエハーは
日台で寡占
日本・台湾
半導体をつくるには様々な材料が必要となる。基板となるシリコンウエハーは、日本の信越化学工業とSUMCO、台湾のメーカーが寡占する分野だ。他にも回路を描くための感光材「フォトレジスト」は9割近くを日本勢が担っている。
[ シリコンウエハーの製法 ]
ケイ石を溶かし金属材料に加工。ここから純度の高い円筒状のインゴットを作る。スライスして円盤状の薄い板にする。直径300ミリ、直径200ミリなどの規格がある。
世界またぐ供給網に
リスクが潜む
半導体が猛烈に進化する過程で、各工程の専門性が高まり分業が加速してきた。最先端の技術を手掛けるエンジニアや設備が集まり、開発や量産化へ資金が投じられ続けている。ただ、分業体制が複雑な分、地政学リスクや国際的な摩擦による余波も受けやすくなっている。
半導体なにに使う
一口に半導体といっても製品や用途は幅広い。例えばスマートフォンには、演算や記憶を担う半導体以外に、カメラのセンサーやディスプレー、バッテリーの制御ICなどが搭載されている。どれが欠けても製品は成り立たない。半導体が電子機器の機能拡大に欠かせない役割を果たすなかで、その安定供給が大きな課題となっている。
市場規模は世界で48兆円、
成長続ける
世界の半導体市場は2020年に4500億ドル(約48兆円)と、過去10年間で1.4倍に拡大した。新型コロナウイルスの影響で世界経済は停滞したが、リモート勤務やオンラインでの学習、買い物などの拡大を追い風に、半導体市場は成長を続けた。
データセンターや
モバイル向けが多い
半導体の使い道、用途をみると、最大の市場はデータセンターやパソコン向けで36%を占める。スマートフォンなどモバイル通信が31%で続く。2020年後半から不足が顕著になった車載向けは全体の7%に過ぎないが、今後は自動運転の普及や電動化で成長が見込まれている。
機能別ではメモリーが
3割近くを占める
機能別に分けてみると、データを保存、読み書きするメモリーの生産額が最も大きい。DRAMやフラッシュメモリーなどが含まれる。CPUやマイコンなど演算を担当するロジック半導体やマイクロ半導体も大きい分野だ。ほかにイメージセンサーやLEDなど光半導体、電力の制御や変換を担うパワー半導体などがある。
半導体の役割は
情報処理、記憶、カメラ、通信...
元々は
「電気の流れをコントロール
できる物質」
半導体はもともとは、状態によって電気の流れやすさをコントロールできる材料(シリコンなど)を指す言葉だ。この材料を使った電子部品(IC)を意味するようになった。
出荷先は
中国が世界の半分を占める
半導体の出荷先(消費金額)を国・地域別にみると、中国が55%と他を圧倒する。半導体を大量に組み込むスマートフォンやパソコンの工場が集積しているためだ。ただ、自給率はまだ2割に満たないとされる。中国政府は2015年の「中国製造2025」で半導体の自給率を7割に引き上げる目標を掲げ、巨額の投資を進めている。
半導体はだれがつくる
米アップルや、画像処理半導体の米エヌビディアなどは工場を持たず、生産を外注している。工場(=ファブ)を持たないことをファブレス経営といい、分業が進む半導体では珍しくない経営形態だ。では半導体はだれが作っているのか。
世界生産能力の3割を
製造受託会社が担う
半導体の世界生産能力をみると、半導体チップの生産を専門とする製造受託会社(ファウンドリー)の比率が上昇している。2000年はファウンドリーの割合は5%にすぎなかったが、いまや世界全体の3割を占める。半導体ビジネスはかつて開発から製造まで自社で一貫して行うものだったが、製造の難易度が上がり工場の建設予算も兆円単位に膨らんだことで、製造の外注化が進んだ。
ファウンドリーは
東アジアに集中している
ファウンドリーのシェアを売上高ベースでみると、8割が東アジアに集中している。なかでも台湾への依存度が高く、TSMCと聯華電子(UMC)の2社で世界シェア6割を超える。韓国のサムスン電子は自社ブランド品の開発・製造と、他社からの製造受託の両方を手掛けている。米欧の電機・自動車メーカーをはじめ世界中の企業が、ファウンドリーに生産を委託している。
米国の対中制裁が
半導体不足を招いた
米国による対中制裁で、半導体生産を外注するリスクが顕在化した。日米欧の電機・自動車メーカーは生産委託先を、中国のファウンドリー「中芯国際集成電路製造(SMIC)」から台湾や韓国に切り替えた。だが、台湾や韓国のファウンドリーの対応能力に限界があり、半導体不足を招くことになった。また、中国と台湾の緊張が高まることを警戒、日米欧では安全保障や自給の観点から半導体工場を誘致する動きも強まっている。
台湾TSMC、
売り上げの中心は先端品
台湾のファウンドリー、TSMCの売上高構成をみると、回路線幅が20ナノメートル未満の先端品が中心だ。生産設備増強も先端分野が中心になる。2020年からの半導体不足で、自動車業界が大きな影響を受けた。その一因は自動車用の半導体が「最先端ではない」ことにある。28ナノメートル以上の生産ラインは利幅が小さく、生産能力も増強されてこなかった。
最先端の生産ラインは
台湾に偏っている
ロジック半導体の生産能力を地域別にみると、最先端品の生産ラインは台湾に偏っている。回路線幅10ナノメートル未満の製造ラインの9割は台湾にある。台湾のTSMC1社に集中する構造は、世界の半導体供給のリスクとなる。