日本企業の海外進出を支える海外駐在員。かつては欧米勤務が多かったが、今や駐在先の6割がアジアだ(海外駐在者数の国・地域別ランキング)。赴任先の新生活は、期待とともに不安も募る。安全に暮らせるか? 生活費はどれくらい? 子どもが通う学校は? 海外駐在の実像をデータで探った。
米人事コンサルティング会社マーサーは、海外駐在員の住居、交通、食料、衣料、家庭用品、娯楽など200項目以上の価格を毎年調査。多くの企業が海外駐在員の報酬の基準にしている。同社の「2016年世界生計費調査」よると、家賃はこの10年、欧米、アジアともに多くの都市で高騰している。主要8都市で比較すると最も高いのは香港で、上海も10年前のニューヨークの水準まで上昇。東京はほぼ横ばいだ。海外駐在員の家賃は通常、一定の上限を設けた上で企業から全額補助される場合が大半だ。一方、昨今の家賃の上昇を受けて引っ越すケースも生じているという。
駐在生活で日々の支出も気になるところ。日本では「ワンコイン(=500円)」ランチが定着しているが、ファストフードはやはりアジアのお得感が強そうだ。一方、衣類の一大産地である中国は買うと高く、ジーンズ1着が最も安いのが意外にもニューヨークだった。アジアでは低価格の服も売られているが、「駐在員が購入する水準の品質などを求めると高くなる」(マーサージャパン)傾向にある。
世界450都市で、政治や社会環境、衛生面、教育水準、文化施設など39項目を調べたマーサーの「2016年世界生活環境調査」で、総合ランキングではウィーン(オーストリア)が7年連続の1位になった。2位はチューリッヒ(スイス)、3位はオークランド(ニュージーランド)、4位はミュンヘン(ドイツ)、5位はバンクーバー(カナダ)。
「経済情勢は先行き不透明感が増し、世界的にテロ事件や政情不安等のリスクが増大している。駐在員の安全や健康に関する評価はより複雑になっている」。こう指摘するのはマーサージャパンの給与データサービス部門長、渡辺格史氏。多くの企業は駐在員の赴任先の住環境や治安、気候風土の違いなどに応じて「ハードシップ」手当を支給している。労務行政研究所の調査(2015年)によれば、インドでは月額約12万円、ブラジルでは月額約7万円の手当が支給されている。
駐在員にとって、子どもの教育環境は大事な要素だ。外務省の海外在留邦人子女数統計によると、海外で学ぶ小中学生は約7.8万人で、10年で41%増えた。総合職の女性の増加で、30~40代の女性が子連れで海外に赴任するケースも出てきており、一部の企業は現地での保育費用を補助する制度を設けている。女性の進出増に伴い、海外で育つ子どもの数はますます増えそうだ。
駐在先で学ぶ方法は様々だ。日本人学校のほか、基本は現地校に通いながら週1~2回程度日本語の授業を受ける補習校、インターナショナルスクールに通う方法もある。外務省の調査で地域別に見ると、アジアでは日本人学校に通う子どもが多いのに対し、欧米は現地校に通う子どもが多い。10年前と比較すると、現地校やインターナショナルスクールに通う子どもの数は7割増えた。インターナショナルスクールは学費が相対的に高いが、英語を学ばせておきたいという親の気持ちが反映されているようだ。
郷に入っては郷に従えというが、やはりたまには日本食が食べたくなるもの。農林水産省によると、世界の日本食レストランの数は10年弱で3.7倍に増えた。海外での日本食ブームを受け、定食チェーンやうどん店などがアジアを中心に出店している。政府は農林水産物や食品の輸出を20年までに1兆円とする目標の前倒し達成を目指している。日本食材が手に入りやすくなれば、海外での食事情はさらに充実しそうだ。