新人にはていねいに見る習慣をつけさせて、しつこく修正の指示を出す。それでも字姿が定まらないときは、各漢字の要点を手で書いて示し、できるかぎり自分で直させる。ニュアンスの部分で、どうしても雰囲気がしっくりこない場合のみ、本人の目の前で修正を行なう。急がば回れとはこのことで、実はこれがいちばん合理的。私もそうやって教わった。10代のデッサンも、20代のタイプデザインも

明けがた目が覚めて、武蔵美に送らなければいけないテキストがあったことを思い出し、冷やりとした。締め切りは明日まで。学生の作品を見直し、短いコメントを書いて送る。学内展示が楽しみだ。遅い昼をとって、午後から書体制作とデザインチェック。

フォントの仕様を決めるにあたって、組版エンジンの不可解な動きに翻弄されている。アプリ側がおかしな解釈をしているのはあきらかなのだが、過去のデータとの互換性を考えると、その解釈が訂正される可能性は低そうだ。デジタルフォントと組版アプリにまつわる歴史的な負の遺産の根は深い。

書体づくりの合間あいまに軽い打ち合わせ。文章チェックと文案づくり。検討すべき事柄多し。人脈づくりは後回し。

午前中は漢字制作、午後から定例ミーティング、諸々打ち合わせなど。慌ただしく過ぎるなかにも、それぞれ意味のある事柄だけに、張りのある時間だと感じられる。就寝前に柔軟体操と腕立て伏せをやって体調維持につとめる。

『情熱大陸』を観ていると、作り手としてもっとも刺激を受けるのは、料理人である場合が多い。食という人間の本性にかかわる職業だけに、生半可な取り組みではお客さんを喜ばせることはできない。まっすぐな好奇心、ひたむきな探究心、むきだしの闘争心など、自分の及ばなさ加減を知る格好の対象でもある。

『テクニウム』を読み終えて、午後から書体制作。テクノロジーと人は、さらに共生の度合いを深めていくのはまちがいないが、人間以外の生き物にとっては迷惑な話だろう。平行して読みはじめた『バイオフィリア』のめくるめく生態系のなかに、テクノロジーの居場所を見つけるのはむずかしい。人間と共存しつつ、さらには自律的な振るまいを目指す機械に、多様な生物との共生は可能だろうか。人のからだはたやすく土に還っても、からだに埋め込まれたチップは食べ残されそうだ。微生物に好まれる素材を選ぶか、分解するナノテクを駆使するか。その気にさえなればハードルは高くない。「自律」の意味はそこにある。自然からの要請はないだろうから。

目指してきた方向はこれで良かったんだなと思える出来事が少しずつ増えている。準備万端とはいえないが、さまざまな要望に応える用意は整いつつある。今後さらなる蓄積と研鑽に努め、応用と革新に至る道すじを明らかにしていきたい。

午前中にスケジュールの詳細について打ち合わせをおこなう。師走に向けて慌ただしくなってきた。半日漢字制作。

ここからがほんとの勝負。ずっとそう思ってやってきたけど、このさき打つ手の一つひとつが重要すぎて心がふるえる。仕込みと仕組みが連動しなければ効果はうすいし、仕掛けだけでは長続きしない。

NEXT >>