「てーきゅう」はアニメ界のNapalm Deathだ!

 

 
テレビアニメ「てーきゅう」が何だか凄い。
 
テレビアニメからアマチュアのFLASH作品まで、"ショートアニメ"は数あれど、あそこまで速度を追及した作品ってこれまで無かったんじゃないでしょうか?
とにかくハチャメチャかつハイテンション。ひたすらに連発される不条理なギャグの嵐、早口言葉のような猛烈なスピードのセリフ…などなど、兎にも角にもその圧倒的なまでの"速度"が、ひたすらにインパクト大なアニメーション「てーきゅう」。
 
このアニメに形容詞を付けるとするならば…"アニメ界のNapalm Death"! ずばり、コレだと思います。そんなこんなで、今回のエントリでは最速のアニメ「てーきゅう」と最速のバンド、Napalm Deathのアレやコレやでエントリを更新です! EARACHE RECORDS!!
 
 

■"速度"を極限まで追及したバンド、Napalm Death

Napalm Deathというバンドをご存じでしょうか?
 

 
Napalm Deathは、80年代の前半に英国のバーミンガムで結成をされたエクストリームメタルのバンド。メンバーは流動的でその音楽性も長い活動の中で変遷を遂げていますが、パーマネントなバンド活動とレコード・リリースを現在に至るまで続けています。
 
ちなみに、私が「てーきゅう」とミクスチャーをさせて語りたいのは、1st.〜2nd.アルバムをリリースした辺りの初期Napalm Death。この頃のNapalm Deathの音楽性を一言で表現するならば、ずばり"最速"。ひたすらに速度を追及し、音のスピードを極限まで高めたバンド、それがNapalm Deathなのです。
 
80年代の英国では、DISCHARGEやG.B.H、The Exploitedといったバンドによって、パンクロックのサウンドを更にハイスピード化させ、そこに政治的なメッセージや過激な歌詞を乗せたハードコアパンクというジャンルが誕生。そのムーブメントがアンダーグラウンドなロック、インディーシーンで広がりを見せることになります。で、そこからメタルとクロスオーヴァーをさせるバンドが出てきたり、徹底したアナーキズムを掲げて強固な政治的姿勢を貫くバンドが登場をしたり、米国に飛び火をしたパンク・ムーブメントが独自の進化を遂げてハイスピード化したり…といった具合に、どんどんサウンドが過激化をしていくんです。
 
そして、Napalm Deathは、そうしたハードコアパンク・ムーブメントの一つの極北というか、到達点を体現することになります。
 
 

■"SCUM"というアルバムが残した衝撃



 
時を同じくして英国で活動をしていたExtream noise Terror(Napalm Deathのメンバーも一時在籍)やHERESY、米国のSIEGEや日本のS×O×Bといった"速さ"に重きを置いたハードコアと、Seltic Frostのようなアンダーグラウンドなメタルバンドから多大なインスピレーションを受けたNapalm Deathは、87年にアルバム"SCUM"をリリース。このアルバムで聴くことができるのは、正に人間が作り出すことができるビートの限界であり、速度の極地点。Napalm Deathは、完全に常軌を逸した究極の激速ナンバーを世に送り出したのです。
 


 
アルバム"SCUM"には、僅か1分にも満たないナンバーが多数詰め込まれています。聴く者の鼓膜に襲い掛かってくるような、その凶悪なサウンドは、当時のパンク、メタルシーンに驚愕を持って迎え入れられ、数多くのフォロワーを生み出しました。
そして、極限にまで速度を増したドラムは、"ブラスト・ビート"と呼ばれる独自の演奏スタイルを生み出し、そのサウンド・スタイルは"グラインドコア"というサブジャンルをパンク、メタルの世界に確立することになります。
 
そんな初期Napalm Deathの音と速さに対する"哲学"が最も色濃く表現をされたナンバーが、"SCUM"収録曲の"You Suffer"です。
 


 
最早、一秒にも満たない演奏と叫び声。そして、その後のコンマ数秒の残響音…。「世界で一番速い曲」として知られ、日本のテレビバラエティー番組に取り上げられたこともあるこの曲は、初期Napalm Deathのサウンド・スタイルを僅か一秒足らずで…何よりも雄弁に物語っていると言えるでしょう。
 
 

■「てーきゅう」のNapalm Death感


 
「てーきゅう」がテレビアニメの世界で追及をしている"速度"も、ハードコアパンク、アンダーグラウンドメタルシーンで、Napalm Deathが表現をしようとしていたそれに極めて近いニュアンスを持っていると思うのです。
常軌を逸したハイスピードでのセリフ回しや、常識というものを完全に無視したような超展開。いずれも、非常にブラスト・ビート的であり、グラインド・コア的です。
 
その速度は、極めてラジカルであり、凝り固まったジャンルの枠組みをその速度で突き抜け、完全に破壊します。「てーきゅう」は、まさに"アニメ界のNapalm Death"と呼ぶに相応しい作品だと私は思います。
 
本作の主題歌をグラインドコアのバンドがやっていても、全く違和感を感じないんじゃないか? その位、両者のスピード感と過激さには相通じるものがある。"You Suffer"みたいに、「てーきゅう」で、僅か数秒で終わるエピソードがあったりしても、そんなにビックリする気がしませんもの。
 
ちなみに、1st.アルバムの時点で極限のスピードを体現してみせたNapalm Deathがその後どうなったかというと、脱退したメンバーが新バンドを結成し、多岐にわたる音楽シーンで様々なサブジャンルを生み出していくことになります。有名どころだと、メロディック・デスメタルの始祖と言われるCARCASSなんかがそうですね。"SCUM"の頃のギタリストだったビル・スティアーが結成をしたバンド。
 


 
"SCUM"もそうであったように、Napalm Deathは、過激でありながらも同時に非常に実験的なバンドだったと言えます。そのアティチュードが、元メンバーによって多様な音楽シーンで花開くことになったのです。この辺りの速度の追及に端を発した実験精神というのは、「てーきゅう」にも相通じる部分でしょう。
 
「てーきゅう」以前以降では、ショートアニメのあり方というのも何だか大きな変革を迎えそうな気がしています。その位のインパクトとラジカルさが、あの作品には存在をしているのではないかと。そんな期待を持って、Napalm Deathファンである私は、あのアニメを観ているのです。