淀川長治と映画批評クロニクル(未完成版)

淀川長治さんを中心に、映画批評にまつわるツイートをまとめました。「淀川長治からシネマ69、映画秘宝へ」(http://togetter.com/li/862310)と併せて読むと、より時間軸が把握できると思います。
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淀川長治 ~その愛と厳しさ~

佐野亨 Toru Sano @torusano1124

淀川長治さんのことを、絶対に映画を貶さない優しいニギニギおじさんだと思っている人は、とりあえず『映画千夜一夜』(中公文庫)を読んでみてほしい。 intro.ne.jp/contents/2009/…

2015-08-20 23:24:24
佐野亨 Toru Sano @torusano1124

サントリークォータリー36号の淀川長治インタビューより。<(日曜洋画劇場の放映作品について)いい映画がちっともなくなった。(略)僕が一番言いたいのは、「今晩の映画はもうやめなさい、早くお休み。見たって損ですよ」ということなんだけど、テレビ局もスポンサーもあるから言えない>

2015-08-20 23:32:11
佐野亨 Toru Sano @torusano1124

日曜洋画劇場の解説は、毎週観続けていると「今日はノッてるな」「今日の映画はどうでもいいんだな」ということが如実に感じとれた。しかし、淀川さんの解説のすごさは、たとえ駄目な映画でも舞台設定や俳優の薀蓄などを盛り込むことで一定の批評水準を維持し、それによって視聴者を啓蒙していた点だ。

2015-08-20 23:40:11
佐野亨 Toru Sano @torusano1124

先のインタビューより。<たとえば「これは連続活劇みたいですね」と言うでしょう、つまんない映画でも。「連続活劇、活動写真が生まれたのはいつでしょう。一八九六年」。そういうのが頭に入ったら、その積み重ねで勉強になるのね。だから、ただの無駄なことは言わないな。何か一つぐらいは考える>

2015-08-20 23:44:45
佐野亨 Toru Sano @torusano1124

『思い出の森田芳光』には高平哲郎との対談も掲載されていて、森田は「植草(甚一)さんに映画評論を書いてもらうのが夢だったんですよ」と語っている。さらにそこから淀川長治の話になるのだが、高平氏が披露するエピソードがまた出色。<いつだったか『カッコーの巣の上で』の試写見に行った時に……

2015-09-02 22:37:51
佐野亨 Toru Sano @torusano1124

……淀川さんとお茶を飲んだんですよ。(略)「駄目よ高平さん、こんな映画に騙されちゃ」って言うんだよ。俺、ゾクッとしてね。で「今『ナッシュビル』っていうのやってるから、それを見て来なさい。全然そっちの方がいいから」と勧められて翌日、見にいったら、もうオドロいちゃった>

2015-09-02 22:39:31
佐野亨 Toru Sano @torusano1124

以前ツイートした「淀川長治の映画塾」がYouTubeにアップされていた。1996年にNHK-BSで放送された全4回の特番で、映画人志望の若者を相手に「演出」「演技」「シナリオ」「美術」について語る。『ベニスに死す』の口演など圧巻。 youtube.com/watch?v=iGTcNZ…

2015-11-15 21:21:25
佐野亨 Toru Sano @torusano1124

テレビ東京系「淀川長治 映画の部屋」より『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』解説回。「さすがの私も2015年には生きていないでしょう」と語っているが、淀川さんの解説はこうしてアーカイヴされているし、永遠に心のなかにいる。 youtube.com/watch?v=K5SfDs…

2015-11-15 21:29:39
佐野亨 Toru Sano @torusano1124

時折、半分冗談半分本気で「淀川長治を通過していない映画ファンを僕は信用しない」と口走ることがあるのだけれど、考えてみればいまや淀川さんを知らない映画ファンのほうが多くなりつつあるのかもしれない。単なる解説者ではなく、人間形成にまで影響を与える批評家というのは今後現れるのだろうか。

2015-11-15 21:43:46
佐野亨 Toru Sano @torusano1124

『21世紀の淀川長治』(キネマ旬報社)を読む。再録の蓮實重彦、山田宏一、北野武らを除き、これまでの淀長本とは一線を画す新鮮な顔ぶれを配し、現在につらなる「映画評論の古典」としての淀川長治を再考しようとする野心的な一冊。ここから若い読者がさらに増えてくれることを期待する。

2016-06-04 20:17:48
佐野亨 Toru Sano @torusano1124

『21世紀の淀川長治』。渡部幻さんによる町山智浩さんのインタビューでは、「ラジオ名画劇場」「日曜洋画劇場」などの解説によって「映画を語ること」の魅力と意義を知った町山さんの原体験が語られる。淀川さんファンのみならず町山さんのファンも必読の内容。また、戸部田誠さんのコラムは(続く)

2016-06-04 20:18:49
佐野亨 Toru Sano @torusano1124

(承前)筋金入りのTVっ子による回想で、淀川さんの映画解説がTV世代に与えた影響の大きさを伝える。僕もTVの洋画劇場で育ったクチだが、その最大の功績は「偶然性の創出」にあった。良し悪しの問題ではなく、この過密情報時代にあっては、映画は「選んで観る」ものにならざるをえない。(続く)

2016-06-04 20:19:49
佐野亨 Toru Sano @torusano1124

(承前)重要なのは、洋邦を問わず、また特定のジャンル映画に傾倒してゆく前の段階で、あらゆる映画を無差別に、非選択的に観るという体験の有無である。無論、僕より年長の、いわゆる名画座世代も都度、映画を選んで観ていたはずだが、その背後にある情報の量が現在とはまるで違う。(続く)

2016-06-04 20:21:11
佐野亨 Toru Sano @torusano1124

(承前)その意味で、観客の主体的選択に依らず、あらゆる映画を並列に垂れ流し、視聴者を偶然の出会いにさらし続けたTVの洋画劇場はやはりとてつもなく画期的であり、僕らTVっ子はそのことをもっと誇りにしてよいと思う。僕が幼い頃から、これほどまで脱ジャンル的、コスモポリタン的に(続く)

2016-06-04 20:22:12
佐野亨 Toru Sano @torusano1124

(承前)多種多様な映画に接してこられたのは、毎日のように放映されていたTVの洋画劇場、そして淀川さんや荻昌弘さんの映画解説に無意識のうちに啓蒙されていたからである。そして、なにより肝心なことは、僕らがそれらの解説から単に知識や情報を与えられていたのではないということだ。(続く)

2016-06-04 20:23:13
佐野亨 Toru Sano @torusano1124

(承前)本書では、「日曜洋画劇場」の解説を直接的には知らない世代の佐藤彩華さんが<私が映画を観る最大の理由は、淀川さんと同じように人生や世界のことを広く深く知りたい、学びたいという純粋な欲求からである>と書いているが、僕にとって淀川さんほど人間形成に影響を及ぼしたひとはいない。

2016-06-04 20:24:18
佐野亨 Toru Sano @torusano1124

『21世紀の淀川長治』には、語り部としての淀川さんだけでなく、書き手としての淀川さんの本領を知らしめる映画評が多数再録されている。特に公開当時、淀川さん以外のほとんどの批評家が黙殺したアラン・パーカーの『ケロッグ博士』評が入っているのは心憎いセレクトだ。日本映画評では(続く)

2016-06-04 20:27:33
佐野亨 Toru Sano @torusano1124

(承前)石井輝男『黒線地帯』『黄線地帯』を評した痛快な名文や武智鉄二『白日夢』に対する激烈な酷評などが再録されているが、できれば淀川さんが作品に惚れ込み、自ら願い出て寄稿したという杉井ギサブロー監督のアニメ映画『銀河鉄道の夜』評も再読したかった。

2016-06-04 20:27:59
佐野亨 Toru Sano @torusano1124

twitterでも淀川長治さんの「名言」をつぶやいたり、「絶対に映画を貶さない人」と書いたりするひとがいるが、町山智浩さんが指摘するように、淀川さんほど厳しく、時に背筋が凍るほど辛辣な批評家はいなかった。日曜洋画劇場の解説でさえ、よく聴けば全然褒めてないという回が珍しくなかった。

2016-06-04 20:32:45
佐野亨 Toru Sano @torusano1124

淀川さんの『夢の涯てまでも』評。<最低。こんなの観たら死んだほうがまし。(略)これほど下手な、つまんない、人をばかにした映画はないね。ヴィム・ヴェンダースいう人は変になっちゃったのよね。かわいそうに>(『淀川長治映画塾』講談社文庫)

2016-06-04 20:35:08
佐野亨 Toru Sano @torusano1124

淀川さんの『二十歳の微熱』評。<ハッタリが八〇パーセントあるのね。こんなの観たらみんな褒めるだろうとか、あるいはびっくりするだろういう。けど、あとの二〇パーセントに、映画にしがみついて、新しい感覚の映画撮ろうか、いうところがあるんですね>(『淀川長治映画塾』)

2016-06-04 20:36:21
佐野亨 Toru Sano @torusano1124

晩年の淀川さんは、倒錯と狂気を秘めた唯一無二の名文家となっていたが、その片鱗にふれたいひとやはり蓮實重彦、山田宏一との鼎談集『映画千夜一夜』から読むといいだろう。蓮實氏を「ニセ伯爵」、山田氏を「山の手のピアニスト」と呼んでからかう淀川さんと生徒のような両巨頭の楽しいやりとり。

2016-06-04 20:51:22
佐野亨 Toru Sano @torusano1124

淀川長治さんの厳しさを物語るエピソードは枚挙にいとまがない。たとえば蓮實重彦もこんな場面に遭遇している。<たまたま一度、『映画千夜一夜』のときじゃなかったかと思うけれども、たまたま「ぼくは下で待ってますよ」と正面入口にいたところ、淀川さんが向こうからやって来て(続く)

2016-06-05 09:16:37
佐野亨 Toru Sano @torusano1124

(承前)「蓮實さんが来てるのに、今日の主催者が来てない!」とカンカンに怒ったことがあるんです。「そうじゃなくてたまたま私がいただけなんです」と言っても、「帰んなさい! 帰んなさい!」とすごい剣幕なんですよ。帰っちゃうと今日対談できませんからとなだめて>(『映画狂人、語る。』)

2016-06-05 09:17:54
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まとめたひと
佐野亨 Toru Sano @torusano1124

雑文書き、編集業。あるくひと。著書=『ディープヨコハマをあるく』(辰巳出版)/編書=『心が疲れたときに観る映画』(立東舎)、『映画は千の目をもつ』(海野弘著、七つ森書館)等。NFAJ研究員。キネマ旬報ベスト・テン選考委員。仕事の依頼等は torusano1124@gmail.com (@を半角に変えてください)