フォロウ・ザ・コールド・ヒート・シマーズ #5
(これまでのあらすじ:ネオサイタマ荒野、フジサンの麓で繰り広げられる地獄の自動車レース、ハシリ・モノ。優勝を争うトップ3は、ホット・チック、前回優勝者サンライザー、そして我らが武装霊柩車ネズミハヤイDⅢのオーナーであるデッドムーン。助手席にはニンジャスレイヤーだ)
2015-09-26 22:40:19(だがニンジャスレイヤーは二日目の最中に消えた。フジサンの樹海の魔力に呑まれたか?そうかもしれない。彼はデッドムーンの師匠ゲバタ・テルコの姿を謎の魔空間の中に見出しその場で武装霊柩車を降りた。行方知れずとなっていたゲバタを現実の世界に取り戻す為に。魔空間は恐らくニンジャの仕業だ)
2015-09-26 22:42:45(一体そのあとニンジャスレイヤーはどうするつもりか?デッドムーンには正直わからない。わからないが、彼はプロだ。ニンジャスレイヤーとの信頼関係も長い。彼はレースに集中し、サイサムライとドーシンの極めて恐るべきニンジャコンビネーション攻撃をドライビングテクで切り抜け見事2日目は2着)
2015-09-26 22:45:11(そう、レースももはや佳境。残すは3日目のみとなった。こいつは正直、ショックを受けるくらい過酷だぜ!ニンジャスレイヤー=サン!アンタ一体、ここからどうするつもりだ?デッドムーンにはサンライザーとホット・チックが煮えくりかえってやがる!こいつは相当ヤバイんだぜ!)
2015-09-26 22:47:05ホー、ホー。バイオフクロウの鳴き声が夜空にこだまする。レース二日目の宿泊地は、施設と呼ぶにはあまりにもプリミティブなテント群であった。そこかしこでパチパチと音を立てて焚火が燃え上がる。屋台は一つだけ出ている。こんなフジサン樹海にビジネスチャンスを求めて来た行商人イキジである。1
2015-09-26 22:51:13「ハイ、イカケバブ、いいにおい。薬、ZBR、魔法の粉、なんでもあるよ。ポルノ・ピンナップ、ポルノ・カセットテープ、ポルノ・ヘンタイ、なんでもある。鶏もいるよ。一羽、早い者勝ち」「ドーモ、イキジ=サン。ビッグユージです」「ドーモ」「今日はテント村からお届け!」カメラ目線のユージ!2
2015-09-26 22:53:44「イカがいいにおいだ。調子どうですか?」「アー」イキジは緊張している。ユージはにこやかに頷き、「商売の邪魔してすみませんね。さあ皆さん。見てのとおり、過酷なレースの二日目は宿も過酷!スタジアムから楽しんでるあなた方、このつらい環境に同情したり応援したりして、ぬくぬくしてくれ!」3
2015-09-26 22:58:49「薬をくれ」「イカを」アストロ・スターモンキーと会釈してすれ違ったユージは、順繰りにテント群を眺めて周った。一際大きな焚火には逆十字架に磔にされた巨大な藁人形が突き立てられ、周囲をブラックメタリストが走り回っている。ヘルトリイ999。「非常に危険なので声はかけません」4
2015-09-26 23:03:47「てめえビッグユージ=サンだな?ナメやがって」ズカズカと近づいてきたのはレイコ・カミだ。「アイエッ!これは、レイコ=サン。ご無事でなによりだ」「あれは貸し借りだ。哀れみじゃねえ!」「わかっています!」「いいか!」レイコはカメラを掴み、顔を近づけた。「三日目は俺が勝つ!見てろ!」5
2015-09-26 23:08:40「さあ、このように闘争心は満タンになっている連中で満たされた宿泊施設。実際、生存レーサーの数は随分減ったものだ」シスター・オブ・マーシーやウォルナット・キャッチマンズのテントや、サイバネ鍼灸を行うサイサムライらを垣間見たのち、彼は勝利者テントに向かった。「今回は同着は無い」 6
2015-09-26 23:11:29勝利者テントはまるでサーカス・テントめいた巨大さで闇の中にそそり立ち、入り口には「とても偉く、あまりにも誇り高い」と書かれたショドー横断幕がライトアップされている。「そう、勝利者にはオイランが二日目もいるんです。ハシリ・モノは弱肉強食だ」ユージはニヤリと笑い、ノレンをくぐった。7
2015-09-26 23:16:24SPLAAAASH!テント内のドラム缶風呂から怒りと共に回転ジャンプで飛び降りたのはサンライザーだ。「アイエエ!」風呂焚きが悲鳴を上げ、「アイエエエエ!」オイラン達が悲鳴を上げ、ゴヨキキが素早くサンライザーの裸身に布を巻き付けた。「エッ、これは」「どけい!」ユージを突き飛ばす!8
2015-09-26 23:29:54「スゴイ迫力!きっとこれは三日目も素晴らしく闘争心で盛り上がるぞ!絶対に見逃すなよ、それではみなさん、オタッシャデー!」なにかを察したビッグユージは中継を切り上げ、「オイ!待たんか!サンライザー=サン!」慌てて後を追った。サンライザーは燃える風めいて足早に一つのテントを目指す!9
2015-09-26 23:32:15「チャンピオンがどこへ行こうと勝手だろう」思いがけず足を止めたサンライザーはビッグユージを振り返り、言った。「ほしいままに!オイラン!風呂!スシ!カネ!」「そうだが……」「そして最新鋭の試作機、装備!」「シーッ!黙れ!」「ゆえにどこへ行こうと勝手、誰を問い詰めようが勝手だ」10
2015-09-26 23:37:14「よすんだ、そういう自暴自棄は……俺とおまえの仲だろう!」ユージは諭した。「俺の、レ、レースを壊すつもりなら、俺は……」「レースを壊すだと?」だがサンライザーは鼻を鳴らす。「勝負を永遠に侮辱した。それが貴様だ。俺の信頼を破壊する行いでもあったのだぞ」「運営は俺一人ではない!」11
2015-09-26 23:41:15「話にならん」サンライザーは身を翻した。ユージは追う。サンライザーは歩きながら振り返らず続けた。「ネズミハヤイDⅢのクルー……イチロー・モリタとかいうニンジャが」「エッ!ニンジャ」「話の腰を折るな。そのイチローが消えた。何故だ」「樹海の獣にやられたのだ、きっと。パンダもいる」12
2015-09-26 23:44:45「お前は、他でもない、この俺に、その説を、本気で、主張するのか!ユージ!」はっきりと区切りながら、サンライザーは吐き捨てた。ビッグユージは呻くように言った。「だ、だが、ありえんのだ……調べたのだ。領域範囲を。今年、決してそんな、ニアミスするようなレースコースは設定しなかった」13
2015-09-26 23:50:47「ほう。調べたのか。俺も知らん陰謀の数々を巡らせておる卑劣な貴様だ。調べただろうな」サンライザーは言った。「どちらにせよ、これから確かめる」「レ……レースは壊さないでくれ」ユージはそれだけ言うのがやっとだった。サンライザーはもはや構わず、デッドムーンのテントにエントリーした。14
2015-09-26 23:55:42「ドーモ。デッドムーン=サン。サンライザーです」サンライザーは威圧的にアイサツを繰り出す。デッドムーンはサケの肴の違法カキノタネを開封しかかる手を止め、サンライザーにアイサツを返した。「ドーモ。デッドムーンです。殴り込みかね」サンライザーの後ろを見、「ビッグユージ=サンもか」15
2015-09-27 00:02:07「いやに落ち着き払っておるな」サンライザーはしかめ面で言った。デッドムーンは肩をすくめる。「用は特になしか?」そしてカキノタネを開封した。サンライザーは続けた。「ナビゲーターが姿を消し、戻らんというのに、その落ち着きか」「感情表現に乏しい子供だって、学校じゃ心配されたもんさ」16
2015-09-27 00:04:13「出まかせを」「わかるかね」「どうでもいい。イチローの身に何があった。話せ」「……」デッドムーンは口を開きかける。サンライザーは遮るように言った。「お前達は<枯れ野>を見た。そして、イチローは入り込んだ」「……」デッドムーンの表情が微かに動いた。彼はカキノタネを咀嚼した。17
2015-09-27 00:14:18「お前は平然としている。繕っていれば俺にはわかる。アトモスフィアで。俺はニンジャだからな」サンライザーは今や隠しもしない。「イチローは、みずから<枯れ野>に入ったのだ」「嘘をつく必要もない」デッドムーンは肯定した。サンライザーは尋ねた。「何故だ」「知ってるような口ぶりだ」 18
2015-09-27 00:20:30ビッグユージは外に人の居ない事を無言で確かめた。サンライザーは頷いた。「その通りだ、武装霊柩車乗りよ。ゲバタ・テルコの件を、この俺は知っている。そしてビッグユージも」「ゲバタ・テルコはレースからケツまくって逃げた腰抜けだろ?」デッドムーンが言った。サンライザーは舌打ちした。 19
2015-09-27 00:25:05「それは<枯れ野>に関わる事故だ。事故?違うな」苦々しいユージを横目で見、「ともかく霊柩車乗りゲバタ・テルコは、俺と1日目に続き2日目の勝者の座をかけて争っていた……奴はこの俺に喰らいついた唯一のレーサーだ……この俺にある種の覚悟を決めさせた、な。だが消えた。消されたのだ」20
2015-09-27 00:28:17難病(全身性エリテマトーデスと抗リン脂質抗体症候群)を発症してしまい、現在活動休止中です。(2016 年春~) ニンジャヘッズ(ニンジャスレイヤー中毒者)です。 人々の日々の生活クオリティを向上させるために、サイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」の普及活動を行っています。