0.このあいだ、「説明台詞」についてTweetしたら、けっこう反応と質問があったので、ここで連投して自分の意見を述べておきます。
2014-12-25 00:11:481.一般的に言って、シナリオでもっとも教えにくいのが台詞と言われている。シナリオの教科書や指南書のほとんどが、構成について述べられていて、台詞についてはほとんど頁がさかれていない。
2014-12-25 00:12:562.これは小説にもあてはまるようで、会話が苦手なライターは会話に磨きをかける努力をするよりも構成や描写の腕を上げる方がいい、というようなことをスティーヴン・キングも言っている。台詞は個々人のセンスがものをいうから、がその理由である好みというのもある。ともあれ、台詞は解説しにくい。
2014-12-25 00:15:203.さて、そんな中、あちこちでよく言われているのが「台詞はできるだけ削れ、映画は映像で語るべし」というものである。英語ではShow, Don’t tell 映画にはもともとは台詞がなかったという歴史をふり返ると確かにこの主張は説得力がある。
2014-12-25 00:15:454.だから、映画評論家などが「このシーンは全部台詞で語ってしまっている」「台詞に頼りすぎ」などと言うときにはその作品をかなり批判していることになる。ダメな台詞の代表が「説明台詞」だともよく言われる。しかし、これは果たして本当か? というのが僕の疑問である。
2014-12-25 00:16:225.だって、映画史に残る名作を見たら説明台詞オンパレードじゃないか、そう思いませんか?
2014-12-25 00:16:436.David HowardとEdward Mableyは“Tools of Screenwriting の中で台詞の機能を以下のように解説している。 ①キャラクターの説明 ②状況の説明 ③感情の表現 ④葛藤を作る ⑤ストーリーを展開させる ⑥作品のムードやトーンを作る
2014-12-25 00:17:287.「説明」に関するものがふたつもある。③の感情なんかも目に見えないのだから、目に見えないものを言葉にするわけで、Show, Don’t tell の原則に反する。
2014-12-25 00:18:078.ともあれ、一番、問題なのは①である。状況を観客に伝える台詞は説明台詞にならざるを得ない場合が多々ある。例えば推理ドラマの場合、大抵は始まってすぐに殺人(や事件)が起こるが、こういう状況は説明せざるを得ない。しかし、説明は退屈である。ここが問題なのだ。
2014-12-25 00:18:559.結論からいうと、説明台詞は必要なんだが、うまい説明台詞と駄目な説明台詞があるのである。
2014-12-25 00:19:4610.説明はしなければならない。しかし、観客を退屈させてはいけない。ではどうすればいいのか? 初歩的かつ基本的な方法は、対話形式の中で問いと答えをうまく交わしながら状況を説明することである。特定のキャラクターに一方的に喋らせないというのがコツだ。
2014-12-25 00:21:1711.AとBがCについて会話している。AもBもCのことを知っている。こういう場合は会話はさり気なく自然にすることができる。しかし、観客に伝えなければならない情報は伝えにくい。この場合は「お前も知っての通りだけど」と一発かましてから情報を披露するなどの工夫が必要だ。
2014-12-25 00:24:4712.ところが、この二者のうち、一方が情報を握っていて、もう一方がその情報を掴んでいない場合、この場合、情報の伝達はかなり説明台詞っぽくなる。
2014-12-25 00:25:4813.その時はどうするかというと、ツッコミにちょっとした工夫を凝らすことである。例えば『レインマン』でトム・クルーズが医者から兄の病状を聞くシーンがそれだ。ことあるごとにトム・クルーズがまぜっかえす。このことによって、説明台詞っぽさを緩和しているのである。
2014-12-25 00:27:3614.説明する状況がかなり複雑な場合は。対話をいくつかのパートに区切って、何について話しているのかを明確にすることも大事だ。デュレーションの中でテーマを決める。そして対論中にうまく合いの手を入れさせながら、観客に無理なく情報を順番に伝えていく。
2014-12-25 00:31:3415.たとえば『羊たちの沈黙』でクラリスが自分の任務についてボスから話を聞くシーンを見てみよう。状況がかなり複雑なので順番にテーマを決めて話が進行しているのがわかると思う。
2014-12-25 00:32:3716.さらにユーモアを入れると「説明台詞っぽさ」は消える。『アニー・ホール』の冒頭でウディ・アレンが自分の性格を説明する(つまり①)。それがなかなかアイロニカルなユーモアに彩られている。「俺を会員にするようなクラブには入りたくない」
2014-12-25 00:33:3917.『マネー・ボール』でスカウトマンとの会議のシーンでブラッド・ピットがこれからの選手の採用の方針を説明するシーン。ここも太っちょの相棒を使ってユーモアを交える。うまいやり方だと思う。
2014-12-25 00:34:0118.説明台詞で一番嫌われるのが感情の表現を工夫のない台詞に頼るときである(つまり③)。「とても悲しい」などと言葉にする代わりに、マクドナルドに駆け込んでビックマックを貪るように食べるのを写した方がよい、なんてことはよく言われる。まあ、それも一案だろう。
2014-12-25 00:34:3019.また、台詞で感情を語るにせよ、直接には感情を表現しないという方法を特に日本人は好むようだ。『東京物語』のラストで笠智衆が、葬儀が終わって帰っていく子供たちに向かって、ほとんど独り言のように「そうかい、もう帰るかい」という。この言葉にこめられた寂寥感はハンパないですね。
2014-12-25 00:35:1720.しかし、非常に複雑な感情となると台詞に頼らざるを得ない場合がある。これが素晴らしくうまいのがテレビドラマの脚本家の山田太一である。
2014-12-25 00:37:0821.山田太一の登場人物は自分の感情を言葉にするのが非常にうまい。どうしてみんなそんなに自分の感情をうまく言葉にできるのだろう、リアリティーの観点から見るとおかしいじゃないかと思わないでもないが、見事なので聞き入ってしまう。
2014-12-25 00:38:0022.このような複雑な心情や信条を台詞だけではなく、工夫を凝らしたアクションも交えると説明台詞っぽさは消える。スパイク・リーの『ドゥ・ザ・ライト・シング』では<愛と憎しみの戦い>という世界観をアクションを交えて表現している。これは、ある種の「観念の演劇化」だ。元ネタは『狩人の夜』
2014-12-25 00:39:0623.説明はさりげなくした方が表現としては高級感がでるが、理解できない観客も多くなる。高級感はいったん横に置いてでも、はっきり説明しなければならない場合もある。前半では観客に××だろうと思わせていた状況を中盤でひっくり返す場合などだ。この場合の説明は思い切り説明台詞を書くべきだ。
2014-12-25 00:40:5624.例えばヒッチコック作品が参考になる。『北北西に進路を取れ』では、主人公が間違えられた人物は本当は実在しないのだと観客にわからせている。これは会議の場を設定して、明確に説明している。
2014-12-25 00:41:59榎本憲男 小説家 映画監督 。小説『エアー2.0』(小学館刊) 『真行寺弘道シリーズ』(中央公論新社)映画『見えないほどの遠くの空を』『森のカフェ』など