不知火に落ち度はない その4

yamoto @yamoto

「不知火。寝床は確保できそうか」 「……どこも予約で埋まってます」 「そっか」 運転席の隣。スマホを持った副官が、珍しく困った口調で言う。 この陸の孤島状態では仕方ないだろう。 案件解決から12時間。 俺達には寝床がなかった。 #不知火に落ち度はない

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「災害対処は陸の連中だけにやらせときゃよかった」 「司令、要請にあっさり頷いたじゃないですか」 道路はとっくに封鎖済。 避難で陸軍のベッドは埋まってる。 「軍人は、人の命を守るのがお仕事です」 「今度、それ朝礼で言いませんか？」 「ぜってーやだ」 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

旅館・ホテルを探して見たが、結局寝床になる場所は見つからなかった。 俺一人ならネカフェや個室ビデオでもいいだろうが、不知火が居るしな。 「車の中で寝るか、いっそ」 「もうそのつもりだと思ってましたが」 風呂どうするんだよお前。 少しは気遣え。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

「功労者を優先的に止めてくれる宿ねえかな」 「開いてるベッドで誰かが休めてる。それだけで充分良かったとしましょう」 「そだな」 こいつもちゃんとわかってるようでなにより。 しかし、このままだとホントに車で寝る羽目になりかねん。 俺は別にいいんだが…… #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

部下のコンディション管理も仕事のうち。 互いに仕事の精神ならば問題ないだろう。 気は進まないがな。 「不知火。ちょっと道戻るぞ」 「司令？ 何か心当たりでも？」 「いわゆる最後の手と言う奴だ」 車は向かう。見つけておいた郊外のラブホへと。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

ラブホにはマニュアルでもあるんだろうか。 明らかに訳ありの客でも普通に通してくれた。 「外観からは想像できませんが、普通に良いホテルですね」 「内装はな。おくつろぎ最優先の空間だし」 ただし大人限定だけどな。 #不知火に落ち度はない

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「司令。この部屋鏡張りなんですね」 「まあな」 「ベッドが円形なのは意味が？」 「意味はない」 「シャワールームがガラス張りですが」 「見やしない」 「陽炎に聞いてみて良いですか？」 「やめとけ」 テンション上がってないか、不知火。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

「ベッドには余裕がありますね司令」 「そういうのだけが自慢の施設だ。シャワー先に浴びるか？」 ベッドの上に荷物を広げ出す不知火。 ここで仕事する気満点らしい。 「司令がどうぞお先に。無線LANが生きてるのはありがたいです」 「しっかり暗号化しとけよ」 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

シャワーと言ったが、案外バスルームはしっかりしている。 二人が入って余裕サイズの風呂に、シャワーがひとつ。スケベ椅子ひとつ。 おまけにアヒル隊長がついている。 もうこれ普通のホテルだよなと、思いながら風呂にお湯をためだす。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

「おーい、不知火。風呂あるみたいだぞ？」 「そうですか。どうぞお先に」 不知火はベッドに寝転び、ノートPCとの会話を優先モードらしい。 こちらへの応答が生返事なのは忙しい証拠だ。 ラブホで仕事する人間を見るのは、なかなか珍しい光景で面白い。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

湯がだいたい溜まったところで体を熱めのシャワーで流して、風呂へ。 はあ。 身体の疲れが湯の中に溶ける。 災害対処は体力勝負になりやすいからな。 不知火もだいぶ疲れ溜まってんじゃねえかね。顔に出さないだけで、あいつも疲れるのだし。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

そんなことを思いつつ、のんびりつかる。アヒル隊長も一緒だ。 視界に入浴剤が目に入るがあれは罠。 つけるとお湯がスライム化するのでおすすめできない。 いや、正しく使うなら罠じゃなくて、大事なプレイアイテムだけれども。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

不知火は相変わらずPCの相手で微動だにしない。寝てるのかと思うほどだ。 何と無くガラス窓を叩いて合図すると、顔を上げてこちらを見た。 別に恥ずかしがっているわけではないらしい。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

「一緒に入るか？ 背中流してやるぞ？」 冗談でそう言ってやると、 「ご命令ならば」 と、大変無感動かつ興味も恥じらいもない表情で言い返してくる。 命令すんぞマジで。 洗いっこ待った無しで。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

そうして、風呂を堪能し終え身体を拭いて上がる。風呂はそのまま入れっぱなしにしておいた。 どうせあいつも入るだろし。 「上がったぞー」 一応シャツとスラックス姿だ。バスローブじゃないからな。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

「では私もお風呂いただきます」 「おう。覗きゃしない。ごゆっくり」 ノートPCを閉じて起き上がる不知火。 流石に着替えは持ってきてないらしい。 一方俺はさっき冷蔵庫からいただいたビールを飲みながら、スマホで野球でも見ることにした。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

「お風呂あがりました」 野球の効果すげえな。待ち時間の一時間程度あっさりと過ぎるなんて。 特にトラブルらしいトラブルもなく、不知火は俺の隣に腰を下ろす。 プシッと音がしたことを察するに、不知火もビールか？ いやどうせコーラか。あいつ酒弱いし。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

「風呂はどうだった？」 「広かったですね。司令と入れそうでした」 「今から入るか？」 「ご命令ならば」 冗談だ。本気にするな。 そう言いかけて、止まる。 おま。不知火。 何してんの？ #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

不知火の格好からまず突っ込もう。 「なんでお前バスタオル一枚なんだ？」 「風呂上がりだからです。それが何か？」 オーケー、保留。次行ってみよう。 「お前なに飲んでるの？」 「アルコール飲料です」 なぜ飲んでる？ 「不知火に落ち度でも？」 大有りだ。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

「あのな。不知火、こないだ酒懲りたんじゃないのかお前」 「ビールって美味しいですね、司令」 そうだな不知火。汗かいたときとか最高だな。 災害対処後なんて夢の飲み物だな。 だがお前さっき『苦っ』って顔しなかったか？ 本当に旨いと思ってねえだろ。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

「あっ」 両手で抱えるように持つ不知火から、すこっとビールを奪い取り一気に飲む。 ごっ ごっ ごっ ぷはー。 ビール最高。ジョッキもってこい。 「何をするんですか司令。不知火のビールです」 「お前んじゃない。お前はコーラにしろ」 抗議は却下だ。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

「で、そのフザけた恰好なんだ。女の子ならちゃんと服着なさい」 「男女差別ですよ、それ」 「男のファッションショーは誰も見ないからあってんだよ」 備え付け冷蔵庫から飲み物を取り出す不知火。 見えちゃいけないものがちらちら見えてる、気がする。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

「第一、裸で寝たら風邪引くだろ、お前」 「不知火は寝るとき服着ませんから」 マジか。野生過ぎるだろ不知火。 朝起こされてポロリとか…… と思ったがこいつの方が絶対先起きるから問題ないのか。 ぷし、と缶を開け中身をぐーっと飲み干し… おいそれビール！！ #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

今度は止められる距離ではない。 ごっごっごっご、と喉を鳴らして一気飲み。 牛乳感覚で飲み干していく不知火の姿。 バスタオル落ちるぞ、そんな仰け反ると。 「ビール美味しいですね司令」 「本気でそう思ってるか？」 また苦、って顔したくせに。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

「不知火はいつでも本気です」 「お前の本気はわかった。冷蔵庫閉じろ」 「飲み足りません」 顔が少しどころじゃなく赤い。 こいつビール1本ちょいで酔っぱらいやがった。 目の前でぷしっと音がして、またビールをきゅーっと一気のみ。 おいやめろ。倒れるぞ。 #不知火に落ち度はない