『「地球最古の生物」誕生と同時に死亡』という記事の不正確さについて(訂正あり)

このまとめの間違いや続報を含め、以下に訂正を描いておきます。 「「世界最高齢の動物」のまとめに関する訂正と続報」http://togetter.com/li/591852 下記文章は経緯を保存するためそのまま残しております。 http://japanese.ruvr.ru/2013_11_15/124440870/ 続きを読む
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このまとめに関する訂正のまとめ

まとめ 「世界最高齢の動物」のまとめに関する訂正と続報 先日まとめた「『「地球最古の生物」誕生と同時に死亡』という記事の不正確さについて」(http://togetter.com/li/590510)に関して、私自身の責任も含め間違いがあり、更に続報も加わったため、ここに謝罪して訂正いたします。 ちなみに日本語版Wikipediaの「アイスランドガイ」の記事(https://ja.wikipedia.org/wiki/%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b9%e3%83%a9%e3%83%b3%e3%83%89%e3%82%ac%e3%82%a4)にも、私が主執筆者としてほぼ同じ事を書いておきました。ただしWikipediaとtogetterはルールが違うので混同されないようご注意願います。 3696 pv 17

以下当時のまま

エビフライ@宇宙の人 @kiruria281

まずはこちらの記事をご覧いただきたい。 『「地球最古の生物」誕生と同時に死亡』 http://t.co/V8kRf6wTYv 11月15日3時57分に書かれたこの記事、私がチェックした時点で1627件のツイートがあり、大反響と言って差し支えないだろう。

2013-11-15 20:21:10
エビフライ@宇宙の人 @kiruria281

2chのまとめサイトにも転載されており、Twitterも2chもおおむね反応は「なんてかわいそうな事をしたんだ!」とか「人間のエゴの象徴」だとか散々な言われようである。しかしこの反応は、正直言ってこの記事があまりにも不正確な記述を行っている事に端を発している。

2013-11-15 20:22:35
エビフライ@宇宙の人 @kiruria281

以下の記述は記事を並行して読んでいる前提で書くのでその点をご留意いただきたい。まず、この記事にはアイスランドで採集された貝という記述があるが、いったい何の貝であるかという事が一切書かれていない。種とは言わず科や目レベルで書いてもよさそうなのにそれすらない。

2013-11-15 20:25:03
エビフライ@宇宙の人 @kiruria281

この貝の学名は「Arctica islandica」。英語名が「ocean quahog」であり、直訳すると「海ホンビノスガイ」となるの勘違いされるが、和名でのホンビノスガイとは科レベルで異なるまったく別種の貝である。

2013-11-15 20:27:53

上記ツイートに誤記「となるの勘違いされるが」→「となるので勘違いされるが」

エビフライ@宇宙の人 @kiruria281

Arctica islandicaは和名を「アイスランドガイ」と呼び、アイスランドガイ科に属する唯一の現生種である。日本では全く馴染みがないが、地元ではハマグリレベルでよく食べられる貝である。

2013-11-15 20:29:36
エビフライ@宇宙の人 @kiruria281

まずこのことで1つの事が言える。貝を「殺した」と書けばセンセーショナルだが、日常的に食べている貝を「(高齢だったのに)殺されてかわいそう」などというのは全くナンセンスで、人間のエゴなぞという意見こそエゴでしかない。あなたが貝の愛護団体会員ならば別だろうが。

2013-11-15 20:31:38

「でも500年も生きた貴重なサンプルを殺したのはまずいんじゃね?」という意見もありますが、この個体は市場に出回っている一般的なサイズであり、特別な特徴もないようです。したがって、貴重なサンプルかどうかは不明で、むしろ食卓でごく普通に食べている中にそういった高齢の個体がゴロゴロ混ざっている可能性はあるかと思います。

エビフライ@宇宙の人 @kiruria281

さらに言えば、この記事はひどい勘違いをしている。記事を見ると、生きている状態で調べて405歳、殺した後調べたら507歳だと読み取れる書き方をしている。西暦1499年生まれとは恐れ入る。有名な戦国武将、毛利元就より2歳だけ年下なだけである。

2013-11-15 20:36:15
エビフライ@宇宙の人 @kiruria281

ん?ちょっとまて、今年の記事なのに計算が合わないぞと思った方、その気づきは正しい。なぜなら、このアイスランドガイは2006年に死亡しているからである。実は最初の405歳という年齢は、2006年に貝殻と肉を分離して測定した結果判明した年齢である。

2013-11-15 20:38:09
エビフライ@宇宙の人 @kiruria281

実は最初の405歳という年齢は、2006年に貝殻と肉を分離して測定した結果判明した年齢である。貝の年齢は、貝殻の成長に伴って現れる木の年輪のような模様を数えることで判明するが、それを調べるにはどうしても肉をはがすしかないのである。その時点で貝は死亡する。

2013-11-15 20:39:08

コメント欄でご指摘の通り、上記の訳に一部間違いがありました。研究者は当初、この個体の年齢測定に、二枚貝の蝶番部分であるヒンジの部分を測定しようとしたが、それがうまく行かなかったので外側、即ち縁の合わさった部分で数えようとしたようです。この時、誤って必要以上に貝の肉体部分を傷つけてしまったが故に殻が開いて死亡してしまったです。最も、それを鑑みると、故意に開けようとして殺したというのは、研究の理屈関係なく積極的に殺すみたいな印象を抱かせるので一部違うような気がするのですが…

エビフライ@宇宙の人 @kiruria281

ではなぜ507歳になったかと言えば、炭素14と呼ばれる放射性物質の量を調べて、より正確な年代を測定したのである。炭素14を用いた年代測定法の説明は省くが、要は年輪では明瞭に見えない部分があるので、炭素14年代測定法がそれを補完したわけである。

2013-11-15 20:41:49

この文にも、元とした英語記事と論文の表記にずれがあることに由来する間違いがある(英文の訳自体は間違っていないがその英文自体が間違っていた)。
炭素14を用いた年代測定では、おおよその年代しか判明しない。それだけで正確な年代を割り出すのは無理がある。結局主体となるのは年輪を数える事であり、他の貝の年輪のデータ、および炭素14で推定した年代を掛け合わせることで正確な年代を算出している。
年輪自体は、木と同じく季節や海水温(地球の平均気温とかかわりがある)の変化により幅が変化する。気候変動があれば、その幅の変化パターンが別の個体や地域の貝でも共通してみられることから、逆算で年代の算出ができる。
アイスランドガイを用いた年輪の幅による古い時代の気候変動の推定は、古くは1868年(!)に374歳の個体を用いて行われており、1550年から1620年と1765年から1780年における小氷河期、および1815年のタンボラ火山噴火による気温低下を反映していたことが判明している。

エビフライ@宇宙の人 @kiruria281

つまり、記事にある「生きた状態で405歳と測定→殺して再計測→507歳と判明」の順が間違っているのである。正しくは「殺して405歳といったん判明→よく調べてみたら507歳でした」である。

2013-11-15 20:43:04
エビフライ@宇宙の人 @kiruria281

じゃあ研究者はなぜ、言葉を借りればそんな「かわいそうな」ことをしたのだろう?単に年齢を調べるだけでは道楽である。実は、貝殻を構成する炭酸カルシウムを使えば、古い時代の気候が判明するという研究手法があるのである。

2013-11-15 20:45:09
エビフライ@宇宙の人 @kiruria281

炭酸カルシウムは炭素・酸素・水素・カルシウムで構成されている。さて、図らずも原発事故で有名になってしまったが、元素には同じ種でも重さの違う「同位体」という仲間がある。セシウム134やセシウム137のような、元素名の後の数値は同位体の種類を表しているのである。

2013-11-15 20:46:56
エビフライ@宇宙の人 @kiruria281

全ての元素は同位体を持っており、特にいくつかの元素は天然でも複数の安定した同位体を持っている。そして、同位体が異なると、原子の重さがわずかに異なる。これは日常生活ではまったく気にならないレベルだが、化学反応や融点・沸点に少しだけ差をもたらす。

2013-11-15 20:49:06
エビフライ@宇宙の人 @kiruria281

貝殻を使った年齢測定の場合、酸素の同位体を使う。酸素が水素と結合して水となった場合、少し重い酸素と少し軽い酸素を含む水分子を考えると、重い方が軽い方と比べて蒸発しにくく、逆に雨となりやすい。このことは、重い酸素は海の方に、軽い酸素は山などの高所に移動しやすいことを示す。

2013-11-15 20:51:45
エビフライ@宇宙の人 @kiruria281

そしてここに気温が関わる。気温が下がれば、高所にある水は氷となって、雨や蒸発のような循環から切り離される。すると、軽い水は氷となって固定され、重い水ばかりが循環するようになる。これを取り込んだ生物の体は、重い酸素の量が気温が高いときと比べて増えるのである。

2013-11-15 20:53:05
エビフライ@宇宙の人 @kiruria281

貝殻は先ほど述べたように酸素を含むので、年輪ごとに酸素の同位体の比率を調べれば、その年の平均気温がわかるのである。しかも、2006年に死亡して年齢が507歳だとわかる、すなわち1499年から数えられるピンポイントに正確な資料はほとんどない。

2013-11-15 20:54:39
エビフライ@宇宙の人 @kiruria281

アイスランドガイが使われる理由は他にもある。アイスランドガイは機械ではなく生物なので、当然ながら若い頃と年寄の時があり、その時々で栄養分の摂取や殻の生成などに差が出るはずである。これは古気候の推定に影響を及ぼすはずである。

2013-11-15 20:58:50
まとめたひと
エビフライ@宇宙の人 @kiruria281

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