内藤正典・同志社大学大学院教授によるアルジェリア人質事件の背景解説
日本では、90年代の常軌を逸したアルジェリアでの内戦について正確に知っている人はほとんどいないから、マスコミがアルジェリアについて論評するのを聞いていると、ひどく紋切型で「知らないんだろうな」という印象を受ける。
2013-01-19 03:43:22アルジェリアは「イスラム過激派のテロと戦ってきましたから武装勢力を許さない」という解説を耳にするが、そういう表現をすると、アルジェリアが親米だったかのように聞こえることだろう。とんでもなくずれているが。
2013-01-19 03:45:09各国首脳の発言をみると、安倍首相のが最も平和的に見えるのは皮肉なことだ。しかし、日本はなぜ救援機を飛ばさない?解放された人たちや負傷された人たちを迎えるために
2013-01-19 13:07:34これまで何度も中東で日本人が取り残される事件が起きたが、その度に日本政府は救援機を飛ばさなかった。80年代のイラン・イラク戦争の時には、テヘランで取り残された邦人救出に日本の民間機は飛ばずトルコ航空が救出した。国民国家なら邦人救出は国家の責務。
2013-01-19 13:20:52一連の事件、仏軍マリ侵攻からアルジェリア人質事件に関する米国、英国、仏国などの報道をみていると、次第にアルカイダがアフリカに猛威を振るいつつあるから、力で掃討するのは正当だという方向に収斂しつつある。
2013-01-19 13:32:54だが、これはアフガニスタンにアメリカとその同盟国が侵攻したときに怒涛のような勢いで流布された反イスラム宣伝とよく似ている。当時も、アルカイダがテロを起こしタリバンは彼らをかくまっているから同様にテロリストであるという理屈でアフガニスタンは攻撃された。
2013-01-19 13:37:26アルジェリアの犯行グループをテロリストとするのは妥当としても、マリのイスラム勢力ごと叩き潰すことの正当性がどこにあるのか?フランスは、マリへの軍事介入を正当化するために、介入後に起きた人質事件を引き合いに出している。我々の介入は正当化されたとオランド大統領
2013-01-19 13:43:03アフガニスタンのときもそうだったが、マリについてもイスラム勢力の支配がいかに残虐かという記事がフランスのメディアのみならず日本のメディアにも並んでいる。窃盗容疑で手首を切断されたマリ人、朝日朝刊。事実なら報道するのはいい。
2013-01-19 13:51:46だが、住民の支持がないとイスラム勢力の統治が広まるはずはない。人々がなぜイスラム勢力を支持したのかー欧米や日本のメディアは報じない。イスラムを名乗る勢力を殲滅することは西欧的価値の優位を維持するために許されるというなら、世界は再び9.11の悲劇を繰り返すことになる
2013-01-19 13:57:442011年に始まった中東での民主化運動、チュニジアやエジプト、リビアで激しかったが、アルジェリアには波及しなかった。2012年にはアルジェリアで総選挙があったが、1960年代からずっと与党の座にあるFLN(国家救済戦線)が勝利。
2013-01-20 03:21:17その時も、どうしてアルジェリアでは「アラブの春」が起きないのかと、ずいぶん議論になった。結論的に言えば、1.90年代の内戦があまりに凄惨な殺し合いであり、その鮮烈な記憶が残る人びとは体制変革が再び殺戮をもたらすと危惧した、2.石油とガスの収入を公務員や中流層に還元した
2013-01-20 03:23:43いわば一方で「飴」を与え、他方で、「恐怖の記憶」を操ることで、ブーテフリカの政権は、隣国での市民運動のうねりを抑え込むことに成功した。この無言の弾圧は、当初、シリアのアサド政権も同じことを考えていたはずである。
2013-01-20 03:25:34しかし、シリアの市民は、南部のダラアという町で起きた治安機関による子どもの殺害に憤りの声をあげ、それが燎原の火のごとく広がって、今日の惨状に至った。
2013-01-20 03:26:43アルジェリア政府にしてみれば、今回のオペレーションを国際世論が称賛してくれると期待していることだろう。90年代の泥沼の内戦を制したこと自体、政権にとっては、「イスラム過激派テロ組織」の芽を早くも90年代初頭に摘み取った功績だった。
2013-01-20 03:28:509/11が起きた2001年より前にアルジェリアはすべて知っていたのだと。イスラム主義者の台頭はテロをよぶと。しかし、論理的にも、事実の点からも、これは誤りである。冷戦の崩壊で、ソ連のタガが外れたアルジェリアでも、複数政党制への移行を可能にする選挙をした。
2013-01-20 03:31:0590年代のはじめ、地方選挙に続いて総選挙を実施したら、イスラム主義者のFIS(イスラム救済戦線)が勝利した。それをFLN(国家救済戦線)が軍の力を頼りに潰した。フランスは暗黙のゴーサインを与えた。国際社会は、この理不尽な弾圧を非難しなかった。
2013-01-20 03:33:00その結果が、悲惨な内戦となったのである。イスラム主義者の側も、政治闘争では軍に勝てないから、地下に潜伏して激しい武装闘争を展開した。市民を標的にする殺し合いが、軍部、過激化したイスラム武装勢力の双方によって続いた。FLNの政権は、治安に絶対的な力をもつ軍にあやつられてきた。
2013-01-20 03:34:56その結果としてのアルジェリア政府と、その軍が、今回の人質事件の当事者なのである。武装勢力に対して、どう対処するか、それは事件が起きたときから明白だった。この種の事件について、私には、フランス政府が知らなかったとは思えない。
2013-01-20 03:36:54英国のキャメロン首相が「事前に情報がなかった」と不快感を示したことも、もちろん額面通りに受け取れない(英と仏はともに中東・アフリカを分割してきた植民地統治の主役である)が、英国が知らなくても、フランスは知っていなければいけないのである。
2013-01-20 03:38:47かつて、こういう明確な政治的意図をもって政権を攻撃する勢力は、「反政府ゲリラ」とよばれてきた。いまや、だれもゲリラと呼ばず、「テロリスト」と呼ぶ。違和感がある。ある人物や集団が「テロリスト」と規定されたら最後、誰も、それに逆らうことはできないかのように殲滅される。
2013-01-20 03:42:46テロリストを殲滅するのは一向にかまわないが、問題は、彼らが本当にテロリストなのかどうか、である。むろん、ガス田で人質となった人たちにとって、彼らがテロリストであったことに疑いの余地はない。
2013-01-20 03:44:22しかし、そのことと、テロリストを育てたのがアルジェリア政権と軍部の残虐な対応だったこととは無関係ではない。90年代以来、政権と軍が、イスラムを掲げて世直しを計ったFISを、市民の支持によって選ばれたFIS(イスラム救済戦線)を、残酷に力で壊滅させなければ、
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