■山本七平botまとめ/【「で」で食っても「を」で食うな】/日本社会から消えつつある「で」と「を」の峻別
- yamamoto7hei
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①【「で」で食っても「を」で食うな】トヨタ自動車が、利益が多すぎると新聞でたたかれたことがあった。 だが、その非難めいた口調はもっぱら金額の膨大さに向けられているだけで、トヨタ自動車が不正な手段で利益をあげたと非難しているのではないことに私は興味を感じた。<『「常識」の研究』
2012-11-27 01:57:41②問題は結局、何度読んでも額であって手段でなく、「皆が困っているこの不況下に……」といった調子。 ということは、額さえ少なければ問題にならず、紙面に登場しなかったということであろう。
2012-11-27 02:27:50③同じ傾向は政界の記事にもある。政治家がカネをもらっても、額が少なければ「別に何ということなく……」ですんで記事にはならず、額にかかわりなく、そのカネの入手を、あくまでも手段の当否から追及するという態度はみられない。
2012-11-27 02:57:41④…トヨタの記事を読み、上記のような事を考えている内に、私はふと晩年の内村鑑三にまつわるエピソードを思い出した。内村は金持の部類に入らなかったが…晩年の彼は「清貧なキリスト教伝道者一般」の水準からみれば、ずば抜けて裕福であり、完全に自立し、経済的には″独立採算制”を維持し、(続
2012-11-27 03:27:52⑤続>不採算の英文雑誌を刊行し、また他を援助できる能力まで持っていた。これらは勿論、当時としては破格の部数であった雑誌『聖書之研究』の収益…印税などによるもので、…こういう収入と無関係なキリスト教界の著名人と比べれば「不況下のトヨタ」に似た「目につく存在」だった。
2012-11-27 03:57:40⑥当時、内村のこの裕福を椰楡する狂句があり、ある座談の席でそれが話題になったとき、内村は「ぼくは聖書で食っているが、聖書を食ったことはない」といったという。 簡単にいえば、たとえ収入は多くとも「聖書を食いものにした」おぼえはないという意味であろう。
2012-11-27 04:27:54⑦内村は金銭において自己に対しては実に潔癖で他に対しては峻厳…その彼にとって外国のミッションから援助をうけている宗教団体は、理由のいかんを問わず「聖書の頒布や伝道を名目にカネを貰っている」という意味で聖書を食いものにしている、即ち「聖書を食っている者」と見たのであろう。
2012-11-27 04:57:43⑧そこには、たとえ額は自分よりはるかに少なくとも「聖書を食っている」にすぎない者が、「聖書で食って自立している」自分に何をいうか、といった気持もあったかもしれない。 内村におけるこの「で」と「を」の峻別は、プロテスタンティズムと武士的倫理に由来するものと思う。
2012-11-27 05:27:51⑨即ち、一方は「己が勤労により神より与えられたもの」だけが正当な収入で「人から与えられる」ものは不当な「もらい」として親子でもそれをしない生き方。
2012-11-27 05:57:41⑩もう一つは「武士は禄で食っても、禄を食ってはならない」、いわば武士という位置を利用して収入を得てはならないという考え方、この二つに由来するものと思う。
2012-11-27 06:27:51⑪トヨタが自動車「で」食い、政治家が政治「で」食い、新聞社が紙面「で」食うことと、 それぞれ「を」食うこと、即ち大メーカーの、政治家の、新聞社または記者の社会的地位を利用してカネを手に入れるということ、 この二つの違いはそれによって得た収入の多寡とは関係ない問題である。
2012-11-27 06:57:43⑫以上の「で」と「を」の峻別は、封建時代であれ資本主義時代であれ、そしておそらく社会主義時代であれ、ともに要請される倫理的規範であろう。
2012-11-27 07:27:56⑬「社会主義を食う人間の集団による社会主義体制」ができたら、それこそ一般人には耐え難いものとなるのであり、「連帯」のワレサ委員長がいう「コラプト(腐敗)の体系」とはそれであろう。 だが、その耐え難さは資本主義の時代とて同じはずである。
2012-11-27 07:57:40⑭そして、現代社会における最も大きな問題は、「で」と「を」の峻別という、体制の変化により適用の方法は違っても、規範の原則そのものは変化のない基本的な倫理性と倫理観の欠如、特にマスコミと教育におけるその欠如であろう。
2012-11-27 08:28:08山本七平の著作から名文・名言等を紹介しています。字数の都合上、元の記述を編集・追記・省略等したり、(続)で分割して続けたり、①②のように連続させている場合があります。また、字数に余裕があれば<の後に引用元の著作名を入れています。 作者:@yamamoto8hei 作者のブログでも山本七平を紹介中です。