浮気が発覚した旦那と激怒する妻を仲直りさせたミルトン・エリクソンの妙技
昨日のエリクソン研究会で扱った症例は大変に面白かった。浮気発覚後の夫婦カウンセリングの事例を二例扱ったのだが、どちらへの対応も見事である。
2012-03-30 09:02:39浮気発覚の場合、双方がやり直す意思を持っていたとしても、浮気をされた方は浮気をした方に対して強い怒りを持っている。そのままやり直そうとしても怒りが相手に向くために責めたり、攻撃したり、不機嫌さを向けることになる。これだと責められる方もうんざりしてしまって関係が壊れる。
2012-03-30 09:06:01そこで、浮気をされた方の怒りをうまく解消する必要がある。エリクソンはそのために儀式を使った。昨日のケースでは夫がメイドと浮気をした。エリクソンは以下のような指示を出す。妻はメイドに命じて夫の洋服をスーツケースに詰め込ませ、それを前庭に運び出させてぶちまけさせること。
2012-03-30 09:26:31次に、メイドに命じてそのぶちまけた服を再び部屋の中に戻す。それからまたスーツケースに詰めて前庭に運ばせてぶちまける。これを気が済むまで何度でも繰り返しやるように、と。
2012-03-30 09:28:13また、その前にエリクソンは夫に対して以下のような指示も出している。妻の前でメイドに対して徹底的に罵ること。また、メイドも夫に対して徹底的に罵ること。
2012-03-30 09:30:541.妻の前で夫とメイドを罵り合わせる 2.メイドに命じて夫の洋服を庭にぶちまけるという儀式を繰り返しやらせる 3.夫は家から追い出し、妻が許す気になったら呼び戻す 主にこの3点が介入の内容になる。
2012-03-30 09:32:441ではメイドを敵に回して夫と妻の連合を作る。メイドは妻に対しても日頃の不満をぶちまけているし、夫とメイドは妻のベッドで不倫をしたので妻のメイドに対する怒りも大きい。敵の敵は味方となり、夫と妻は手を組める。わざわざそのような状況設定をエリクソンは仕立て上げたわけだ。
2012-03-30 09:40:312は儀式の利用による怒りの解消をはかる。夫の洋服とは当然、夫のシンボルになる。夫を部屋から追い出すということを気が済むまで繰り返しやるわけだ。また、メイドにそういう不毛な作業を命じてやらせるところもポイント。不毛な作業をいいつけられたメイドは従わねばならない。
2012-03-30 09:44:07妻はメイドによって踏みにじられたと感じる自分の権力を取り戻すことができるし、夫への怒りのいくらかは、矛先を変えてメイドにぶつけられることによって解消されるであろう。メイドがこの作業に疲れ果ててぐったりする様子を見れば、妻の怒りもだいぶ減る。
2012-03-30 09:45:38気が済むまで何度でもやらせるというのもポイントだ。本人がうんざりして飽き飽きするまで儀式をやらせる。「怒るな」と周りから怒りの感情を出すことを止められると、人間はもっと怒る。しかし、「怒れ」「怒りをぶつけろ」「もっと!もっと!」と要求されると怒る気をなくしていく。
2012-03-30 09:47:06「怒れ!怒れ!」とカウンセラーがクライアントに対して積極的に指示を出して、クライアントの怒りの感情をなくしていくというのは、「症状処方」とか「抵抗奨励」とか「パラドックス」とか呼ばれている。エリクソンお得意の手法の一つである。
2012-03-30 09:48:44うん。「怒れ」という命令は目から鱗です。確かにどんな行動も強制されればイヤになるし、反対されると余計やりたくなるものだけど、ネガティブな情動も強制されるとやる気がなくなると言われると、はっとします。
2012-03-30 09:51:54@templa_3 エリクソンはこの手の指示が天才的にうまいんですよ。指示しても実行してくれないとうまく機能しなかったりしますしね。上手に指示に従わせるような関係性と状況設定をこさえてから、この手の指示を出すから抜群の効果を発揮します。
2012-03-30 10:51:10儀式による怒り感情の解消はエリクソンは息子たちの兄弟喧嘩を止めるのにも使っている。大きい兄が小さい弟をからかった。弟は怒って兄を殴った。兄はさらに弟をからかう。弟は憤慨して殴る。これがエスカレートしていった。そのとき、エリクソンは以下のような対応をした。
2012-03-30 09:52:21「お前たちは喧嘩がしたいのだな。ようし、十分に喧嘩をさせてあげよう。私の部屋に来なさい」エリクソンの部屋に呼ばれた息子たちは以下の指示を受ける。「兄は弟をからかいなさい。さあ。よし。では次に弟は兄を殴りなさい。うん。まだ喧嘩したりないだろう。もう一度繰り返しなさい」
2012-03-30 09:58:37「まだまだ足りないだろう。兄はもっと大きな声で罵って。弟はもっとしっかり殴らないと。ほら。」これを数時間やらせた。息子たちが野球の予定があるのでやめたいと言っても、「まだまだ全然喧嘩したりないだろう。しっかりやりなさい」と続けさせられる。
2012-03-30 10:00:14数時間後、ようやく息子たちは喧嘩の儀式から解放された。その後、息子たちはその件についてこういっていたようだ。「二度とオヤジの前で喧嘩なんてするもんか」と。
2012-03-30 10:01:053の妻からの許しが出るまでは夫は家に戻れない、という条件設定は、妻に自分に権利とパワーがあると感じさせる一方で、実は何よりも夫のためである。妻から許しが出て戻るときには、夫は過剰な非難を妻から受けずに済むからだ。
2012-03-30 10:04:27妻が自ら「夫を許そう」という気持ちになるまでは呼び戻さない、という設定にされている。多くの人はこういう件に関して受動的になる。「夫がひどいことをしたから、私はこんなに傷ついているの」という風に。
2012-03-30 10:06:19しかし、この条件設定では妻は能動的、主体的に「私は夫を許すわ」と思わなければ、夫が戻ってこられない。もし永久にそう思えないのであれば、実際、わかれてしまった方がいいであろう。妻はいつまでも夫を責め続けるからだ。そのような期間は夫と妻を切り離しておく。
2012-03-30 10:07:30夫が戻ってくるときには妻は自ら夫を許す決断が済んでいる。あとは二人で仲良く楽しく暮らすだけだ。その覚悟ができなければ夫を呼び戻さないからだ。
2012-03-30 10:09:04この事例にはいろいろな要素が詰め込まれており、非常に勉強になる。大変に面白い。数年前の読書会でこの事例を扱った時とはまた違う発見や気づきがあり、それがまた面白い。
2012-03-30 10:11:48「どちらにせよ、メイドはこの夫婦のもとでは働くことはできない。しっかりこの夫婦との関係を断って、他に行った方が幸せになれる。変な未練や甘えを残さないように夫婦対メイドで思いっきり対立しておいた方が良いのかもしれない」という視点だ。
2012-03-30 10:27:09『ミネルヴァと智慧の樹』(電撃文庫)で何故か作家デビュー。現在メディアワークス文庫から『桃の侍、金剛のパトリオット』シリーズ出版中(9/25に第二巻発売)。某大学講師(専門は西洋史、実態は万事屋)。人間観察集団「めんたね」鬼の副長(自称)。ロージナ茶会見習い。趣味は脳内巨大犬「定春」の脳内散歩と脳内理想国家の脳内運営。