古地図に描かれた一軒家

紀伊半島南部の山奥深く、古地図に描かれた一軒家への探索の旅路です。
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R774@まとめ屋 @kendou774

スレッドにします。 『古地図に描かれた一軒家』紀伊半島南部の山奥深く、70年以上前の古地図に一軒家が描かれる。そこは「とある名字」発祥の地だったというが、今、一軒家は地図から消え、当時を知る人も殆どいない。人々の記憶から消えゆく一軒家の今を確かめるため、『古座川町』に行ってみた。 pic.x.com/o0y7xxarwk

2024-09-24 20:39:54
R774@まとめ屋 @kendou774

古地図で紀伊山地を眺めている時だった。山々と谷間が入り組む険しい地形の中、『坪野』という地名とともに一軒の家屋が描かれていることに気づいた。最新地図では地名も一軒家も消えている。それでも、人里から離れた一軒家の存在に惹かれるものがあったのだ。今、坪野の一軒家はどうなっているのか。 pic.x.com/phu9fcyxyo

2024-09-24 20:41:32
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和歌山県南部に位置する古座川町。清流で知られる古座川に沿い、町の大部分を山間部が占める。かつては豊かな森林資源を活かし、材木の産地として栄えたが、現在は人口減少が進み、静かな時が流れている。町の中央には標高638mの笠置山がそびえ、その山腹の奥深くに『坪野の一軒家』があるはずだが… pic.x.com/qytvnd5c4f

2024-09-24 20:42:56
R774@まとめ屋 @kendou774

年の瀬も近づいたある日、一軒家のある坪野へと向かった。ネット上では坪野に関する情報はほぼ皆無で、坪野までの道筋もはっきりしない。そもそも、地理院地図から坪野に関する情報が一切消えているのだ。唯一、和歌山県森林基本図に山道の情報が描かれていた。はたして坪野に辿り着けるのか。 pic.x.com/mqgdu6yr6i

2024-09-24 20:44:37
R774@まとめ屋 @kendou774

『鳥の小森』 耕作放棄地が白い平原と化していた。林道脇に車を止め、小径に入り込む。程なくして数軒の空き家と耕作放棄地が現れた。旧河道に形成された「鳥の小森」という集落で、約40年前に無住化している。なんとも素敵な名前だが、ここは坪野への入口であり、長い道程のスタート地点に過ぎない。 pic.x.com/eybo2f33wb

2024-09-24 20:46:32
R774@まとめ屋 @kendou774

今から登る尾根を眺める。鳥の小森集落から尾根伝いに笠置山へ向かい、標高点516mから南方向の谷へ降りていくことにした。地理院地図に記載のない道筋だが、和歌山県森林基本図には記載があり、尾根も緩やかなので大丈夫なはずだ。確かに、集落外れに笠置山方向へ伸びる山道がある。これを辿ってみた。 pic.x.com/mnjry97on1

2024-09-24 20:48:01
R774@まとめ屋 @kendou774

意外にも、山道は整備されていた。斜面を登りきるまでは足元の怪しい箇所もあったが、尾根に登ってしまえば快適そのものだ。時には山道に従い、時には山道から外れて、適当に尾根を登っていく。約80分で標高点516m近くの峠まで来た。ネット上に山行記録があるのはここまでで、先は未知の領域だ。 pic.x.com/8mzoj8p9kt

2024-09-24 20:50:04
R774@まとめ屋 @kendou774

峠からは南方向の谷へ降りていく。山道も同じ方向へと向かっている。谷間は広く、奥まで日差しが入り込む。暫くして谷を塞ぐ大規模な石垣が現れた。下流に向かって何段も続いている。田圃跡だ。古地図で坪野に田圃記号があることは知っていたが、これだけ山奥に田圃を作っていたとは驚きだった。 pic.x.com/yiqdqiupuz

2024-09-24 20:51:43
R774@まとめ屋 @kendou774

『坪野』 鳥の小森から約100分。坪野に辿り着くことができた。山々に囲まれた広い谷間は、深く窪んだ野原(いわゆる坪)に見える。まさに、坪野という地名が示すとおりの地形だった。当時は広い谷間と谷の流水を利用して、多くの田圃を作っていたようだ。そして古地図の一軒家はこの辺りだが… pic.x.com/7grc6gmblj

2024-09-24 20:53:11
R774@まとめ屋 @kendou774

一軒家が見つからない。古地図が示す場所に一軒家は無かった。周辺も探すが一軒家は見つからない。無住化から相当経っているので、家屋跡すら消えたのだろう。そう納得した……が、やはり心惜しい。諦めきれずにウロウロしていると、田圃跡に黒いホースが出てきた。続いて、空き瓶や茶碗も出てきた。 pic.x.com/jytjrrctns

2024-09-24 20:54:19
R774@まとめ屋 @kendou774

『坪野の一軒家』 いつまで経っても見つからない訳だ。一軒家は古地図に描かれた場所ではなく、谷からやや離れた石垣上に見つかった。家屋は残っていないが、敷地、石垣、基礎の規模から、大きな家屋が存在していたことは間違いない。家屋跡には風呂釜とポリバケツが残され、脇には酒瓶が転がる。 pic.x.com/af0lqzhdkk

2024-09-24 20:55:53
R774@まとめ屋 @kendou774

一軒家から耕作地を眺めた。殆どが田圃跡で、耕作面積は広い。他に家屋跡は見当たらず、坪野にあったのは古地図通りに一軒だけのようだ。居住に関する歴史ははっきりしないが、ポリバケツの存在と航空写真から、一軒家が無住化したのはS.30年代前半と考えられる。では、いつから一軒家が存在したのか。 pic.x.com/i4neywryx0

2024-09-24 20:57:32
R774@まとめ屋 @kendou774

古座川町に分布する『とある名字』こと『坪野』という名字は、この坪野が発祥の地と言われる。坪野が属する大字大桑は地名=名字であることが多く、信憑性は高い。また、坪野という名字は、明治初期には近隣地区で複数軒見られることから、坪野の一軒家は江戸時代以前から存在したと考えられる。 pic.x.com/8mmeyat4vl

2024-09-24 20:59:03
R774@まとめ屋 @kendou774

一軒家を確認できたので、今まで通ってきた山道を引き返す。実は、坪野への山道はかつての往還で、古座川町成立以前には、小川村と七川村を結ぶ村道として拡張された過去を持つ。坪野には往還があり、森林資源があり、耕作地を作れる環境もある。山奥とはいえ、人が暮らせる場所だったのだ。 pic.x.com/8mrn4jodec

2024-09-24 21:02:03
R774@まとめ屋 @kendou774

人里に戻ってきた。坪野の一軒家に辿り着くことはできたが、一軒家について確実に分かっていることは、明治中頃の山林売買記録から坪野家が山林を所有していたという事実くらいだ。文献調査や聞き取りを進めて、さらなる情報を得なければならない。しかし、それは想像以上に困難だった。 pic.x.com/ck1zht60zs

2024-09-24 21:03:34
R774@まとめ屋 @kendou774

一軒家の情報はおろか、坪野に関する情報は郷土史に載っていない。聞き取りしようにも近隣地区も無住化が進み、聞き取りできる人もいない。望みをかけて古座川町に通い続けた。幸運にも、二家族の方にお会いすることができた。大桑出身のTさんご家族と、成川に住んでおられるNさんご家族だ。 pic.x.com/dxnhegnbwz

2024-09-24 21:04:51
R774@まとめ屋 @kendou774

毎週のようにニ家族のもとへ通い、当時のことを伺った。ニ家族は大変親切にしてくださり、様々なことを教えてくださった。ただ、近年になって成川に住む坪野関係者の方が亡くなり、二家族も坪野に関してはそれほどご存知ではないという。『途切れた歴史の記憶は戻ってこない』その言葉が頭に浮かぶ。 pic.x.com/ug9ahgvn00

2024-09-24 21:06:04
R774@まとめ屋 @kendou774

坪野の一軒家、及び周辺地区のことについて、Tさんご家族とNさんご家族に伺った内容をリンク先のPDFファイルに纏める。(Googleドライブ:27.0MByte) drive.google.com/file/d/1aOIF3g…

2024-09-24 21:06:57
R774@まとめ屋 @kendou774

時は過ぎ、Nさん宅に最後のご挨拶に伺った。奥さんは『あなたに見せたいものがある』と仰る。綺麗な石だった。『昔、笠置の坪野のところで、こんな宝石が出たんですよ。今は分からんでしょうし、無いでしょうからね』まだまだ知られていない歴史は山ほどある。今残さなければ消えてしまうだけだ。 pic.x.com/id3elqkqb8

2024-09-24 21:08:22
R774@まとめ屋 @kendou774

人々の記憶から消えかけていた一軒家。古地図に描かれた一つの記号がその存在を呼び覚まし、埋もれた歴史を掘り起こすきっかけを与えてくれた。『古地図に描かれた一軒家』それは単なる地図上の記号ではない。過去を伝える大切な手がかりであり、失われつつある歴史の一端を今に繋ぎ止める存在だった。 pic.x.com/xjhglp66ke

2024-09-24 21:09:23
R774@まとめ屋 @kendou774

以上で坪野の一軒家についてのツイートは終わりです。坪野の一軒家に関する聞き取りにて大変お世話になりましたTさんご家族、Nさんご家族、そして坪野訪問にあたり、資料を提供いただく等、多方面でご協力いただいたシャープ路さん@1Taba2Yama3Muraには、この場をお借りしてお礼申し上げます。 pic.x.com/nc2ojbqc9t

2024-09-24 21:11:11
まとめたひと
deno_78 @deno_78

氷河期世代エンプラ系雑用SE、松阪市在住。 Groovy使い。インフラから設計、開発まで浅く広くやってます。 AtCoder:永遠の茶色 デュエプレでは5cコン、スト6はCマリーザでプラチナ民、元ミトラスフィア殴り聖、昔は図書部とかLaBombaの部長やってたこともありました