歴史学『「原因=なぜ・why」を問うのか、「過程=いかにして・how」を問うのか』……2つの問いは別の方向へと向う。
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歴史学は「原因=なぜ・why」を問うのか「過程=いかにして・how」を問うのか。第一次世界大戦の開戦原因についてのクリストファー・クラーク『夢遊病者たち』2012年(18〜19頁)の説明が秀逸だと思ったので紹介します。
2022-09-03 21:18:18「本書は、なぜこの戦争が起こったのかを、いかにしてこの戦争が訪れたのかほどには問題としない。なぜという問いと、いかにしてという問いは論理的には分かち難いが、二つの問いは別の方向へと向かっていく。」
2022-09-03 21:18:18「「いかに」という問いは、一定の結果をもたらす一連の相互作用を間近で観察するよう、我々をいざなう。・・・「なぜ」という問いは、帝国主義、ナショナリズム、軍備、同盟、巨額の融資、国民的名誉の思想、動員の力学といった、ばらばらのカテゴリー別の諸要因を分析するよう、我々をいざなう。」
2022-09-03 21:18:19「「なぜ」からのアプローチ・・・では、原因となる圧力が着実に作り出されるという幻想が生まれる・・・政治的アクターは、長い時間をかけて築かれ、自分たちの統制を超越した権力の執行者に過ぎなくなる。」
2022-09-03 21:18:19「本書が語る物語はこれとは反対に、何らかの作用を及ぼした人物たちで満たされている。主要な意思決定者たち——国王、皇帝、外務大臣、大使、軍司令官、そして何より下位の官吏たちの一群——は注意深く計画的に、一歩また一歩と危機に向かって歩んでいった。」
2022-09-03 21:18:20「戦争の勃発は、目的意識を持つ政治的アクターによってなされた決定の、連鎖の極地であった。彼らは自己省察を行う能力をある程度まで備えていたし、多岐にわたる選択肢を認識しており、手に入る最良の情報を基礎にして最良の判断をおこなっていた。」
2022-09-03 21:18:20以上の引用においてクラークは、さまざまな構造的要因を列挙して開戦原因とみなすことで、政治的な行為主体の役割が無視/軽視されること(ひいてはそれらの人物の責任が免責されてしまうこと)を懸念しています。これは非常に重要な視点だと思います。
2022-09-03 21:18:20これは「歴史の流れ」を諸事象の原因とみなすことはできない、と言い換えることもできるでしょう。「歴史の流れ」という言い方は容易に「しかたなかった」「やむをえなかった」「当時はそれが当たり前だった」という認識を生み、当時の(公衆を含む)行為者の役割=責任を見えなくするからです。
2022-09-03 21:18:21アカデミックな歴史学は、状況ではなく人を主語にします。もちろん状況=構造の理解は大切です。しかしそれは、誰が/どんな集団が、どう考え(当時の人々の構造認識も含みますね)、どう行動したのか、その帰結はなんであったのかを、史料に基づき精緻に考察する先に見えてくるのだと思います。
2022-09-03 21:18:21読売新聞で紹介されてて面白そうなんだけど… めちゃくちゃ高いね 戦争はどっかの悪者が一方的に始めるような単純なことではないよ、みたいな --- 『夢遊病者たち 1――第一次世界大戦はいかにして始まったか』 クリストファー・クラーク amzn.asia/2Eajw6V pic.twitter.com/APV2hXwQAg
2017-04-24 15:46:07歴史に「なぜ」という問いを立てると、宿命論になってしまうおそれがあるよ(要約)とのこと。 twitter.com/HarukiInagaki/…
2022-09-04 07:35:18中1の最初の理科の授業、君たちはこれからHOWを学ぶ、 科学ではWHYはわからない、みたいな言葉を冒頭で言われたことを思い出す。 40年前なのでうろ覚えだが、大切な指摘だったと今でも時々思い出す。 twitter.com/HarukiInagaki/…
2022-09-04 12:47:53なぜ?をベースにすると「アクターの意図」や「アクターの思想」がクローズアップされすぎて、その他の要素が見えにくくなるのだよなと。 twitter.com/harukiinagaki/…
2022-09-04 13:22:34歴史はこうだからこうなった、なんて言えるほど単純なものではないはず。歴史はあくまで様々な思惑が絡み合った結果、たまたま作られるものであり、「歴史の流れ」という言葉は歴史を構成するに至った直接のファクター以外を無視して、恣意的に歴史を単純化することになってしまう。 twitter.com/HarukiInagaki/…
2022-09-04 11:10:51大事な指摘だなあと思います。 奴隷制、植民地支配、アパルトヘイトなど、今日では否定されているさまざまな過去の事象について考える時、大状況の構造だけで説明すると、それらを日々支えていた人たちの意思決定を軽視し、免責することにもつながってしまう。歴史をどう記述、説明するかは本当に大事 twitter.com/HarukiInagaki/…
2022-09-04 04:55:12非常に興味深いです。 「なぜ」の問いが計量系の因果推論の研究に独占されていくのはよくないと思っているので、改めて「なぜ」の問いを歴史学から考えるのは重要な仕事だと思います。 twitter.com/harukiinagaki/…
2022-09-03 22:40:51歴史学といっても幅広いですが、個人的には「いかに」の問いとそれを示すファクトのつみあげの先に「なぜ」が透けて見えてくるように思います。 twitter.com/harukiinagaki/…
2022-09-03 22:23:20というわけでクラークに刺激されていろいろ書きました。「歴史の流れ」という言い方は宿命論的で、達観あるいは諦めを生みがちですが、人間の行為の先にできてくるものだという認識は大事ですね。
2022-09-03 21:18:22素晴らしい歴史学研究ガイドの紹介。「歴史学は過去の人びとの「選択」を理解しようとする」、「当時の人々の眼で見よう」、「テーマを絞る時に大事なのは事例とする人物を決めること」、「知ってることばかり出てくるようになったら調査の止め時」とか、いちいち膝を打つ。 press.princeton.edu/books/paperbac…
2021-10-08 01:17:12『#槍は叩くもの』とググると検索1ページ目の約半分、4つのマトメ記事を書いたおじさん。 巧くも強くもないのに、軍をひきいて将として戦ったり、プロ格闘家さんと甲冑組討ちを何度もしたり、合戦の記事を書くのに体はったんだよなぁ。 // 過去のお仕事★ 映画・刀剣乱舞に脇役出演w 映画・刀剣乱舞・大展示会(伊勢)の広報を担当 日本甲冑合戦之会の広報奉行